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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(可南子・菜々・祐麒)】とらんす! 9.藁を掴む!?

更新日:

~ とらんす! ~

 

『9.藁を掴む!?』

 

 

 メールの着信音に、身体を震わせる。
 朝起きて、女の体に戻っていて、何も手に付かなかった。今も、ただ惰性で携帯電話を手に取り、メールを確認する。

『やっほー、ユウキちゃん起きてる、可南子です。昨日の夜遅くに帰って来てたんだよ、昨日は眠くてメールできなくてごめんねー。今日、ヒマ? バイト再開前の最後のお休みの日、良かったら一緒にお買い物でも行かない?』

 可南子ちゃんからの誘いのメールだった。可南子ちゃんに会いたいという気持ちはあったが、それ以上に、今の自分の体に対する不安の方が大きくて、行けそうになかった。仮に会ったとしても、まともに接することができるとも思えない。
 震える指で、返信メールを打つ。

『ごめん、今日はお母さんと一緒に出かける約束していたから。また今度、誘って』

『そっかー、残念。じゃあ、また今度遊ぼうね。バイトにも遅刻するんじゃないぞ♪』

 そんなやり取りをかわして、携帯電話を閉じる。
「うう……どうすればいいんだよ」
 泣きそうになってくる。
 ひょっとしたら、たまたま不安定なだけなのかもしれないが、今まで、一度として今のような状態になったことはないし、男女になるタイミング、パターンは同じだったのだ。急に変わるなんて、何かあったとしか思えない。
 このところ、薬を飲み続けていたから、効果の持続が長くなっているのかもしれない。重複して飲んだことで、男に戻った後も、薬の効果が残っていてまた女に変化してしまったとか。
 自分を安心させるために色々と考えるが、どれも根拠のない希望的観測にしか過ぎない。簡単に明るい気分になどなれない。
 そもそも、この夏休みに女の姿でいられたのは、可南子に会いたいという気持ちが強かったのもがあるが、学校に行かなくて良いからだった。
 逆にいえば、夏休みが終わればどうせ男に戻るんだから、この夏休みくらい女の子として楽しんでも良いのではないか、なんていう気持ちがあったということ。
 戻れなくなる、なんてことは思ってもいなかった。
 もしも、夏休みが終わって学校が始まっても男の体に戻れなかったら、そう考えると血の気が引いていく。
 一人でじっとしていると、不安だけが増大していく。だからといって、誰に相談できるというのか。
 気分も重く、体も重く、気持ち悪くて吐き気も催しそうになる。このままでは、どうにかなりそうだ。
 悩んだ挙句、いてもたってもいられなくなって、俺はとりあえず話ができる人物に連絡を取ることにした。

 

