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ノーマルCP マリア様がみてる 志摩子

【マリみてSS(祐麒×志摩子)】私の純情な感情 <中編>

更新日:

 

~ 私の純情な感情 ~
<中編>

 

 

 祐麒は混乱していた。
 今日は志摩子と買い物に行く約束をしていたはずだったが、実際に待ち合わせ場所に姿を見せたのは乃梨子だった。
 それも、偶々この場に来たというのではなく、明らかに祐麒と約束をしているから来たという形である。
 どういうことだ、何の齟齬があったのか。混乱する頭で必死に考えていく中、一つの笑顔が脳裏に浮かんだ。

(桂さんかぁ~~~~っ!!!)

 そもそも間を取り持ったのは桂なわけで、他に原因となるものは思い浮かばない。そう考えると、ホワイトデーの日に桂と遭遇したのは乃梨子と別れた直後で、桂も乃梨子との仲を邪推するようなことを言っていたのを思い出す。
 ただの冗談だと聞き流していたし、志摩子のことしか念頭になかったので、まさか桂が乃梨子とのことを言っていたなんて想像もしていなかった。
 となれば、乃梨子にも迷惑な話であろう。
 事実を話してさっさとこの場はお終いにしてしまおうと、乃梨子に目を向ける。
「あの、二条さん」

「言っておきますけれど、祐麒さんがどうしてもっていうから、こうして来てあげたんですからね。その辺は勘違いしないでくださいよ」
 上から目線の物言いに一瞬、むっとする祐麒。
「ただ、まあ、この前のマカロンのお礼もありますし、あれはありがとうございました、その、とても美味しかったです……」
「え、あ、うん……」
 ほんのりと頬を赤くし、口を尖らせながら言う乃梨子に、ちょっとどきりとさせられ、文句を言おうとした口を閉じる。
 一度落ち着き改めて乃梨子を見ると、ブラウスの上からスプリングコート。ボトムスはチェック柄でウエストにリボンベルトのスカートと、当たり前だが私服であり制服の時と印象がかなり異なる。ホワイトデーの買い物の時も会ったが、あの時はコートの下は分からなかった。
「な、なんですか?」
「いや、その」
 服のことを言おうかと思ったが、それではまるでデートみたいではないかと思い直し、いざ口にしたのは別の事。
「えーと、そのヘアピン可愛いね」
「なっ、これ、はっ」
 がばっ、と両手をあげて頭を抱える仕種を見せる乃梨子。
 いつもはヘアピンなどしていないよなと、思いついたことを口にしたのだが、まずかっただろうか。
「べ、別に、たまたま、してきただけですけど……」
「そうなんだ、でもよく似合っていると思うよ?」
「だ、だから、別に、わざわざ選んだとか、そういうんじゃないですからね」
「え、ああ、うん」  恥ずかしいのか、やや頬を桜色に染めている乃梨子を見ると、なんとも調子がくるってしまう。
 もっと、いつもみたいに突っかかって来てくれる方が祐麒としてもやりやすい。
「大体、なんでそんなこと言うかなぁ……に、似合っているとか……」
 変わらずに乃梨子がぶつぶつと何か言っており、さてどうしようかと思っているとスマホに着信があった。ポケットから出して確認してみると。
「ん、なんだこれ、『特別展・仏像の姿』?」
「あ、それ、行きたいと思っていたんです!」
 いきなり乃梨子がくいついてきた。身を寄せてスマホの画面を覗き込んできて、思いがけず体が接近して驚く。
 ほのかに良い香りが鼻をつき、心臓の動きが速くなる。
「なかなか良いところに目を付けましたね、祐麒さん。その特別展の目玉は……」
 得意げに滔々と語り始める乃梨子を見て、こんな表情もする子なんだと認識した。
 乃梨子は夢中になって画面に目を落としていて、祐麒と体が触れていることにも気が付いていない様子だった。逆に、祐麒の方が乃梨子の体温や感触に、落ち着きを失いそうになる。
「えーと、じゃあ、行ってみる?」
 なんとかこの状況を抜け出そうと、そんなことを提案してみた。
 どうせ、一蹴されるだろうと思っていたから口に出来たということもある。
「はぁ? 私と祐麒さんがですか?」
 案の定、変な表情をして見られた。
 それはそうだよなと思う祐麒だったが、乃梨子の言葉はそれで終わりではなかった。
「まあでも、そ、そこまで言うなら仕方ないですね、私も行きたかったですし、行ってあげても吝かではありません」
 と、こうしてなぜか乃梨子と仏像展に行くこととなった祐麒。

 

 

(ど、どういうことなのこれは一体……なんで、乃梨子と祐麒さんが?)
 一方で志摩子は、少し離れたオブジェの陰から二人の様子を覗き見ていた。もう少し近くに寄りたいが、近づきすぎるとバレてしまいそうで近づけないでいる。
「……志摩子さん」
「きゃあっ!?」
「ちょっと、大きな声出さないで」

