マリア様がみてる 百合CP

【マリみてSS(笙子×克美×乃梨子)】キライ?

更新日:

~ キライ? ~

 

「あーもー、ホントお姉ちゃんったらウザい!」
「ちょ、ちょっと笙子さん、少し声を抑えた方が……」
「大丈夫だよ、みんな自分たちのおしゃべりに夢中であたしの言ったことなんて聞いていないって」
「そ、そんなこと、ないと思うけど……」
 ここはリリアン女学園高等部、一年椿組の教室内。朝のホームルームが始まる前の時間帯だから、クラスの子達は仲の良い子と思い思いにお喋りに興じているわけで、あたし、内藤笙子も同じように中等部からクラスが一緒の高知日出実ちゃんとお喋りしていた。まあ、お喋りというか、あたしが一方的に愚痴を言って日出実ちゃんがそれを根気強く聞いてくれる、というのがいつもの構図だけど。
「それより聞いてよ。お姉ちゃんったらさ、昨日の夜もあたしが漫画を読んでいたら、『笙子、漫画を読む前にちゃんと宿題は終わらせたの? 予習は? 私に言われないでもやるようにしないと駄目よ』なんて言うのよ、頭にきちゃう」
 あたしはお姉ちゃんの声真似までしてみて、我ながら上手くできたと思うんだけど、内輪ネタすぎて日出実ちゃんには通じなかった。
「えっと、別にどこが悪いか分からないんだけど。笙子さんのことを気遣って言ってくれたんでしょう」
「あたしが宿題も予習もやっていないって決めつけているところが嫌なのよ!」
「あ、じゃあちゃんとやっていたんだ」
「いや、やってなかったけど」
「そ……そうなんだ」
「そうよ、漫画を読み終えたらやろうと思っていたのに、そんなことを言われたからやる気がなくなっちゃったわよっ」
 ぷくーっ、と頬を膨らませる。
 勉強ばっかで面白味のないお姉ちゃんとは、数年前から疎遠になっていた。それが、この前のバレンタインのイベントによってようやく、お姉ちゃんが高校を卒業する前にわだかまりが解けたと思ったんだけど、やっぱりそんなの一時的なものだったようで。今では昔と同じような感じに戻ってしまっている。即ち、同じ家に居るけれどお互いにはあまり干渉せず、居てもいなくても変わんないような。
「んー、でも、そうして笙子さんのことを気にしてくださっているわけでしょう、克美さまは」
「親に対してのポーズよ、お姉ちゃんしていますよーって」
 そうじゃなきゃ、あのお姉ちゃんがあたしに気をつかうはずがないんだ、勉強だけが友達で恋人ですなんて人なんだから。そのうち、勉強と結婚するんじゃなかろうか。
「それで、宿題と予習はどうしたの? やる気なくなったからって、まさか本当にやってないなんてこと、ないんでしょ?」
「ううん、やってないよ。やる気ないのにやるわけないじゃん」
「えっ?」
「大丈夫、だって明日まででしょ?」
「宿題はそうだけど、数学の授業は今日だよ。あの先生、日付と出席番号で紐づけるから、笙子さん当たるんじゃない?」
「ええっ!?」
 嘘、もしかして時間割を勘違いしていたのか。だとするとまずい、あの先生はきちんと予習をしてきていない人には個別に課題を与えてくるような人なのだ。
「ひ、ひ、日出実ちゃん、お、おせーて!」
「む、無理だよ、私は今日あたらないから予習してきてないし、数学が大の苦手だってこと、笙子さんだって知っているでしょう?」
 慌てて両手を体の前でぶんぶんと振り、行動と表情で「NG」を表現して見せてくる日出実ちゃん。
 そうだ、数学の成績に関してはあたしよりも悪い日出実ちゃんに聞くのは無謀というもの(ごめんね、日出実ちゃん)、だからといって数学は一時間目、これから自分でやるのは不・可・能!
 どうしようかと机の上で頭を抱えた時、パッと素晴らしい名案が浮かんだ。
「しょ、笙子さん?」
 いきなり起き上がったあたしに日出実ちゃんがびっくりしているけれど、今はそれどころではない。可及的速やかに、この困難なミッションをクリアするためには己の力だけでは限界があるというか、先ほど言った通り不・可・能! なわけで、ならばMS(ミッション・スペシャリスト)に応援を頼むが最良。
 あたしは立ち上がり、三つ隣の席に移動する。
「ごきげんよう、乃梨子さん」
