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ノーマルCP マリア様がみてる 菜々

【マリみてSS(菜々×祐麒)】それだけですもん

更新日:

~ それだけですもん ~

 

 女の子と一緒に外出している、それ即ちデートといっても過言ではないであろう。しかしながら、立ち寄っている場所が全くもってデートっぽくない。いや、そんなことを言ったら、こういう場所でデートをしているカップルに申し訳ないが。
 祐麒がいる場所は、ジャンクショップである。
 よくわからないパーツ類がごちゃごちゃと並べられており、この手のものが好きな人間ならば喜べるのだろうが、祐麒にしてみればそこまで興味が惹かれるものではない。もちろん、機械やなんかには普通の男子らしく触れてきたりはしているが。
 そんな祐麒の隣で、一人の女の子が瞳をワクワクと輝かせながら、ジャンクショップの品物類を眺めていた。
「……菜々ちゃん、楽しいの?」
「楽しいですよー、だって自作パソコンとかって楽しそうじゃないですか? 私、お金貯めたら作ってみたくて」
 かなり楽しいらしい。

 初めて会った時はともかく、二回目、三回目はゲームショップで、次は某都市のアニメ系ショップから乙女ロード巡りにつき合わされ、その次はメイド喫茶にブックセンター巡回、そして本日はジャンクショップである。
 だが、だからといって菜々がオタクであるかというと微妙にそうでもないようで、乙女ロードにせよメイド喫茶にせよ初めて訪れたらしく、興味津々で巡っているという感じであった。
 好きなことに間違いはないようだが、まださほど詳しいわけではなさそうである。
 しかしこうして改めて思い返してみると、既に四度目のデートというわけであって、先週、今週は連続だ。いずれも、オンラインゲームでチャットをしながら祐麒が誘っているのだが、果たして菜々はどのような気持ちでOKしているのだろうか。
 恐らく、お嬢様学校のリリアン、そして剣道部という環境の中、似たような趣味を持った友達がいないから、たまたま知り合った祐麒に懐いてきているのだろうと想像はできる。
 では、祐麒自身はどうなのだろうか。
 恋愛感情を持っているかと言われると、微妙である。可愛いとは思うし、一緒にいると楽しいけれど、男子校で女の子に慣れていないから、こうして初めて親しくなった女の子ということで好きだと思いかけているのかもしれない。
 大体、祐麒は基本的に年上好みなのだ。綺麗なお姉さん系が良い。その類の本やDVDも、基本路線はそっちである。
 比べてみて、菜々は子供である。男子よりも成長が早いと言われる女子だが、菜々はその規定からは外れているのか幼く見える。顔だちもあどけないし、背もさほど高くないし、見る限り胸はぺったんこだし、私服でランドセルを背負えば小学生といっても通用するかもしれない。
 年上好みの祐麒が、そんな菜々を好きになるだろうか。
 ショートパンツから伸びた素足はまあ、細いのにしなやかそうで、素晴らしいが。レギンスなどを穿いていないのが良い。やはり素の肌、太ももは男の浪漫だ。色気よりも健康的な元気さが前面に出ているのは、年齢的にも仕方ないかもしれないが。

