「はい、江利子さま。あーん、してください」
「あーん」
「……美味しい、ですか」
「もちろん」
昼休みの薔薇の館、江利子と志摩子は二人でランチをとっていた。「あの日」以来、こうして二人きりの時は志摩子がかいがいしく食べさせてくれる。さすがに、「口移し」というのは恥じらいもあってそうそうやらないが、それでもお弁当の締めには口移しで江利子に食べさせてくれる。もちろん江利子は、料理と共に志摩子の唇も堪能する。
今日も今日とて、最後の最後に口移し。志摩子は江利子の首に手を回し、体を密着させ、唇を押し付けてくる。江利子は舌で志摩子の口内を味わい、尚且つ柔らかな体の感触も堪能する。
志摩子は名残惜しいのか、いつまでもなかなか口を離そうとしないが、やがて勿体ないような、切ないような表情をしてゆっくりと離れる。すると、自分のしていた行為が急に恥ずかしくなるのか、真っ赤になって俯き、あわてて後退する。
病み付きになっているけれど、それでもどこか恥じらいを持っていて、欲望に完全に素直になることは出来ない。人ならある意味当たり前のことだが、志摩子が見せるそんな姿はやけに新鮮に映って見えるものである。
そんな感じで志摩子といい感じになっていく中ではあったが、江利子はそろそろ新たな刺激に飢えてきていた。
のんびりとお弁当を食べているのは、それはそれでもちろん楽しいのだが、のほほんとしすぎている気がするのだ。もっとこう、大人しくて聖女のような志摩子の異なる顔を見てみたいという欲求もある。
だが、何をしたらよいのか。
「ああ……憂いを帯びている黄薔薇様も素敵ですわぁ」
(……たとえば、志摩子のおっぱいにバナナを挟んで食べさせるとか……)
憧れのまなざしで江利子を見つめている下級生には申し訳ないが、脳みその中はどうしようもない低レベルなことで満たされていた。
なかなか良いアイディアも思いつかないまま時間は過ぎ、授業を終えて午後になった。授業を受けつつ窓の外を眺めていると、ちょうど志摩子のクラスが体育の授業でグラウンドに出ていた。苦労することもなく、志摩子の姿を見つける。明らかに他の子と身に纏っているオーラが違う、なんていったら惚気だろうか。自分自身、随分と志摩子に入れ込んでいるものだと呆れそうにもなる。
教師には悪いが、授業よりも外の方が気になってつい、ちらちらと見てしまうのだが、そうしているとグラウンドの方で何やら動きがあった。
「…………!?」
グラウンドに目を向ける。顔を正面に戻し、教師と黒板を見る。考えるまでもなく、江利子の手は上がっていた。
「――すみません。ちょっと気分がすぐれないので、保健室に行かせてもらえないでしょうか」
うまいこと教師とクラスメイトを騙し、ついてこようとする保健委員を押しとどめ、一人で教室を出ることに成功する。授業中ということだけあって廊下に人の姿はないが、それでも慎重に、具合の悪そうな感じを装って進む。
やがて、目当ての保健室に到着する。
「失礼します」
中に入ると独特に雰囲気と匂いに包まれる。
「あら、どうかしたの?」
養護教諭である保科栄子が白衣姿で立っていた。ウェイブのかかった髪をバレッタでまとめた姿は、いつみても素敵だ。ファンの子が多いのも頷ける。
「すみません、ちょっと具合が」
「悪そうには、見えないわね」
にっこりと微笑む栄子。あっさりと見破るところはさすがということか。残念ながらここまでか、と思ったところ、ため息をついた栄子が江利子の肩を軽く叩いた。
「……私、ちょっと用事があるので少し出てくるから。具合が悪いなら、勝手に休んでいなさい」
「栄子先生」
「――ベッドを汚すようなことはしないようにね」
耳元で囁くように言うと、肩をすくめて栄子は保健室を出て行った。
敵わないと思いつつも感謝して、保健室内に張られたカーテンをそっとめくると、思った通りの人がベッドに腰掛けていた。
「江利子さま……」
「やっぱり、ここにいたのね志摩子」
ちらりと見ると、素足となった足首に湿布が貼られている。
「ふふ、窓からね、志摩子が転んだところが見えたから」
「やだ、見ていたんですか」
恥ずかしそうに、志摩子が頬を朱に染める。
「捻挫? 大丈夫なの?」