 名前を呼び掛けると、文庫本に目を落としていた二条乃梨子ちゃん(内心では"ちゃん"付けして呼んでいるのだ)が、顔の向きを変えないまま、ちらと瞳だけを動かしてあたしのことを見上げてきた。
 そのクールで怜悧な視線に思わずたじろぎそうになるが、ここで怯んでしまってはミッションフェイルでゲームオーバーだ。あたしは精一杯の笑顔を浮かべて話しかける。
「あの、実は折り入ってお願」
「数学の答えだったら教えないけど」
「はうっ!?」
 全てを告げる前に断られた!? もしかして乃梨子ちゃんは、人の心を読むこともできるのだろうか!? なんて思っていると、乃梨子ちゃんは「はぁ」とため息を一つ吐き出し、文庫本を閉じ、相変わらず顔は正面を向いたまま口を開いた。
「話し声が大きいから、全て聞こえていたわよ。完全に忘れていたならまだしも、昨日、お姉さんに注意されて尚且つやっていなかったのは自業自得でしょう? まだ五分くらいあるから、自分のあたりそうなとこだけなら間に合うでしょう?」
「なっ……あ、甘いよ乃梨子さん! 数学ダメ子ちゃんにとって、五分で問題を解けなんてフェルマーの最終定理を解くより困難な事なんだから!」
「……いばるように言うことでもないと思うけど」
 またしてもため息をつく乃梨子ちゃん。なんだか、先ほどよりもさらに呆れた感があるのは気のせいだろうか。
「あの、じゃあ、せめてヒントだけでも」
「――公式をあてはめれば解けるから」
 冷たくそれだけを言うと、再び文庫本を開いてあたしのことなんか眼中にないような感じで読書に入り込む乃梨子ちゃん。
「そ、それで分かったら、こうして聞きに来てないもんっ。ねえ、せめてもう少し」
「しょ、笙子さん、どう考えても乃梨子さんの言っていることの方が正しいわ。ほら、だからね、もう、ごめんなさい乃梨子さん、お騒がせして」
 慌てて飛んできて日出実ちゃんに腕を掴まれ、渋々と自席に戻る。
「もーっ、笙子さんの行動はヒヤヒヤものよ。乃梨子さん、軽蔑するような目で私たちのこと見ていたよ」
「何よ、これだからちょっと勉強できる人は」
「学年首席を"ちょっとできる"って……」
 彼女、二条乃梨子ちゃんは高等部の編入試験でトップの成績を叩き出した秀才なのだ。そんな乃梨子ちゃんと同じクラスになれたから、仲良くしておけばいざというときに頼りになると思っていたのに、あんな感じでいつも冷たいといか冷めているというか。
「女子高校生らしさが足りないよー、ね、そう思わない?」
「だ、だから声が大きいってば……でも、確かにいつもクールだよね。高等部から編入してきたから、まだリリアンの雰囲気に慣れていないんじゃない?」
「慣れてないってゆうか、慣れようとしていないよね。「私はあなた達とは違うのよ、私がいるべき場所はこんなところじゃないの」って思っているんじゃない?」
「また笙子さんはそういう……だけど、そんな姿が格好いい、素敵だ、っていう子も結構いるみたいよ」
「ないわー」
 お姉ちゃんという人が身近にいるせいだろうか、ああいう頭が良くて勉強大好きです、頭の悪い人はなんで勉強できないのか分かりません、みたいな雰囲気を醸し出しているような人はどうも苦手だ。
「その苦手なのを我慢して聞きに行ったのに冷たく追い返すなんて……」
「全部、笙子さんの勝手な都合だしね」
「ちょ、日出実ちゃんはあたしの味方じゃないのっ?」
「いや、そうだけど、今回の件に関しては……って、それより笙子さん、時間が」
「あ、そうだった! うわ、どうしよっ」
 慌てて教科書を開き出したのだけれど、時すでに遅し。
「――はい、みんな席についてください」
 担任の教師が教室に入ってきてしまった。この先生はきっちり時間通りにホームルームをこなすし、数学の先生も時間通りにやってくる。もちろん、隙をついて問題を解くことはできるかもしれないけれど、懸案の問題を見てあたしは諦めた。とてもじゃないけれど短時間で、しかも独力で出来るとは思えなかったから。
 それに、もしかしたら今日は当てられないかもしれないという望みもある。あたしは、その一縷の光に託すことにした。
 そして。
 まあ当然だけど奇跡なんて起きるはずもなく、素敵な課題をあたしは沢山与えられたのでした。