「……ちょっと祐麒さん、聞いているんですか?」
「っ!?」
 突然、菜々の顔が目の前に現れてぎょっとする。
 考え事をして反応がなかった祐麒を不審に思い、下から覗き込んできている。拗ねたように、僅かに頬を膨らませている。
 メールやチャットでは結構、感情を豊かに表してくる菜々だが、実際にはあまり感情表現は豊かでなくクールだ。それだけに、こうして時折見せる表情や仕草に、ドキっとさせられる。
「ああ、ごめん。なんだっけ」
「だからー、もう、ほら次行きますよ」
 商品を品定めすることに満足したのか、菜々は次の店に移動しようとしていたらしい。それなのに祐麒が動かず立ち尽くしたままだったので、業を煮やしたようだ。
「あ……っと、菜々、ちゃん?」
 菜々の小さな手が、祐麒の服の袖を掴んでいた。
「だって祐麒さん、ぼーっとしていて、こうしていないと迷子になっちゃいそうでしょう?」
 口を尖らせ、くいくいと引っ張ってくる。
 手を握っているわけではないけれど、触れられているような、くすぐったい感覚。
 小さな力に引っ張られながら考えた祐麒は、手を動かした。
「――え、ちょ、祐麒さんっ?」
 驚いた菜々が足を止め、祐麒を見上げてくる。
 今、祐麒の手の中には、菜々の小さな手が包まれている。小さいけれど、剣道で鍛えられているせいか、柔らかさの中に硬さが同居している手の平。
「迷子を心配するなら、これくらいの方が離れなくてよいでしょ? それとも、嫌、かな」
「べっ……別に、嫌じゃないですけど」
 ごくごく微かに、頬が赤くなったように見えた菜々だったが、ぷいと顔を反らされてしまった。残念だが、良かったのかもしれない。何せ、祐麒だって恥ずかしくて顔が熱くなっているのだから。
 女の子と手を繋ぐということが、こんなにも気恥ずかしくて勇気のいることだとは、思ってもいなかった。
「それじゃあ、行きましょうか」
 祐麒に手を握られたまま、菜々が歩き出す。
 しばらくそのまま歩くが、いつものような調子で話をすることが出来ない。菜々の手の感触にどうしても意識がいってしまうし、手を繋いでいるということはそれだけ菜々と接近しているということでもあり、心が落ち着かない。
 おまけに焦ると歩調が速くなり、小さな菜々は合わせるために小走りになったりして、なんかグダグダになってしまう。
 そして、ついに。
「…………あの、祐麒さん」
「ああ……うん、ごめん」
 菜々が口を開いたのを機会に、握っていた手を離す。
 緊張していたのか、手の平に汗をかいている。当然、握っていた菜々の手にも汗がついてしまったはずで、恥ずかしいやら情けないやらだ。
 菜々は、祐麒に握られていた手の平をじっと見つめていたが、何を思ったのか手を持ち上げて匂いを嗅いだ。
「――汗臭いです」
 当たり前だ。
「ううっ、面目ないです」
 うなだれる祐麒だが。
「べ、別に、これくらい平気です。剣道の篭手はこんなもんじゃないですから、全然、問題ありません」
 言い切る菜々の表情には、嘘は感じられなかった。むしろ、どこかうっとりとしたような表情で手の平の匂いを嗅いでいるように見えるのは、気のせいだろうか。
「ふふふ、でも。手を繋いだだけで、こんなに汗をかくほど緊張してしまうなんて……祐麒さん、可愛いですね」
「ぐふぅっ!!」
 年下の女の子に『かわいい』などと言われてからかわれてしまった。
 くすくすと意地悪そうに笑っている菜々に、確かに恥ずかしいとは思うのだが、不思議と嫌な気はしない。
「可愛い女の子とでーと、というだけでも祐麒さんには随分とレベルが高いのに、加えて手を繋ぐ、なんてなると遥かに先の話でしたかね。少なくとも、クラスチェンジするくらいでないと無理かもですね」
「そ、そこまで!?」
「ええ、だって祐麒さん、凄いガチガチで、見ていて楽しかったですよ?」
 笑われるが、事実なので言い返せない。
「じゃあ、菜々ちゃんはもうクラスチェンジできているの?」
 かわりといってはなんだが、言われた内容で切り返す。
「秘密です」
「え、何ソレ、ずるい」
「ずるくないですー、女の子は秘密がいっぱいなんですー、秘密は女の子の特権なんですー」
「まあ、菜々ちゃんもクラスチェンジ前でしょ。やっぱ、落ち着かない様子だったし」
「あっ!!!」
 ジャンクショップを出たとはいえ、二人が歩いていたのは怪しげな店が立ち並ぶ通りで、そんな中でいきなり菜々が大きな声をあげ、一軒の店のショーウィンドウにへばりついた。
 何事かと思ってついていくと、そこは中古ゲームショップで、菜々が見ているのは祐麒が知らないゲームだった。
「ふおぉぉぉぉぉぉっ、『恋剣』の幻のGSバージョン!? しかも4000円!」
 何やら興奮して叫んでいるが、周囲に人がいるのでちょっと恥ずかしい。
「あ、あの、菜々ちゃん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもっ!」
 振り返る菜々の顔が、興奮で紅潮していた。

