書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 蓉子

【マリみてSS(蓉子×祐麒)】意外と、単純?

更新日:

~ 意外と、単純? ~

 

 長い春休み、私は再びアルバイトをすることにした。本当であれば夏休みに働いたお店で、また祐麒くんと一緒に働きたかったのだけれど、残念ながらアルバイトの募集をしていなかったので違うお店にした。
 カジュアルレストラン&バーで、昼間はカフェもやっているという店。週末の夜となるとかなり賑わう人気の店でもあり、今がまさにその時間帯で、私は忙しなく店内を動き回っていた。
 注文を取り、空いたグラスや食器を下げ、レジで会計をし、空いた席を綺麗にして新しいお客さんを案内し、時には酔っ払ったお客さんの苦情を聞いたり、絡んでくる人をやんわりと払いのけたり、以前のレストランとはまた異なる環境に苦戦しつつもなんとかこなしていた。
 他のバイト仲間も、フロアの中を目まぐるしく動いている。慣れている人は料理や食器も一度に大量に運び、よくもまああれだけ手に乗せられるものだと感心する。私はそのレベルにまでは達していないので、効率よく動くことによりカバーしようと考えている。
「あれ、メニューがないっ!」
「あ、先ほど3番テーブルの食器下げる帰りに渡して来ました。あと追加オーダーです」
「うわぁ、また新しいお客さん来たっ。えーと、今だと何分待ちだー??」
「5分後に23番テーブルが、15分後と20分後に8番、14番の時間がきます。今待っているお客様と、予約が1件、さっき電話のあったグループは個室が空くから、次を考えると40分待ちです」
「なんかすんごい怒っているお客さんがいるんだけどー!?」
「あの方、先週も来ていましたけれど別に怒っているわけではないから大丈夫です。私、行ってきます」
 まさに、目がまわるような忙しさで、あっという間に時間は流れ去ってゆき、気がつけば閉店時間の23時。
 最後のお客様も帰った後、店内を掃除してゆく。素早く片付けないと、終電に間に合わなくなるという危険性があるのだ。
「でもさ、水野さんが入ってから凄いスムーズになっている気がする。お店もそうだし、この閉店後の片付けも」
 バイト仲間の深海さんが笑いながら話しかけてくる。私は、「そう?」と軽く首を捻りつつ、手を動かす。
「そうだよー、なんてゆうか凄い気がつくというか、全体を見て先回りしてくれるから、水野さんが一緒だと仕事が凄いやりやすいのよ」
 そんなものだろうか。私としてみたら、お店は混雑して忙しいし、出来る限り効率よく仕事をしたいと思っているだけなのだが。それほど意識してのことではないというか、忙しいときは意識してやる余裕も無いから、ごく自然に行動しているつもりである。
「本当だよ。ねえ、水野さんってさ、典型的な『優等生』タイプだよねー。『世話好き』というか、『面倒見が良い』というか。『委員長』とか絶対やってたでしょう?」
「……ええ」
 深海さんは特に深い意味があって訪ねてきたわけではないだろうけれど、私は少しショックを受けた。

 結局、新しいバイト先でも私はキャラクターを変えることはできなかったようだから。

 

 慌ただしく電車に飛び乗り、酔っ払い客の多い混雑した車両に揺られて最寄駅に辿り着き、自宅に帰り着き、シャワーを浴びてようやくベッドに入り込む頃には深夜の2時をまわっている。
 布団に潜り込みながら携帯を手にして、息を吐き出す。
 今回のアルバイトは果たして正解だっただろうか。大学は休みに入ったとはいえ、高校は当然のように学校があるから平日の昼間は祐麒くんと予定があわない。土日はお互いにアルバイトがあったり、学校の用事があったりで、ここのところ本当に祐麒くんとは全く時間の都合がつけられなかった。
 バレンタインのチョコレートを渡した日から、会うことが出来ていない。携帯でメールのやり取りはしているけれど、やっぱり少し寂しい。
「うう、眠い……でも、メールくらい」
 睡魔と戦いつつ、祐麒くんに向けてメールの文面を考える。
 やはり、普段からアルバイトをしていたほうがよかったかもしれない。金遣いは荒い方ではないけれど、お金は入り用である。
 高校までは制服で良かったけれど、大学は私服だから、少なくとも平日を着まわせるだけのバリエーションが、季節ごとに必要になる。祐麒くんとデートするときだって、それなりにお洒落したいし、遊びに行ったり、食事したりとある程度のお金がかかる。
 二年生になったら、講義のスケジュールを確認して、無理のないアルバイトをいれた方がいいかもしれない。
「……こんな遅い時間にメール送っても、迷惑よね」
 メールの文章を打ち終えたものの、送信することに躊躇する。既に寝ていて気がつかなければ、朝になってから見てくれるだろうが、着信に気がついたら起こしてしまうことになる。祐麒くんのことだから、眠くても起きて返信してくれそうだけれど、さすがに申し訳ない。
 私は作成したメールを保存して携帯を閉じ、部屋の電気を消す。
「おやすみなさい、祐麒くん……」
 私の発した言葉はどこに届くことも無く、夜の闇に消えていった。