「……で、私に言われても正直、困るのですが」
 正面の席で、菜々ちゃんがアイスカフェモカを飲みながら、冷静な瞳で言ってくる。
 ここは駅近くのショッピングモール中のカフェ。菜々ちゃんを呼び出して、事実を話して、相談にのってもらおうとしたのだが、帰ってきた返事は先ほどのようなものだった。
 もっとも、相談されたところで困ってしまうというのは仕方ないところではあると思うが、それでも藁にでもすがりたい気持ちだったのだ。
「ごめん。でも、一人でいると不安でさ」
 本来なら家族に相談するのが一番なのかもしれないが、変な心配をかけたくないという気持ちが働いた。可南子ちゃんには言えるわけもなく、そうなると、この体質のことを知っていて、且つ、それなりに密な時間を共に過ごした菜々ちゃんしか、話せる相手がいなかったのだ。
「なるほど、私になら心配かけても良いと判断したわけですね」
「え? あ、いや、それはっ」
 そういうことになるのだろうか。だが、ここで菜々ちゃんに変にヘソを曲げられたくない。どう言い繕おうかと内心、少し焦ったが。
「まあ、それならそれでいいですけどね。そうですか、私には」
 良く分からないが、一人、納得したように頷いている菜々ちゃん。
「ただ、私が何か解決出来ることでもないので、ちょっと申し訳ないです」
「いや、いいんだ、ありがとう。こうして呼び出しに応じて来てくれただけでも、嬉しいからさ」
 それは、嘘偽りのない事実だった。もし、菜々が応じてくれず、今もまだ一人でいたらと想像するだけで心が黒く塗りつぶされていく。自分のことを知ってくれている人が側にいるのが、こんなにも心強いものだなんて、初めて知ったかもしれない。
「でも、考えることはできます。やはり、ユウキさんの行動から考えていくしかないと思います。何か、いつもと異なる行動をとりましたか?」
 尋ねてくる菜々ちゃんに対し、俺は前に考えたことをそのまま話した。即ち、夏休み入ってからというもの、ほとんど男に戻らずに女の姿で過ごしていたということを。効果が切れる前から、薬を飲んで女体化を保っていたということを。
 聞き終えると、菜々ちゃんは顎の下に右拳を置いて、一人で考え込む。期待しないようにと思いつつも、何か気がついてくれるのかと、分かってくれるのかと期待をしてしまう。
「むーん、どう考えても、その暴飲が原因のようには思いますが、それが真実だとして、治す方法は分からないですからね」
「そ、そうだよね」
 分かっていたはずなのに、うなだれてしまう。
 しかし、菜々ちゃんの話はそれで終わりではなかった。
「だけど、分かる方法はあるかもしれません」
「えっ!? ほ、本当に? ど、どういうこと?」
 顔をあげて、縋るように菜々ちゃんを見つめる。
 すると、菜々ちゃんの表情が、いぶかしげなものに変わった。
「ユウキさん、なんか、顔色悪くないですか?」
「そう? 朝から憂鬱だったから、気分的なものじゃないかな」
「いえ、そんなんじゃなく、本当に青白いですし、辛そうに見えますが」
「まあ、確かに朝から体が重くて、あまり調子はよくないけれど……っ?」
 手でお腹をおさえながら、軽く視線を下に向けた時に、気がついた。座っている椅子に、汚れがあることに。
 拭おうと指を伸ばして、ぬるりとした感触に、怖気を感じた。
「え……? なに、これ……」
 指先についたもの、それは、血だった。
 無意識に、立ちあがってみると。
 ショートパンツの股間の部分から、太腿をゆっくりと伝って流れる、赤いライン。
「な、な、な、なんだ、えっ?」
 明らかに血は自分から流れ出ている。
「ちょっと、落ち着いてくださいユウキさん」
「なんだコレ、俺、どうにかなっちゃってるのか、やだ、なんなんだよ」
「ええい、ちょっとこっち来てください!」
 菜々ちゃんが俺の手を取り、体を引っ張って走りだす。俺はただ混乱し、恐怖し、何もできずにただ訳も分からない言葉を呟きながら、引かれるままに足を運ぶ。どこを走っているのか、どこに向かっているのかも分からない。
 怖い。
 自分の体なのに、何も分からないのが怖い。
「な、菜々ちゃん、俺っ、」
「いいから、大丈夫ですから落ち着いてください」
 引っ張られ、どこか狭い空間に押し込まれ、肩を掴んで座らされる。どうやらトイレの個室の中らしかった。
「俺の体、どうなっちゃったんだよ一体!? このままどうにかなっちゃうのか、いやだよそんなのっ」
「だーかーら、落ち着いてくださいってば。静かにしてください」
「死んじゃうのか? なんだよこの血? おかしいよ、こんなの絶対にっ!」
「ああもうっ、落ち着いてってのに!!」
「だって、こんな――っ!?」
 恐怖に喚いていた俺の口が、いきなり塞がれた。頭をがっちりホールドされ、便座に座って身動きできない体勢のまま、菜々ちゃんが覆いかぶさって来たのだ。目を見開くと、目の前に整った菜々ちゃんの顔がある。
 気が緩み、体の力が抜ける。
「……少しは、落ち着きましたか?」
 顔を離しながら、菜々ちゃんが聞いてきて、とりあえず頷いておく。
「じゃあ、ちょっと私、必要なものを仕入れてきますから、しばらくここで待っていてください。いいですね、騒いだり、暴れたりしないように。分かりましたか?」
 コクコクと、ただ機械のように首を縦に振る。
 菜々ちゃんが、個室の扉を開けて出ていく。惰性で扉に鍵をかけて、呆然とする。
「……あれ、今、キス……された?」
 いまだ残るような柔らかな感触。
 昨日からの目まぐるしい出来事の連続に、とうとう俺の脳みそはついていけなくなった。