 話を聞くに、菜々が見つけたのは同人ゲームらしいが、ゲームショウでのみ本数限定で販売された特別バージョンのもので、喉から手が出るほど欲しい逸品。オークションなどでは1万円を優に超え、とてもではないが中学生の菜々には買えないようなものが、4000円という値段で売られているのを見つけてしまった。
 菜々はバッグから財布を取り出し、中身を数えている。
「う……よ、よんせんえん……くっ……」
 リリアンに通うお嬢様とはいえ、菜々の金銭感覚は一般的だし家も普通のようで、であれば中学生であればお小遣いなどたかが知れている。財布をひっくり返して小銭を手の平に乗せ、一生懸命に手持ちのお金を数える菜々の姿は、見ていて微笑ましい程に可愛い。
「……っ、よし、足りるっ! 私は買いますっ!」
 お金が足りるとみるや、躊躇なく宣言する菜々。
「ちょ、菜々ちゃん、大丈夫なの? もうほとんどお金ないんじゃ」
「そんなもん、目の前の『恋剣』に比べたら、屁でもありませんわ!」
 興奮しているせいか、言葉遣いが変になっている。
 本当に欲しいものが目の前にあったら、後のことはともかく買ってしまいたくなる気持ちは分かるので、菜々にどうこう言うのはやめることにした。
 店の中に駆け込むようにして入る菜々を、祐麒は追いかける。中には18禁のゲームが大量に置かれていて焦るが、菜々は気にした様子もない。中学生が大丈夫なのか、とも思ったが、件のゲームは18禁ものではないらしく、無事に購入することが出来た。
「やった、やりましたよ!」
 上機嫌で店を出る菜々。嬉しさを、顔と体で表している菜々を見ていると、祐麒まで嬉しくなってくる。
 菜々は嬉しそうに、ゲームの入ったビニール袋を抱きしめていたが、やがて今度はそわそわとし始めた。
 気持ちは分かるので、祐麒は息を吐き出しつつも菜々に話しかけた。
「いいよ、菜々ちゃん。早く帰ってそのゲームやりたいんでしょう?」
「あぅ。いえ、でも」
 まだ陽は高い。
 さすがに菜々も、自分の我が儘でデートを終わりにしてしまうことに、罪悪感を覚えているようだ。
 とはいえ、ゲームを気にされたままデートを続けられても、祐麒も落ち着かない。それならば、今日のところは素直に早く帰ってゲームに集中してもらうのが吉。デートには、また誘えばよいのだ。
「うーん、そうですね、それじゃあ」
 ゲームの袋に目を落としながら、菜々は言った。
「私の家に、来ますか?」
 と。

 