「はい、そんなにひどくないですから。私、運動神経が鈍くて……江利子さまは、どうしたんですか?」
「窓から見ていたって言ったでしょう? 志摩子が心配だったからに決まっているじゃない」
「あ、ありがとうございます。でも、今授業中では」
「授業よりも、志摩子の方が大事」
言い切ると、志摩子は更に顔を赤くして俯いてしまった。
そんな志摩子を見て、江利子は萌える。
何せ今の志摩子は体操服姿。半袖のシャツにスパッツ、捻挫をしたから靴下も脱いで素足、髪の毛は後ろでまとめている。学校では制服姿しかほとんど目にしないだけに、非常に新鮮だった。
志摩子の隣に腰をおろし、まじまじと見つめる。志摩子は江利子の視線を感じていたたまれないのか、落ち着かない様子。
「……そうだわ。私、具合が悪くて保健室に来たの。少し、休んでもいいかしら」
「あ、はい、もちろんです。ごめんなさい、私」
ベッドから退こうとする志摩子の手を掴む。
「気分がすぐれないから、気分を良くしたいのよね」
「はい、ですから横になられて休まれた方が」
「でも、この枕って少し硬くて、私に合わないのよね」
憂鬱そうに首を傾げる江利子。
「……ねえ、志摩子っておっぱい大きいわよね?」
「へっ? な、なんですか、いきなり」
「制服の時は分かりづらいけれど、こうしてシャツになると分かりやすいわよね」
体操着姿の志摩子の胸は明らかに盛り上がり、名札が歪んで『藤堂』の文字が分かりづらくなっている。
「志摩子のおっぱいを枕にしたら、柔らかくて気持ちよさそうよね?」
にっこりと志摩子に笑いかける江利子。
「…………は?」
目が点になる志摩子。
「だからぁ、志摩子のおっぱいを枕にして寝ることが出来たら、私もとても気持ちよくなれると思うのよねぇ」
胸の前で手を組み、可愛らしくおねだりしてみせると、志摩子は「ぐっ」と詰まって反論できなくなる。
「で、でも、そんなことどうやって」
「大丈夫、大丈夫、ほら、志摩子はちょっとそっちに移動して」
ベッドの上に志摩子をあげると、枕を取り除いた場所に座らせる。ちょうど後ろが壁になっているので、壁に背をよりかかるようにして志摩子を座らせると、江利子は志摩子の脚の間に入り込み、志摩子の胸に後頭部をもたれかけさせる。
「ひゃん? え、江利子さまっ」
「おーっ、これは、なかなか」
志摩子に抱かれるようにして力を抜く江利子。
「ん~、いい感じ」
「はぁ……」
どう反応したらよいか分からないような返事。
「うーん」
「ど、どうしました」
一旦、体を起こして正面から志摩子を見つめる。怯えたような、不安そうな志摩子を見ていると、むずむずしてきて抱き着いた。
「え、あ、あのっ?」
そのまま、体操服の中に手を忍ばせる。
「え、あ、あのっ、ダメです江利子さまっ!?」
もちもちとした肌、しなやかな背中の感触に指を這わせると、もじもじと志摩子は身動きをする。だが、江利子はがっちりと抱き着いて離そうとしない。
首筋に吸い付き、軽く歯を立てる。
「う……ぁあ」
切なげな吐息をつく志摩子。
ゆっくりと、身を離す。
「あ、あの、江利子さま、いったい……」
突然のことに驚いている志摩子の前に、手にしたものをぷらんとぶら下げて見せる。それを見て、志摩子は目を見開いた。
「え、えっ!?」
ついで、慌てて両腕で胸をかき抱く。
江利子が手にしていたのは、志摩子のブラジャーだった。
「うわ、これ何カップ? 大きいわね、志摩子」
まじまじとブラジャーを見つめる江利子。
「なななな、何するんですか江利子さまっ!? か、返してください」
「いやー、なんか感触がね、ごわごわっとして。これならどうかと思って」
志摩子の抗議など聞こえないふりをして、江利子は再び志摩子の胸を枕にするようにして凭れ掛かった。
「……!? 凄い、全然違う!」
「ふぁんっ」
ブラジャーを外した志摩子の胸にシャツ一枚だけを通して頭をのせると、全く異なる感触が江利子の頭部を包み込んだ。
「はわ~、これはいいわぁ」
「はわわわわっ、え、江利子さまっ」
「極楽、極楽」
「あ、あんまり動かないでください……んっ」