 

 どれくらい待っただろうか。思考がフリーズしてしまった俺にとっては、長くもなく短くもない時間だった。トイレの中は、その間に何人かの客が利用していて、さすがに少し申し訳ないという気にもなったのは、余裕が出てきた証拠だろうか。
 やがて、ノックの音とともに、菜々ちゃんの声が聞こえてきて、扉を開ける。中に入ってきた菜々ちゃんの手には、少し大きめの紙袋。
「それじゃあユウキさん……っていっても、やり方とか分からないですよね。じゃあ、とりあえず立って、パンツ脱いでください」
「はぇ……え? なんで?」
 呆けている前で、菜々ちゃんが紙袋から何かを取り出している。
「なんでって、血を流したままにしておくわけには、いかないですよね」
「そ、そうだけど、この血っていったい」
「生理でしょう」
 菜々ちゃんの発した単語に、ぽかんとする。耳にしたことはあるが、自分自身には全く関係ないものであり、正確に理解しているとは程遠い言葉。
「ほら、早く……ってしようがないですねぇ」
「え、わ、ちょっと??」
「はい、シャツの裾、掴んでいてくださいね」
 文句を言う前に、菜々ちゃんは俺のショートパンツをするりと降ろしてしまう。さらに続いて、汚れたショーツに指をかけて、あっさりと脱がされる。少女の前に下半身を晒して、さすがに恥しいが、菜々ちゃんは気にした様子もない。
「うーん、二日目ですかね。気分悪いとか、お腹痛いとか、ないですか?」
「少し気持ち悪くて、調子悪いけれど、動けないとかそういうわけじゃないけど」
「それじゃあ、ユウキさんは結構、軽いのかもしれませんね」
「軽いって……ひゃぁんっ!?」
 菜々ちゃんの手が、股間に触れた。もちろん、直にというわけじゃないけれど、他人に大事な所を触れられるという経験に、変な声が飛び出てしまった。菜々ちゃんはその後も、濡れティッシュで血の流れた足を拭いてくれて、生理用品の使い方を教えてくれた。
 非常に情けなく恥しい構図であったが、菜々ちゃんが機械的に対応してくれたおかげで、どうにか必要以上に取り乱すことなくいられた。
 買って来てくれた替えのショーツとパンツをはき、ようやくトイレを出る。
「大丈夫ですかユウキさん。歩けますか」
 菜々ちゃんに手を繋がれて、よろよろと歩く。
 生理ってなんだよ、それって女の子しか起こらない現象のはずで、すなわち俺は本当に女になってしまったのか。今まで、女の姿で生理なんて起きたことがないのに。それとも、たまたま女の姿になったときに、その周期に当てはまっていなかっただけなのか。
 これだけでも充分に勘弁して欲しい事態だったが、俺を襲う暴風はまだ、おさまらなかった。
「ユウキちゃん?」
「ん……?」
 名前を呼ばれて、力なく声のした方に目を向ける。
「え、ああ、可南子ちゃん」
 立っていたのは、可南子ちゃん。今の状態であまり会いたい相手ではないと思っていたが、それでもこうして姿を見ると、嬉しくなる。
 だが一方の可南子ちゃんは、険しい表情をして、まるで睨みつけるようにして俺のことを見つめていた。
「今日は、お母さんとお出かけするんじゃあ、なかったの? なんで、菜々ちゃんと」
「え……あ!」
 可南子ちゃんからの誘いのメールに対し、母と出かけることを理由に断っていたのだ。可南子ちゃんの目が、菜々ちゃんと繋がれた俺の手に向けられる。
「そ、そっか。菜々ちゃんと、そうだったんだ……ごめん、わたし、気がつかなくて」