 

「うー、もー、信じらんない、こんな沢山の課題を出すなんて!」
 放課後、あたしはぷんぷんしながら帰途についていた。
「しかも、また明日に授業があるし、無理だよ終わらないよ日出実ちゃん半分やってよ」
「さりげなく私に押し付けようとしないでくれる?」
「ううっ、酷い、友達甲斐がないっ」
「現国とか歴史ならともかく数学ではお役に立てないので……いいじゃない、笙子さんには頭の良いお姉さんがいるんだし」
「えー、でもー」
「文句言っても、やらないともっと課題が増えちゃうよ」
「うぅぅ、それもこれも、全ては乃梨子さんがいけないのよっ、素直に教えてくれないからっ」
 視界の端に、校門に向かってスタスタと歩いて行く乃梨子ちゃんを見つけて毒づく。周囲を遮断するような雰囲気のカーテンを纏い、ゆっくり、のんびり歩いている他の女の子達とは明らかに異なるスピードで歩く彼女の姿は、ここでは異端だ。
「またそんな逆恨みを……それじゃあ、私はこれから新聞部だから、頑張ってね」
「うん、日出実ちゃんも部活頑張ってね。また明日」
 手を振って別れ、バス停へと向かう。バス停に到着すると、ちょっと前に乃梨子ちゃんの姿が見えた。一人で帰るのもつまらないし、誰か話し相手でもいないかなと思ったけれど、さすがに乃梨子ちゃんに話しかける気にはなれなかった。そこまで親しいわけでもないしね。
 やがてバスが到着し、順に乗り込んでゆく。どこか座れるとラッキーだなと思って探していると、ちょうど一席空いていたのでそこに素早く腰を下ろす。
「ふぅ、今日はついてる…………げっ」
 ほくほくとしながら何気なく隣の席を見て、思わず声をあげてしまった。
「人の顔を見て『げっ』なんて、随分と失礼じゃないかしら?」
 窓枠に頬杖をついていた乃梨子ちゃんが、冷たい目つきで睨みつけてきていた。
 うぅ、よりにもよって乃梨子ちゃんの隣だったとは迂闊。いつもなら気にしないところだけど、今日は数学の件があったからなんとなく話しかけづらいし、居心地悪い。
 だからといって席を立つのは余計に失礼だし、バスは既に走り出していて立つのも危険である。
「の、乃梨子さんのお家も、こっちの方なんだ?」
「ん。まあ、大抵の子はこのバス乗るし。駅まで行くしね」
「そ、そうだね」
 せっかく、あたしが無難な話題を振ったというのに、あっさりとぶった切ってきやりましたよこの人は。もっとこう、会話のキャッチボールしようよ、朝の件には目を瞑って精一杯仲良くしようとしたのに。
 結局、その後はあたしも話しかけることをせず、無言で互いにそっぽを向いていた。
 今までにないくらいバスに乗っている時間が長く感じ、ようやく駅に到着した。終点でもあるし、多くの乗客はここまで乗ってくるので降車時は混雑する。
「――降りたいんだけど」
「混んでいるし、少し待ったら?」
 あたしはいつも混雑に巻き込まれるのが嫌で、客がはけて空いてから降りるようにしているのだけど、どうやら乃梨子ちゃんの考えは違うよう。そこまで急ぐこともないだろうにと思うのだけど、せっかちさんだと我慢できないのかも。
「前、通るわね」
 狭い座席の前を通ろうとする乃梨子ちゃんだけど、下に置いてあったあたしの通学かばんに足を引っかけてしまった。
「わっ、と」
「あ、危ないっ」
 咄嗟に、乃梨子ちゃんを支えようと手を出す。
「うわっ!?」
 驚き、身体が硬直する。
 すぐ目の前、鼻の頭同士が触れそうなほど近くに乃梨子ちゃんの顔が来ていた。バランスを崩し前のめりになり、あたしの座席の背もたれに手をついて体を支えている。おかっぱみたいな髪の毛が揺れ、あたしの頬をくすぐるようにしてくる。
 目の前で見つめてくる乃梨子ちゃんの瞳は、吸い込まれそう、という表現がぴったりなように思える漆黒だった。
「……あの、支えてくれたのはありがたいけれど、いつまで触ってるつもり?」
「え……あ、わ、ごめんっ」
 乃梨子ちゃんの顔ばかり見ていて気が付かなかったけれど、とっさに伸ばしたあたしの手は乃梨子ちゃんのおっぱいに触っていた。制服の上からだけれど、ふんわりとした柔らかさが伝わってきて、かぁっと顔が熱くなる。慌てて、手を離す。
 わざとではないけれどなんだか申し訳なくて、こっそり上を見てみると。
「――ありがと」
「あっ…………」
 ぼそっと一言、それでも確かにお礼を言って乃梨子ちゃんはバスを降りて行った。
 気のせいだろうか、ほんの少しだけ頬が赤くなっていたような気がする。
 まあ、おっぱい触られたら恥ずかしいか。
『――すみません、降りていただけますか?』
「え、あ、はいっ、すみませんっ!」
 どうやら最後となってしまったあたしは、運転手さんにマイクで注意されて慌ててバスを降りた。