「え、あ、か、桂さん?」
 肩を叩かれて飛び上がるほど驚いたが、そこにいたのは桂だった。  乃梨子と祐麒だけではなく、なぜ、桂までここにいるのか、志摩子の混乱にさらに拍車がかかる。  そんな志摩子の混乱など知ってか知らずか、桂はバチーン! となぜか得意げに片目を瞑ってみせた。
「志摩子さんもあの二人が気になって来たんだね」
「それは、その」
「分かってる、あたしも気になって。でも、その姿じゃ志摩子さんだって丸わかりだから、はい、これ」
「はい……って、これは?」
「変装用眼鏡。度は入っていないから。あとそうね、髪の毛も縛って、帽子かぶりましょうか」
 桂の手によって、あっという間に変装させられてしまった。当の桂も、眼鏡をかけてウィッグをつけている。
 言いたいこと、訊きたいことは色々とあったが、今は乃梨子と祐麒のことが最重要事案である。志摩子と桂はそっと祐麒達の方に近寄ってみた。
『えーと、そのヘアピン可愛いね』
「………………」
「いたたた、痛い痛い志摩子さん、手首折れちゃうっ!?」
「え? あらやだ、ごめんなさい桂さん」
 握っていた桂の手首を離す。
 え、今、祐麒は何と言ったのか。乃梨子のことを可愛いと褒めた? 確かに乃梨子は可愛いけれど。
「あの、なんか志摩子さん、怒っている?」
「どうして? 私が怒るような理由、何もないわ」
「そ、そうだよね……あ、ちょっと待ってて、今日はあたしがサポートをしてあげないとね」
 桂がよくわからないことを呟きながらスマホを取り出すのを見て、志摩子は祐麒達に視線を転じる。
 人ごみもあり、二人は志摩子のことに気が付いていない。
 すると祐麒がスマホを取り出し、乃梨子が祐麒に身を寄せるようにしてスマホの画面を覗き込む。二人、密着するような感じで。
『えーと、じゃあ、行ってみる?』
 どうやら場所を移すようだった。
「うん、これで良し、っと。あれ、志摩子さん?」
「桂さん、私達も行きましょう」
「う、うん、て、なんか志摩子さん、やっぱり怒ってない?」
「うふふ、嫌だわ桂さんたら。私が何で怒らないといけないのかしら」
「そ、そうなんだけど、えーと」
「さあ、二人を追いましょう」
 桂を促して二人を追いかける。
 その動きはやはり、志摩子らしからぬほど素早いものであった。

 

 

 祐麒と乃梨子は二人で仏像展を見て回り、その後ファミレスに入ってお茶をしている。志摩子と桂もこそこそと後をついて店に入り、二人の間後ろの席に陣取る。こんな大胆なことを自分がするとは思ってもいなかったが、こうでもしないと二人の会話が聞こえないのだ。
 これは盗み聞きではない、大切な妹の乃梨子のことを心配しているだけだと、自分に無理矢理言い聞かせる志摩子。

『やー、素晴らしかったですね! 思っていた以上に良かったです』
『俺は、二条さんの変わりように驚いたけれど』
『な、なんですか。そんなに変ですか』
『いや、そんなことないけど』

 二人の会話が耳に入ってくる。
 楽しそうな声の調子が、志摩子の胸に刺さる。
「志摩子さん、シロップ入れる?」
「ありがとう」
 桂から手渡されたシュガーシロップを手に取る。

『けど、何ですか?』
『いやー、ああいう二条さんを見るの新鮮というか、はしゃいでいるのが可愛いっていうか』

 ぐしゃっ!
 シュガーシロップが潰れて手にどろりとした液体が付着する。
「あら、不良品かしら」
「し、志摩子さん?」
 汚れた手を拭きながらも、聴覚だけは後ろに集中させる。

『な、な、何言っているんですかっ、祐麒さん。何かおかしなものでも食べたんじゃないですか!?』
『ご、ごめん、変な意味じゃなくて。本当に好きなんだなってのが分かって』
『悪いですか? 女子高校生らしくない趣味ですみませんね』
『いいと思うよ、そこまで熱中できるものがあるのって、羨ましいと思うし』
『そ、そうですか? 本当は変だと思っているんじゃないですか』
『思ってないよ。だって二条さん、本当に好きなんでしょ?』
『…………はい。す、好きです……』

 ばきっ!!
 木製のマドラーが真っ二つに割れる。
「あらやだ、弱っていたのかしら」
「し、し、志摩子しゃん……」
 桂が怯えた兎のような目で見つめてきて何か言いたげにしているが、ふいとそちらに視線を向けると、以後は大人しくなった。
 志摩子は新しいマドラーを取り、カフェラテをまぜる。
 いつになく荒々しい混ぜ方になり、こぼれそうになる。
 その後も、ファミレス内では落ち着くことが全くなかった。

 

 

後編に続く

 

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