江利子が横を向くと、それにつられて志摩子の胸も押されて形を変える。シャツ一枚を通して肌の温もり、柔らかさが頬に伝わってきて、うっとりとしてしまう。
「おっぱいマウスパッドってあるけれど、これならおっぱい枕の方がいいんじゃないかしら?」
「な、何のこと……ふぁ」
「シャツ越しでこれだけの気持ち良さなら……直だったらもっと凄いのかしら」
「直……って、え、ええっ!?」
江利子のとんでもない発言に、志摩子は動揺する。そうこうするうちにも江利子が身を起こす気配を感じ、このままでは直おっぱい枕にされてしまうと思い、どうにかしようと咄嗟に両足で江利子の腕ごと体を挟み込んだ。蟹ばさみである。
「志摩子?」
「え、江利子さまばかり、ずるいです。わ、私も……」
「ちょ、志摩子、何を、やっ……!?」
志摩子はそのまま手を江利子の制服の胸元に突っ込んだ。狭く窮屈ではあるが中を這い進み、ボリュームのある二つの膨らみへと辿り着く。
「志摩子、ちょっと、離して……」
逃れようとするが、がっちりと両足でホールドされており、江利子は動けない。
ごそごそと江利子の制服内を探っていた志摩子は、何かに感づき、もう片方の手まで中に入れてしまう。
「あ、ちょっ、やっ」
「江利子さま、今日はフロントホックだったんですね」
中では、江利子のブラジャーが外されており、志摩子の手が直に江利子の胸を掴んでいた。
「江利子さまの方こそ、こんなに大きいじゃないですか……江利子さまのおっぱい枕の方が、気持ちよさそうですよ?」
「あん、そんな風に揉んだりしたら……あぅ」
じたばたと動くが、志摩子にきっちり固められていてどうにもならない。
それどころか。
「ああ、ほら江利子さま。あんまり暴れるから、素敵なおみ足が」
「えっ? あ、や、やだっ」
現在、江利子が動かすことができるのは下半身のみ。それで足をバタバタさせていたためか、いつの間にかスカートが捲れあがり、むっちりとした太腿が露出していた。しかも、自由に動けないからスカートを戻すことも出来ない。それどころか、どうにかしようともがくほどにスカートがずり上がっていく。
「江利子さまったら、そんなにあわてなくても……手伝ってあげますね」
胸元から抜いた腕を伸ばしてスカートの裾をつまむと、志摩子はそのままそろそろとめくりあげていく。
「な、何考えているの、志摩子」
江利子の声を無視し、ローウエストであることも構わずに、とうとう江利子は下半身丸出し、お臍まで見えそうな姿にされてしまった。パステルピンクのショーツに、肉感的な太もも、白いソックス。
「素敵です……江利子さま」
志摩子は恍惚とした瞳で江利子のことを見下ろしていた。
このままでは本格的にまずいと思うが、江利子にしてもどうしようもない。志摩子の手が再び胸元に差し込まれようとして目を閉じた瞬間、不意に志摩子の脚による拘束が緩んだ。
「痛っ……」
どうやら捻挫した足が痛むようだった。その隙を見逃さず、江利子は志摩子の束縛からすり抜けると、志摩子をベッドに押し倒した。
「いけない子ね、志摩子は。そういう子には、こうだから」
そういうと江利子は、志摩子の股に頭を乗せた。股枕である。更に今回は反撃を受けないよう、捻挫した志摩子の足首を握っている。
「あら、これもなかなか」
江利子自身、制服の乱れを直す暇もなかったので、ショーツが見えそうなくらいの状態で志摩子のスパッツの股ぐらを枕にしている姿は、はっきりいって変態的である。
「志摩子、汗かいているの? ふふ」
「あ、あ、駄目です江利子さまぁ」
頭をぐりぐり動かすと、切ない吐息を漏らす志摩子。調子にのった江利子は体勢を仰向けに変え、顔を股間に埋め、鼻の頭を押し付ける。柔らかく、熱い。
「そんな、江利子さま……うぅっ」
「むっ!? う、ん、くっ」
刺激された志摩子は反射的に足に力が入り、太ももで江利子の頭を挟みつけた。顔の前面を志摩子のスパッツで覆われた江利子は呼吸を塞がれ、逃れようともがくが、そうすると志摩子に刺激を与えることとなり、締め付けは更にきつくなる。
苦しいけれど、堪らない。江利子はそんな状況の中、生命の危険を感じた。
このままでは窒息死という笑えない事態になりかねない。だが、顔を締めつけている力は強く、柔らかな太ももは吸い付くように包み込んできていて一片の隙さえ見せない。