 

 家に帰ったら課題をさっさと終わらせようと思っていたけれど、当然のようにやる気が起こらなくてゴロゴロしていた。
「今日、お姉ちゃんは?」
 夕食の時、食卓にお姉ちゃんの姿がなかったのでお母さんに聞いてみた。
「今日はお友達と食べてくるみたいよ」
「ふーん」
 珍しいこともあるものである。高校時代はそんなこと全くといっていいほどなかったのに、大学生になって何か変わったのだろうか。お母さんと二人だけの食卓なんてあんまり記憶がなかった。
「そのうち克美も彼氏でもできるかもね」
「えー、まさかー。お姉ちゃんに限って。お勉強が恋人みたいなもんじゃん」
「でも、克美も大学生になって綺麗になってきたし」
「そう? 変わらないと思うけど」
「笙子は身近にいすぎるから、気が付きにくいのかもね」
 そういうもんか? あんな、お洒落とも縁遠いような姉がモテるなんてことあるのだろうか。それとも、そういった趣味の男がいるのか。
「それより笙子、予習はちゃんとやったの? 克美が気にしていたわよ、あの先生は答えられないと課題を」
「ごちそうさまっ、部屋に戻りまーす」
「あ、笙子ちょっと、もう……」
 お母さんの声を背に二階の自分の部屋に逃げ込む。まったく、お姉ちゃんたらお母さんにまでそんなことを言っているなんて、勘弁してほしい。あたしはベッドの上にごろんとうつ伏せになり、ファッション雑誌を広げる。食べたばかりということもあってちょっと苦しいけど、気にしないことにした。
 ぺらぺらとページをめくってゆき、現れる可愛い女の子とファッションに目を輝かせる。
「このモデルの子、18歳ってお姉ちゃんと同い年か。うーん、やっぱりないな、お姉ちゃんは」
 メイクしているというのはあるにせよ、目はパッチリ、睫毛はシャラーン、唇はぷりっとして、お肌もつやつや。
 比べてみてお姉ちゃんときたら、もっさりした髪型にもっさりした眼鏡、もっさりした服装だから冴えないし目立たない。高校までは制服だから良かったけれど、大学生となって私服通学になり、毎日大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
「まあ、あたしには関係ないけど」
 時計を見る。
 まだ時間は早いから余裕はある。あたしはだらだらと本を読み続けた。