 

 そんな日々が続いていた、3月に入ったばかりのある日。
 私のアルバイト先は昼間にはカフェをやっているが、夜の方がどちらかという本番で、昼間でしかも平日となるとさほど忙しくない。
 だから、大学の友人達が遊びに訪れてきても、少しくらいは話をする余裕がある。
 友人というのは川藤さん、日村さん、徳永さん、そして氷野さんの四人である。四人は席に着くと、それぞれ好みのケーキセットを注文し、お喋りに興じ始める。
 お店の先輩は、他に大してお客さんもいないから、休憩がてら友達とお話していていいよ、なんて言ってくれたけれど、明らかにお店で働いている人がお客さんと友人感覚で平気でお喋りをしているのは、あまり好きではない。他の店の店員さんでたまにそういうのを見かけるけれど、客として店内にいると少しばかり不愉快になる。だから、自分があまりそういうことをしたくはなかった。
「水野さんは、真面目だよね本当。まあ、そういうところが良いところなんだけれど」
 川藤さんが、笑いながらそんなことを言うのが耳に入った。
 今となっては性格など変えられようもないのだから、仕方が無い。長年培われ、身についてしまったキャラクターだって変えられないのだから。
 仕事を続けながらも、なんとなく皆の会話が気になり聞いてしまう。客が少なくて静かだというのも、こういうときには困りものである。どうしたって、耳に入ってきてしまうのだから。
「でも、そんな真面目な水野さんでも、ちゃっかり彼氏いるんだからねー」
 ガシャン!
 聞こえてきた内容に、思わず、持っていた食器を荒々しく音を立てて置いてしまった。
「でも、あんまり教えてくれないのよね。ねえ氷野さんは知っているんでしょう?」
「あ、私も聞きたい」
 どうやら人のことを会話の肴としているようだった。
 余計なことを言うなと、氷野さんを睨みつけるように思念を送るが、あっさりと弾き飛ばして氷野さんは語り始める。
「祐麒くんっていってね、なんと年下、しかも高校生」
「えーっ! 嘘、本当?」
「へえ、意外。年上の落ち着いた人かと思ってた」
 落ち着け、落ち着けと、自分に言い聞かせる。何も変なことを言われたわけではないし、事実でもある。
 そもそも、今まで友人である彼女達に詳しいことを説明してこなかった私にも非があるかもしれない。恥しくて言えなかっただけだが、こうして氷野さんの口から伝えてもらうことは、逆に好都合なのかもしれない。
「ちなみに、これが祐麒くんの写真」
「うわ~、かわいい~」
「羨ましいかもー」
 歓声があがるのを耳にして、少し嬉しくなる。やっぱり、付き合っている人のことを良く言われるのは、嬉しいことだ。
 気分良く私は、注文されたケーキセットをトレイにのせてテーブルに向かう。
「お待ちどう……」
 トレイからまずケーキの皿を手に取り。
「年下もいいかもね、私、好みかも」

 ガタッ!