こんなところで死ぬのか、いや死ねない。最後の最後まで希望を捨てず、諦めず、足掻いてみせる。そんな江利子に、奇跡が起きた。
「――――ッ!!!」
ガクガクと激しい揺れが襲ったかと思うと、次の瞬間にふと圧迫が緩んだのだ。慌てて顔を引き上げ、新鮮な空気を吸い込む。どうにか助かったと、一息ついて目を開けてみると。
「…………志摩子?」
上気してどこか呆けたような表情の志摩子が、ぐったりと弛緩した体をベッドに横たえて、荒い呼吸で喘いでいたのであった。
☆
衣服を整え、ベッドのシーツを正し、ふらふらしてまだ立つことの出来ない志摩子を支えるようにしてカーテンの外に出ると、ちょうど栄子が戻ってきたところだった。栄子は江利子と志摩子、二人の様子を交互に見て呆れたように肩をすくめる。
「まったく、薔薇様ともあろう鳥居さんが……」
「な、なんですか。志摩子がまだ歩くのが辛いようなので、肩を貸してあげているだけですけれど」
「藤堂さんの足は、歩けないほどではないはずですけれどね。今の藤堂さんは、足というよりも、腰が立たないように見えますけれど?」
「気のせいではないでしょうか?」
説得力がないとは思いつつ、そう言うしかない。江利子はこれ以上、変なことを訊かれないうちにさっさと保健室を出ようと思ったが、志摩子がいるのでなかなかそうもいかない。というか、志摩子はまだベッドに寝かせておけば良かったと今更思う。
「……この匂い、分かるものよ、教室に戻る前に時間を置きなさい。まあ、ベッドは汚していないようだけれど」
「あは、あはははは……」
苦笑するしかない。
志摩子に肩を貸しながら更衣室に到着する。もう間もなく、授業も終わろうかという時間だ。
「……江利子さま」
更衣室内に置かれている簡素なベンチに腰掛けさせた志摩子が、ぼんやりとした目で江利子のことを見上げる。
「ん、大丈夫、志摩子?」
「はい、ご面倒をおかけしました」
「いいのよ、悪いわね、なんか余計に疲れさせちゃったかもね」
「いえ……とても、とても心地よかったです、江利子さまの『おっぱい枕』。また今度、一緒にお昼寝してくださいますか……?」
「そうね、それもいいわね」
身を翻し、他の生徒が来る前に更衣室を出ようとしたが、志摩子にスカートをつままれて立ち止まる。
「どうしたの?」
「あの……出来れば、お、お別れのちゅうを……」
赤くなり、こっそりと上目づかいで懇願してくる志摩子が可愛くて、江利子は頷く。そのまま身を屈め、志摩子の唇を奪う。
「んっ……」
夢中になる志摩子。完全にキスの虜になった、と思った次の瞬間。
「っ!?」
いきなり志摩子の手が、江利子の制服の胸元に無理やり入り込んできた。下着の下に遠慮なく滑り込んできて、慌てて離れようとしたが、江利子が身を引く前に志摩子の手のひらが、指が、江利子の胸の敏感な先端を弄り、力が抜ける。
舌を吸われ、志摩子の舌が口内に侵入してきて口腔を、歯茎を、貪るように舐めまわしていく。
倒れそうになり、慌てて壁に両手をついて体を支えるが、それにより江利子の両手は自由が利かなくなる。
志摩子の手も指も舌も唇も、止まることなく動き続ける。
「んっ、ん~~っ、くっ、んくっ、んっ、んっ、んっ……」
流し込まれる唾液はねっとりと粘りつくが、次々と流されてきて飲まざるを得ない。必死に甘い唾液を嚥下すると、頭がぼーっとしてくる。
膝がガクガクと震えだし、内股になって太ももをもじもじと擦り合せる。
ああ、ヤバい、トイレに行っていなかったからこのままじゃあ、駄目、どうにかしないと、でも手も足も動かせず、志摩子の唾は甘美で、舌は吸い付いて離れず、胸からは痺れるような快感が送り込まれ続けている。
もう駄目だ、でも、もうそれでもいいかもしれない、そんな思いに陶酔しかけたとき、壁についた手がずるりと滑り、崩れ落ちるようにして志摩子の胸に顔が埋まった。
「きゃあっ!? だ、大丈夫ですか、江利子さまっ?」
もふもふと巨大な乳の間に顔を挟まれながら、江利子はとんでもない少女に魅入られてしまったものだと、薄い意識の中で思うのであった。
おしまい