「………………はっ!?」
 どうも、本を読んでいるうちにうっかり寝入ってしまったらしい。口元の涎を手の甲で拭いつつ、慌てて携帯で時間を確認する。
「良かった、まだ九時半だ」
 これから課題をやれば、十分に間に合う時間だ。とはいえ苦手な数学、余裕があるわけではないので急いで準備に取りかかろうとしたところで、メールを着信。
「日出実ちゃんからだ、なんだろ?」
 メールを開いてみてみると。
"しょこたん、ちゃんと課題忘れずにやった? 課題だけじゃなく宿題もあるから、ちゅういするんだよー?"
「だいじょーぶ、まさに今これから手を付けようと……って、あ、あーっ、宿題もあったーー!?」
 やばい、宿題は英訳で、時間をかければ出来るけれど、その時間がない。何せ数学の課題があるのだから。こうなったらどちらか一本に絞るべきか、となるとさすがに課題をやらないわけにはいかない。けれど、英語の宿題もやらないと。睡眠時間を削ったら、授業中に寝ちゃうことは確実。どうしよう。
「う、うぅ…………そうだっ」
 絶望に沈みそうなときにも希望を捨ててはいけない。私は閃いた。
「おねーちゃーーーんっ!」
 こうなったらプライドなんて言ってられない、せっかく頭のいい姉がいるのだから頼ってしまおう。ちょうど帰ってきたのか、さっき階段を上ってくる足音と部屋に入る扉の開閉音が聞こえたのだ。
「――――だから昨日、言ったじゃない」
「う~~、ごめんなさい、謝るからとにかく教えて、お願いっ」
 ぺこぺこと頭を下げると、なんだかんだいってお姉ちゃんはあたしの部屋に来て勉強を教えてくれた。こうしてたまに教わることがあるのだけれど、昔に比べて随分と教え方が分かりやすくなったように感じる。以前は、何でこんなことも分からないのかそれが分からない、といった感じだったのに、今はどことなく教え方も柔らかい。
「えーと、あれ、これはどうなったっけなぁ」
「どこ?」
「んーと、ここなんだけど」
「どれどれ、ああ、これは引っ掛かりやすいんだけど……」
 単に公式を当て嵌めるだけでなく、なぜその公式なのかといった考え方とか、似たような問題とか、周辺のことも絡めて教えてくれる。数学が苦手なあたしにも配慮をした、そんな教え方だ。
「あ、そっかー、なるほどね! さっすがお姉ちゃん」
「こういう時だけ持ち上げても駄目よ」
「あはは、バレたか」
「ほら、調子のいい時に続けてやってしまいなさい」
 お姉ちゃんに教えてもらっているお蔭で、思いのほかスピーディに課題は進んだ。元々、教わった部分の復習ってこともあるだろうけど。
「えーとえーと、あれ、これさっきやったような気がしたんだけど、ねえお姉ちゃん?」
「やったような問題なら、少しは自力で頑張ってみたら?」
「ええっ、でもこの後まだ英訳の宿題もあるんだよ~~っ、お願いっ」
「…………もう、仕方ないわね」
 呆れたような顔をしつつ、お姉ちゃんは身を寄せて問題を覗き込む。
「ああ、確かに似ているけれど、これは解き方が異なるのよ。ちょっと応用が必要な必かけ問題ね」
「そんなの分かんないよ、え、何、どうゆうこと」
「これはね、この式に代入してみてごらんなさい」
「えっと、こう?」
「違う違う、そうじゃなくて、このxとyが……」
 あたしが要領悪いからか、手も伸ばしてきてノートと教科書を指差して教えてくれる。そんな教えてもらっている最中にふと思った。あれ、お姉ちゃんってこんなに良い匂いしたっけ? と。