 いやいや、ちょっと待て。
 女の子に家に行くとか、男を家に呼ぶとか、手を繋ぐよりもよほどレベルが高いのではないだろうか。単に友達として呼ぶということなので、レベルが低く設定されているのだろうか。しかし、祐麒にとってみれば手を繋ぐよりもレベルが高い。それは、菜々のことを既に友達以上と見てしまっているからか。
 菜々に誘われ、断り切れずについてきてしまったが、段々と後悔してくる。そもそも、そんなつもりもなかったから服装だって適当だし。いや、菜々と会うから、変な格好はしてきていないが。
「えと、菜々ちゃん、家ってやっぱりご両親がいるよね」
「? そりゃあ、買い物にでも出ていない限りいると思いますけれど、何か」
「いえ、なんでもないです」
「そうですか。まあ、いいです。どのみち到着しましたから」
 そう言って菜々が目で指し示す先には、『田中』という表札が。
「……田中さん家?」
「ああ、そういえば説明していませんでしたね。まあ、それもおいおい」
 後で分かる話だが、菜々は有馬家に養女として入っているらしい。しかし、元々の実家である田中家で生活しているので、名字以外は何ら変わりないとのこと。
「ただいまー」
 玄関を開けて中に入る菜々の後に続いて、おそるおそる「失礼しまーす」などと小声で言いながら祐麒も中に入ると。
「あー、菜々、おかえ……」
 ちょうど歩いていたのか、菜々の姉らしき女性が挨拶を返しかけ、祐麒に目を向けて動きを止める。
 そして。
「――――なっ、あ、ねねねねねねえっ、ももももももねえっ! なっ、菜々がカレシ連れて帰ってきたーーーーーーーーーーっ!!!!」
 と、家じゅうに響き渡るような、腹から絞り出したような声を轟かせた。
 一瞬の間を置いて。
「うそっ、マジでっ!? あのウワサのカレシっ!? 菜々の妄想エア彼氏じゃなかったんだっ!?」
 廊下の奥から飛び出してくる女性。
「そんな馬鹿なっ、菜々に先を越されるなんてっ……って、うきゃあああああっ!?」
 二階から階段を駆け下りてきた女性が途中で足を踏み外し、派手にお尻から着地する。思いっきりスカートの下のパンツが見えて、祐麒は赤面する。清楚な白で、パンツから伸びている太腿は引き締まっていつつも女性らしさを残し……
「イテテテテ!」
「どこ見てるんですか、祐麒さん」
 菜々に脇腹をつねられていた。
 そうこうしているうちに転んだ女性も立ち上がり、総勢三名の女性に囲まれる。
「……姉たちです。百々姉に寧々姉に瑠々姉です」
「長女の百々です」
 白パンツだった女性が軽く頭を下げる。一番身長が高く、髪の毛をサイドポニーにしている。
「次女の寧々です、はじめまして」
 ショートカットの良く似合う、最も凛々しい感じのする少女が会釈する。
「三女の瑠々です。うひゃーっ、菜々のカレシだー、本当だったんだー!」
 最初に姿を見せて叫んだ少女。肩にかかるくらいの髪の毛が、無造作に横に跳ねている。
 三人の姉妹は、興味深そうに祐麒のことを見てきている。長女の百々が、『じろじろ見たら失礼でしょう』とか言っているが、本人も見ているのであまり説得力がない。むしろ、一番見られているような気がする。
「でもさー、大丈夫なの、菜々?」
「何が?」
 問いかけてきた瑠々に問い返す菜々。
「いや、何がって……」
「とにかく、私たちは部屋に行きますから、放っといてください。ほら、祐麒さん」
「あ、うん、お邪魔します」
 菜々に引っ張られて上がり、そのまま階段を上っていく。
「あ、あ、手を繋いだよっ」
「うわーっ、菜々ってばやるー」
「菜々、部屋の扉は開けときなさいよー」
 下から、ひやかしともからかいともつかない声が飛んでくるのを無視して、菜々は二階に到着すると、そこでようやく立ち止まって大きく息を吐き出した。
「……なんか、凄いね」
「四姉妹ですからね、何かと騒がしいです。あまり気にしないでください、というか、無視してください、姉たちのことは。何しろ変態なので」
「ヘン……え?」
 菜々から飛び出した言葉に戸惑う。菜々の姉というだけあって、三人ともなかなかに整った顔立ちをしていたし、見た目的には美少女四姉妹、といってなんら違和感ないと思えたのだが。
「見た目だけですよ、中身は変態ですから。しかも、うちの姉妹はそれぞれ嗜好が見事に異なっているんです」
「嗜好、というと」
「瑠々姉はエロゲー好きです」
「え? エロって……あの、女の子だよね? 高校生だよね」
「寧々姉は、二次元でも三次元でもガチ百合です。女子高に入っているのも、それが目的でしょう、きっと」
 祐麒の突っ込みを無視して、淡々と姉たちの性癖を暴露していく菜々。
「そして、百々姉ですが……祐麒さんは注意してください、最も危険です。百々姉は、男の娘萌えですから」
「オトコノコ萌え……?」
「さっきも、ハァハァ言いながら祐麒さんのこと見ていましたから、ちょっと迂闊でした、『恋剣』に浮かれて百々姉の存在と嗜好、祐麒さんの容姿を結び付けられず」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。え、何、菜々ちゃんの姉妹って」