「ちょっと待って、可南子ちゃんっ。なんか、誤解しているようだけど」
「別にいいの、菜々ちゃんとそうなら、それでもいいの。うん、菜々ちゃんは私も好きだし、二人がそれなら……でも……」
「だから可南子ちゃん、なんか違っ」
「私に嘘をついて菜々ちゃんとデートっていうのは、酷いと思う。素直に言ってくれれば、私だってそこまで邪魔、しなかったのに」
 苦しそうに唇を噛みながらそれだけ言うと、可南子ちゃんは長身を翻し、逃げるように足早にこの場を離れていく。
 人が多い中、足の長い可南子ちゃんは速く、具合の悪い俺は歩みが遅い。結局、ほとんど追いかけることもできずに、可南子ちゃんを見失ってしまった。
「か、可南子ちゃん……ちょっと、なんだよこれ……お腹痛いし……なんでこんなことになるんだよぉっ」
 泣きそうになる。
 視界がぼやけてきて、真っ直ぐに立っていられない。
 頭の中で色々なことが渦巻いて、脳みそをかき回されているようで、ついでにお腹の中でも何かが暴れているようで、気持ち悪さと、頭痛と、腹痛と、その他いろいろな良く分からない何かで胸が痛くなる。
 戻らない不安定な女性化、生理、可南子ちゃんの誤解と、立て続けに襲いかかってきた事態に、俺の心は膨らみきった風船のようにあやうい状態になっていた。
 そんな俺のことを察し、気遣ってくれたのだろう。気がつくと、菜々ちゃんの家に連れてこられていた。菜々ちゃんが家に電話もいれてくれて、今日は菜々ちゃんの家に泊まっていくことになった。
 夕食をご馳走になり、デザートまでいただいて、菜々ちゃんの部屋でやすむことになって、それでもまだ俺の心の中は嵐が吹き荒れている状態だった。泣きだし、悲鳴を上げて、暴れたいのを必死に耐えている。
 すると。
「……え、あ、菜々ちゃん……?」
 ベッドの上でぼーっとしていた俺の目の前に、菜々ちゃんがいた。
「あの、今日は色々とありがと……ひあっ!?」
 お礼を言いかけたところで、菜々ちゃんがいきなり、俺の胸を掴んできた。さらにシャツをまくりあげ、ブラを強引にずらし、乳房をさらけ出させる。直に肌に触れ、手の平で撫でる。
「な、な、何をっ……?」
「ユウキさん、女の子の体になったんだから、当然、自分の体でエッチなこととか試したりしているんですよね?」
「なっ!? そ、そんなこと、してないよっ」
「どうしてですか? 興味、ないんですか?」
 言いながら、菜々ちゃんの手は俺の胸を揉み続け、くすぐったいような、気持ち良いような、微妙な感覚が俺を襲う。
「そ、そうじゃ、ないけど……んっ、色々慌ただしくて、そういう暇もなかったというか……って、何をいわせるんぁっ!」
 急に、胸の先っぽから痺れるような刺激が発生して、悲鳴をあげる。菜々ちゃんの指が、乳首をつまんでいた。
「それじゃあ、今日は菜々が、ユウキさんに女の子の気持ちよさを教えてあげますね」
「な、菜々ちゃ……んっ? ひ、あぁっ」
 左胸の乳首を指でつまんで捻りながら、菜々ちゃんは顔を下方にずらして右胸に舌を這わせた。ぬるりとした生温かい感触が乳房を辿り、やがて先っぽに到着する。指でつままれるのとはまた異なる感じ。
 生まれて初めての刺激に、体を支えられなくなり、へなへなと仰向けに倒れベッドのシーツに沈み込んでいく。
 上になった菜々ちゃんが俺の肩をおさえ、見つめてくる。
「……今夜だけでも、全てを忘れさせてあげますからね……」