 決して強い匂いではない、ほんのりと甘酸っぱいような柑橘系の匂いは、お化粧とか香水とかそういったものだろうか。大学生にもなり、友達と食事ともなればいくらお姉ちゃんでもメイクくらいするかと思った。すると今度は、メイクをしたお姉ちゃんというものが気になり横目でちらりと覗き見る。ナチュラルメイクだけど、今まで見ていたお姉ちゃんとはなんだか違う気がするのは、ほんのりと色の入った頬と艶のある唇のせいか。
「笙子、そこ間違ってる」
「え、ど、どこ?」
「ほら、そこだってば」
 と、身体をさらに密着させてくるお姉ちゃん。
「――――ぅ、ぁ」
 肘のあたりに、なんか"ふにょん"という感触が伝わってきた。もしかしてこれは、お姉ちゃんのおっぱいが当たっているのではなかろうか。
「笙子、手が止まっているわよ」
「ご、ごめん、うんっ」
 問題を解くふりをして、腕を胸から離す。お姉ちゃんなんてぺったんこだと思っていたけれど、そうでもなかったのか。気になって視線を向けてみると、家に帰ってきて少し気が緩んでいるのか、ブラウスのボタンが外れていて前屈みに身を乗り出してきているお姉ちゃんのブラと胸の膨らみが見えた。
「――――っ!?」
 眼鏡の下の切れ長の瞳、意外と長い睫毛、問題に目を落としている横顔はなんともいえない色気を持っているように感じて、おまけに胸チラで、なんだか分からないけれど凄く心臓がバクバク言いだして、顔が熱くなってきた。
「あぁ、やっぱり引っかけに引っ掛かってる」
「あ、ぁ……」
 お姉ちゃんが口を開くと、吐息が耳をくすぐって身を捩りそうになる。
 え、え、なんだこれ、お姉ちゃんってこんなに色っぽくてドキドキしたっけ。ブラウスだって別に安物だし、髪留めも眼鏡もダサいし、それなのになんで?? そしてそれ以上に、なんでそんなお姉ちゃんにあたし、こんなにドキドキしているんだろう。
「そうそう、それでいいのよ。やればできるじゃない」
 いつの間にか問題を解き終えていたのか、お姉ちゃんが身を離す。
「あとは一人でも出来るでしょう?」
「え、あ、ちょっと待って。あの、英訳も教えてよ」
「それは辞書があれば大丈夫でしょう、そんなに苦手でもなかったはずだし」
「で、でも、時間があまりないし、お姉ちゃん……」
 立ち上がろうとしたお姉ちゃんのブラウスの袖をつまみ、お願いする。こんなことするの初めてかもしれないけれど、なんだかもっと一緒に居たいと思ったのだ。
「…………はぁ、どうしたの今日は、随分と甘えん坊ね。まぁ、たまにはいいけど」
 お姉ちゃんは苦笑しながら、あたしの髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。それがすごく気持ち良くて、恥ずかしくて、顔を伏せる。おかしい、コミュ障気味だったお姉ちゃんがこんな風に接してくるなんて想定外だ、だから変に意識してしまったのだ。
「ほら、そこ間違ってる。時間がないんだから、厳しくいくわよ」
「え、ちょっと待っ……」
「口答えしないで手を動かす、ほら」
 さっきまで優しかったと思ったら、すぐに昔のようなスパルタに戻った。
 もう、やっぱりお姉ちゃんなんて、キライなんだから!

 

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