 皿を取り落とした。
「なっ、な、なっ」
 思わず、発言者である川藤さんの顔をまじまじと見つめる。川藤さんは、「え、なに?」といったような顔をしている、というか、そう口にした。
 私は深呼吸した。
「し、失礼致しました」
 よくよく思い返してみれば、単に祐麒くんが川藤さんの好みだと言っただけだ。狼狽するほどのことはないし、祐麒くんがそれだけ他の女性にも好かれる要素を持っているということで、嬉しいような嬉しくないような微妙な感情が入り混じる。
 でもそう、好みだからといって、祐麒くんのことを好きになっちゃうって訳ではないし、あれ、でも好みのタイプということはそれだけ好きになる可能性が高いということで、川藤さんがもし積極的に祐麒くんにアタックしたら、果たしてどうなるか。
 頭の中でそんなことをグルグルと考えながら、ケーキと飲み物を皆の前に置いていく。
「ごゆっくりどうぞ」
 伝票を置いて立ち去り、他の仕事に就こうとしても、どうしても皆の会話が気になってしまうのは、先ほどの川藤さんの一言のせい。
 おまけに他に客がいないから切羽詰った仕事もなく、話を聞けてしまう余裕があるというのもいけない。
 私は頭を切り替え、とりあえず各テーブルの掃除、片づけをすることにした。体を動かしていれば、余計なことに気をとられないだろう。
 布巾を手に、手近なテーブルを片していく。
「――最近、旦那が忙しくて相手してくれないのよね」
 ずるっ、がしゃっ。
 手が滑り、テーブルの上に置かれた紙ナプキンを倒してしまった。
 というか、何か徳永さんから嫌な予感を思わせる言葉が聞こえてきたのだが、と思っていると。
「溜まる一方だし、誘惑してみちゃおうかしら。不倫って、刺激的よね。しかも相手が高校生の男の子なんて」

 ずしゃっ、がちゃんっ、ガシャガシャガシャーン!!

「な、な、なななっ……」
 テーブルの上で滑り、置かれていたメニューや調味料類の小瓶を弾き、落っことして床に散乱させ、自らも床の上に倒れ、頭の上に爪楊枝がばらばらと振ってくる。
 徳永さんは、今、何と口走ったか。『誘惑』だの『不倫』だの、あやしげな単語が各所に散りばめられていた気がする。
 とゆうか、祐麒くんを誘惑して不倫関係に持ち込もうと!?
 私は髪の毛に爪楊枝が刺さっているのも気にならず、テーブルに指をかけて目だけを出して、皆のテーブルを覗き見た。
 確かに徳永さんは私達より六つほど年上で、その分、大人の魅力に溢れているし、格好いいし、スタイルも良い。着やせするからスリムに見えるけれど、実は脱ぐと凄いんですということは、体育の授業で着替えを見ているから知っている。
 おまけに、子持ちで人妻。
 そんな徳永さんに誘惑されたら。

「……ねえ、祐麒くん。この私の体の火照りを、どうにかして欲しいの」
「徳永さん、でも俺には蓉子ちゃんが」
「大丈夫、水野さんには内緒にしておいてあげるから」
「それに徳永さんには、旦那さんが」
「気づかないわよ、もうこのところ二週間もしていないし。後腐れなし、お互いに体だけの関係だと割り切ればいいじゃない」
「でで、でもっ」
「やっぱり祐麒くんから見たら、私みたいな年上で子持ちなんておばさんかしら?」
「と、とんでもない。徳永さんはとても若々しくて、素敵な女性ですよ」
「嬉しい、じゃあそれを証明してみせて欲しいな」
「と、徳永さん、駄目ですそんな……」
「ふふ、そんなこといって体は正直じゃない。もうこんなになって、素敵……」
「ああっ、徳永さんっ!」
「あぁ~っ」

「――なんて、だめだめーーーーっ!!」
 私はしゃがみ込んで、いやいやをするように首を振った。
 考えるだけでも空恐ろしい妄想だったけれど、もしも徳永さんが本気なんだとしたら、絶対にありえないと言い切れるだろうか。しかも徳永さん、人妻で子持ちということは、あちらの方も経験豊富だろうし、そうなると未だに何もしていない私なんかと比べちゃうと、祐麒くんといえどもついフラフラと、欲望のままに甘美な果実に食いついてしまうこともあるかもしれない。
 どうしよう、どうしようと慌てながら、酷い状況に陥った床とテーブルを片付けてゆく。