 そう言うと、再び菜々ちゃんは俺の体に舌を這わせる。首筋、鎖骨を舐める。シャツとブラを荒々しくまくりあげて、音を立てて舐めてくる。
「気持ち、いいですか?」
 手の平で円を描くように乳房を愛撫して乳首を転がす。もう片方の手でわき腹を優しく撫でられ、舐められていた乳首に軽く歯を立てられ、俺の体はビクビクと勝手に震える。
 何も言えなかったが、俺の表情だけで察したのだろう、菜々ちゃんは軽く微笑むと、更に力をいれて噛んできた。
「ひっ……あっ」
 大きな声が出そうになり、指を噛んで耐える。
「今夜は、私がユウキさんの藁になってあげますから……だから、好きなだけしがみついて、いいんですよ……」
 優しい菜々ちゃんの声が耳に届く。
 その言葉で、いきなり襲いかかってきた菜々ちゃんの真意に、ようやく気がつく。そうか、菜々ちゃんは、溺れている俺の藁になってくれようとしているのだと。でも、そんなことをさせてしまってよいのか。菜々ちゃんは女の子で、中学生で、俺はこんな姿だけど本当は男で。
「あっ……ん……ゆ、ユウキさん……」
 不意に、下から菜々ちゃんの甘い声が聞こえてきた。
 気がつくと、無意識のうちに俺の手が伸びて、菜々ちゃんの胸に触れていた。
「あ……ご、ごめんっ」
「いえ、いいんです。私は今日は、ユウキさんの藁……好きに、すがってくれれば」
 離そうとした俺の手が止まる。
 頬を染めた菜々ちゃんの顔が見える。
 俺の手がさらに伸びて菜々ちゃんのシャツの裾を掴み、上の方にめくりあげると、菜々ちゃんの小振りの胸がこぼれ出た。お風呂に入った菜々ちゃんは、既にブラをつけていなかったのだ。
 おそるおそる菜々ちゃんの胸に触れると、菜々ちゃんは目をつむり、声を噛み殺すようにして口を噤む。菜々ちゃんの胸は、柔らかくて暖かくてすべすべしていて、触っているだけなのにとても気持ちが良い。更に俺は、自分が菜々ちゃんにされたように、胸の突起を指で挟んでみる。
「うぁっ……ん」
「菜々ちゃん……硬く、なって」
「馬鹿……ユウキさんだって」
 再び、俺の乳首を吸い始める菜々ちゃん。襲ってくる快感に酔いながら、必死に両手を伸ばして菜々ちゃんの胸を下から受け止めるようにして触る。
 菜々ちゃんの舌が、再び上に向かって動いていく。首筋から、今度は耳に到着すると、生き物のように舌が耳の中に侵入してくる。ぞくぞくとした震えが、俺の全身を襲い、甘い声が漏れる。自分の声じゃないみたいな、とろけるような声。
「ふふ、ユウキさん、耳が感じるんですね」
「ひ、あっ」
 耳たぶを噛まれ、息を吹き込まれ、力が入らない。
 菜々ちゃんと俺の胸が互いに押し付け合わされ、歪み、形を変える。
「あ、ダメ、菜々ちゃ……やぁっ……」
 同時に攻められて、俺の意識は真っ白になる。気持ち良さばかりに包まれ、何も考えられなくなっていく。
 快感の洪水に押し流されそうになって、俺は菜々ちゃんにしがみつく。
「菜々ちゃん、菜々ちゃん、菜々ちゃんっ……!」
「大丈夫、私はここにいます、今夜はずっと、ユウキさんと一つです……は、あぁっ!」
 俺も夢中になって、自分の体を菜々ちゃんの体にこすりつけるようにする。
 菜々ちゃんは、俺の耳の中に指を入れて動かす。知らなかった自分の弱点を攻められて力が抜けると、すぐに菜々ちゃんに都合のよい体勢をとられてしまう。
「ユウキさん、んっ……」
「菜々ちゃ……」
 もはや、細かいことなど何も考えられない。
 流され、もがき、そして俺は、菜々ちゃんに溺れた。