「そう、そんななんです。姉妹の中でまともなのは、私だけというわけです」
 待て待て、そりゃ違うだろうと内心で突っ込みをいれる。
 趣味嗜好は人それぞれだし、オタク趣味を笑う気もなければ、けなす気もない。人に迷惑をかけなければよいだろう。
 そもそも人のことを言う前に菜々は完全なるゲームオタクで、BL好きの腐女子属性ではないか。他の姉達と比較して、そう変わるとも思えない。
「そ、そういえばさ、菜々ちゃん俺のこと、彼氏だって言っていたんだ」
 趣味嗜好も気にはなるが、それ以上に気になっていたことについて口にした。
「別に、そんなことは一言も言っていません。ただ最近、私と同じ趣味を持った男の人と遊ぶようになった、と言っただけです」
「でも、否定はしないんだ」
「こういうのは、否定すればするほどからかわれますからね。反応しないのが一番ですよ」
 つれない菜々の態度に、嬉しさがしぼむ。
 菜々が祐麒のことを彼氏だと家族に言っていたならば、菜々は祐麒のことをそのように思っているという確実な証拠になったのに。
「あれ、もしかして落ち込んでます、祐麒さん?」
「ななな、何を言うんだい、菜々ちゃんっ。なんで俺が落ち込まないと」
「そりゃあもちろん、私が家族に祐麒さんのことを彼氏だと言っていなかったことに、ですよ。ふふふ、そうでしたか」
「だから、そんな落ち込んでなんかいないって」
「分かりました、はい、それじゃあそろそろ部屋に入りましょうか」
 結局、菜々には敵わないようだ。肩をすくめながら、菜々の部屋に入る。
 菜々の部屋は綺麗に整理されていて、女の子らしい配色と、シンプルな機能美によって構成されていた。
 作り付けの本棚には、本とゲームとCDとDVDがぎっしりと整列しており、菜々の性格を表しているようだった。注意してタイトルを見てみたが、とりあえず怪しげなものはないようで、ホッとする。
「……入るなり、ジロジロと女の子の持ち物を物色するのは、どうかと思いますが」
 注意されて、慌てて視線を菜々の方に向けると、今度はベッドが視界に入ってきて、布団の上に置かれた細長い布が目に留まる。
「あ」
 祐麒の視線で気が付いた菜々が、急いで回収する。女の子だし色々あるのだろうし、あまり詮索しない方が良いだろうと、気付かないフリをしてあげようと思ったら。
「……なんですか、えっち」
 むくれた菜々が、変なことを言ってきた。
「祐麒さんて本当、超むっつりエロですよねー」
「な、なんだよそれ、言うに事欠いてわけわからんこと言わないでくれよ」
「えー、だってなんか私の部屋に入るなり、飢えた目で見てきているし」
「見てない、見てない!」
「それにー、"可愛いは正義" とか、"貧乳はステータスだ" とかよく言っているじゃないですか」
「ぶふっ!? な、お、俺がいつそんなことを」
「よくチャットで言ってますよ。気付いていないんですか?」
 確かに、直に顔を合わせることのないネットの世界では発言内容も時に大胆になることがある。思い返してみれば、その気さくさゆえにそんな発言を打ってしまったような覚えもある。それをいざ、こうして現実世界で相手に会ってしまうと、途端に自分の発した内容が恥ずかしくてたまらなくなって死にたくなってくる。
「うあああああぁ、やべぇ、すげぇ恥ずかしい!」
「ふっふっふ……分かったようですね」
「やめてくれーっ、て、あれ」
 そこでふと思い出す。
 先ほどの発言の流れの中で、他にも言ったことがあった。確か、ミニスカートやショートパンツにニーソはいいけれどレギンスは邪道だ、素足こそが男の浪漫だ、とかなんとか。
「菜々ちゃん、そのレギンス、もしかして」
 よくよく見てみれば、菜々が手にしているのは、縞々柄の可愛らしいレギンスであった。祐麒の発言を思い出して、穿こうと思っていたのをやめたから、ベッドに置きっぱなしなんて状態になっていたのではなかろうか。目を向ければ、今日の菜々はショートパンツで、細くしなやかな太ももがショーパンから伸びている。
「なっ、何を自惚れているんですかっ!? べ、別に変な意味はないですからね。今日は少し、気温が高かったから、それだけですもん」
 わずかに白い頬を桜色にして口を尖らせている菜々は、怒っているようでもあり、照れているようでもある。
「あーーーーっ、な、何をニヤニヤしているんですかっ!?」
「別に、にやにやなんてしていないよっ、痛っ、ちょっと蹴らないでよ」
「知りません、って、なんでまだ笑ってるんですかっ! もう、このっ、変なこと考えないでください」
「痛いってば菜々ちゃん、こら、ちょ、やめっ」
「もーーーっ、笑うの禁止っ!」
 ぷんすかと怒る菜々の細い脚から繰り出される蹴りを受けながら、やっぱり祐麒は笑っているのであった。

 

「――――Mですか?」
「違うわっ!」
「ああ、ドMということで……」

 

おしまい

 

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