「どうだったね志摩子、楽しかったか?」
という父の問いかけにも、何て応えたか覚えていないまま部屋に戻った。コートを脱いでクローゼットにしまい、座布団に腰を下ろす。
おずおずと腕をあげ、そっとセーターの上から胸に手を触れ、ぼっと赤くなる。胸の鼓動が激しくなる。
アクシデントとはいえ、祐麒さんにこの胸に触れられたのだ。そのことを思い出し、考えるだけで恥しくてたまらなくなる。
「祐麒さん、ほっぺ、大丈夫だったかしら……」
自分でも驚くくらい、全く遠慮なくひっぱたいてしまった。祐麒の頬には見事な手の平の跡が赤くついていた。叩いた私の方が驚いてしまったくらいで、慌てて謝ったけれど、謝ったところで無かったことには出来ないわけで、祐麒さんの頬は赤く痛々しくて。
「……いや、大丈夫ですよ。それに、叩かれて当然のことをしてしまったというか、本当に申し訳ない」
怒ることもせず、申し訳なさそうな顔をして頭を下げる祐麒さん。
私は、赤く腫れた祐麒さんの頬を見ると、気づかないうちに手を伸ばしていた。
「あ……」
目を丸くする祐麒さん。
手の平に、頬の熱が伝わってくる。
「藤堂さんの手、冷たくて気持ちいいです」
「…………あ、ご、ごめんなさい、私ったら!」
祐麒さんと正面から向かい合っていることに気が付き、慌てて手を離す。
「私ったら、助けてもらったのに叩いたりして、ごめんなさい」
「いえ、悪いのは俺の方ですから」
「そんな、でも叩いてしまったのは私で」
「いやいや、藤堂さんは何も悪くないですから」
「私が逃げだしたりしなかったら、こんなことにならなかったはずですから」
「だから俺が」
「私が」
「…………」
「…………」
見つめ合い、同時にぷっと吹き出す。
「なんだか、やっぱり謝ってばかりですね」
「そうですね」
「謝ったらペナルティ、ですよね」
「そう、ですね」
お互いに、笑う。
そうして、最終的には和やかに駅でお別れしたのだけれど。
目の前にある小箱に目を向ける。
おそるおそる、大事に包み込むように手に取る。白を基調とした包装紙に、ピンク色のリボン。
しゅるりとリボンを解き、包装紙をそっと開き、出てきた小箱の蓋を取ってみると。
中には、可愛らしいブローチがおさまっていた。天からの使者が羽を広げているような、そんなデザインのブローチ。
「素敵」
私は手に取ると、そっと、セーターにつけてみた。似合っているだろうか。見てもらいたい人は、今ここにはいない。
そういえば私は、祐麒さんにクリスマスプレゼントを渡していない。パーティの方にばかり目がいって、思いが至っていなかった。
でも申し訳ない、とは思わない。
「……だって、祐麒さんは今日、散々良い思いをしたはずだものね」
和葉ちゃんと仲良くなって、お互いにプレゼントをして。
そして私の胸を……
思い出して、また、赤くなる。
胸に留めたブローチに触れる。
その手の下、私の胸はいつもより少しだけ速く、熱く、脈動していた。
~ ホワイトプリンセス・ロード ~
おしまい