 

 ちなみにその頃。

「……水野さんって、あんなに面白い人だったっけ?」
「恋は女を変えるのよ」
「自分で言っておいてなんだけど、何か物凄い罪悪感がわいてきちゃった」
「からかい甲斐があるわねー」
 などという会話が、テーブルの方では交わされていたのであった。

 

 アルバイトが終わり家に戻っても、私の心は落ち着かなかった。昼間の、学友達の会話が気になって仕方なかったのだ。
 そうだ、よく考えてみなくても、祐麒くんは女の子にモテるのではないだろうか。今まであまり本気で考えたことがなかったのだが、確かに祐麒くんは可愛らしい顔立ちをしているし、性格は優しいし、だけどいざというときにはちゃんとした男の子で、花寺学院で生徒会長をしているくらい信望も厚いのだ。
 リリアンの学園祭で山百合会の劇に出演しているから顔も知られているだろうし、そうなるとリリアンの女子生徒から人気もあるかもしれない。前の柏木優だって、女子からは『王子様』なんて持て囃されていたのだから、祐麒くんだって何て言われているか分からない。女子校の生徒は、素敵な男性に憧れているのだ。
 女子校ということを考慮するのであれば、すぐ隣にリリアンの女子大だってある。ということは花寺とも近いわけで、女子大生に目をつけられる可能性もあるのではないだろうか。
 考えれば考えるほど、不安になってくる。
 祐麒くんのことを信頼していないわけじゃないけれど、だからといって不安にならないわけではない。
 以前にも、色々と考えすぎて不安に陥ったことがあったけれども、またそのときとも異なる気がする。
 ここしばらく、祐麒くんと会えていないことも不安に拍車をかけている。もっと小まめに会うことが出来ていれば、こんな不安を感じずに済んでいるかもしれないのに。アルバイトをしていなければ、まだうまく都合をつけられたかもしれないと思うが、そうするとまた本末転倒というかで。
 なんだ、結局のところ自分が悪いのかと落ち込む、ネガティブスパイラル。
 電話をしようかと思ったけれど、思い返してみれば今はちょうど、学年末試験の前で勉強に忙しい時期。祐麒くんのことだから、電話をかけたところで迷惑に思ったりはしないだろうけれど、甘えるわけにはいかないし邪魔するわけにもいかない。
 仕方なく、『勉強、頑張ってね』という一言だけをメールで送ることにした。
 送信ボタンを押して、メールが飛んでいったことを確認すると、ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を押し付ける。
 そうしていると、そのまま眠りたくなってくる。図書館から借りている本も読まないといけないし、勉強だってしなければいけないし、着替えた服だってきちんとしまわないといけないのに、やる気がいまひとつ出てこない。
 自分はこんなにもだらしない性格だっただろうかと頭の隅で考えるが、それすらも淡く消えていくよう。
「はふぅ……」
 やっぱり、このまま寝てしまおうか、いやいやさすがにそれはまずい、でも特に何があるというわけではないしと、半分ほど泥濘につかったような思考でうとうとしていると。
「――っ」
 メール受信の音で目を見開き、枕の横に置いておいた携帯電話を素早くつかみ取って開くと、送信者の欄には『福沢祐麒』の文字。
 早速、メールの内容に目を通してみてみると。

" 蓉子さんのメールで、疲れもとんじゃいます。試験が終わったら、良かったら会ってください "

 正式に付き合っているというのに、まるでそうではないような謙虚な文が可笑しくて、それでも祐麒くんらしくて、つい口元が緩くなる。
 私は肘をついて、次いで手の平で体を押し上げるようにして身を起こすと、携帯電話を持ったまま両手を上にあげて伸びをした。
「んーーっ」
 もやもやとした気持ちが、伸ばされた背筋からすーっと消えていくように思えた。
 メール一つでここまで気分が変わるなんて、随分と単純なものだと自分自身に呆れながらも、それでもいいかと思うようになる。
 こうして、前向きな気持ちになることができるのだから。
「よし、課題でもやろうかな」
 立ち上がり、机に向かいながら。

 

 手にした携帯電話の液晶画面に、私は微笑みかけるのであった。

 

おしまい

 

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