 

 まるで、夢の中の出来事ではないかと思えた。
 俺と菜々ちゃんは、一晩じゅう、お互いの体を求めあった。とはいっても、俺が生理中だったということもあり、互いに下半身には触れていない。
 真夏の夜、うだるような暑さの中、汗を全身に滴らせ、絡みあい、訳も分からず無我夢中で抱き合った。
 俺は、生まれて初めて女性の絶頂というものを味わった、と思う。果たして菜々ちゃんはどうだったか、よく覚えていない。
 朝、目が覚めると、俺も菜々ちゃんもショーツ一枚という格好で、抱きつき合うようにして寝ていた。
「……おはようございます」
 薄眼をあけた菜々ちゃんが、俺の顔を見ながら口を開く。
 俺は、菜々ちゃんの背中にまわした腕に力を入れ、ぎゅっと抱きしめる。柔らかな菜々ちゃんの体は、抱きついているだけで気持ち良い。
「もう、暑くないですか、真夏なんですから」
「ううん、温かいよ……ありがとう、菜々ちゃん」
 俺はそう言って、菜々ちゃんの背中に腕を回し、抱きしめる。邪な気持ちはない。純粋に、菜々ちゃんの胸に抱かれると安心するのだ。菜々ちゃんも何も言わずに、俺の頭に手を回し、撫でてくれる。
「ねえ、菜々ちゃん……」
 顔をあげて、ゆっくりと菜々ちゃんの顔に近づける。
 しかし、菜々ちゃんの顔に到達する手前で、菜々ちゃんの人差し指に唇を抑えられるようにして止められる。
「駄目ですよ、ユウキさん。昨夜は、緊急事態だったんです。でも、今、ユウキさんにそんなことされたら……私、本気にしちゃいます」
「なっ……俺は、そんな」
「ユウキさんは、可南子さんのことが好きなんでしょう? 昨日の私は、ユウキさんにとって一本の藁です。だから、ね?」
 そんなことを言われたって、納得できるわけがない。確かに、昨夜の出来事は、事故のようなものだったのかもしれない。だけど、女の子と抱き合い、求めあい、それで何もなかったことには出来ない。
「責任感で言われても、私もユウキさんも辛くなるだけですよ」
 そう言って、菜々ちゃんは笑う。
 俺は、言い返すことが出来ない。
「それよりも、今はもっと目の前の大問題に対処すべきかと」
「え……?」
 見ると、置きあがった菜々ちゃんが真剣な表情をして考え込んでいた。その、菜々ちゃんの視線を追ってみると。
「あ……」
 汚れたシーツが目に入る。
 汗だけではない、色々なモノが染み込んでいる。
「これは……ユウキさんがおねしょしたことにするしかないですね」
「な、なんでわざわざ客に恥をかかせるの!?」
「だって、私はこの家の子なんですから、そんな恥にずっと耐えられるわけないじゃないですか。その点、ユウキさんなら一時の恥と考えれば」
「い、嫌だよ、俺だって」
「女の子に恥をかかせるつもりですか?」
「お、俺だって今は、女の子だし」
「…………」
「…………」
 言い合い、お互いに見合う格好となり、やがてほぼ同時に吹きだした。
「あはは、何、やっているんだろうね、俺達」
「そうですね……でも、ようやく笑ってくれましたね」
 言われて、自分が笑っていることに気がついた。心も、昨日のような絶望感はどこかに無くなっていた。決して、状況が好転したわけではないけれど、それでも気分が軽くなっているのを感じる。
 全ては、菜々ちゃんのおかげだろうか。
 だけど、面と向かってお礼を言うのがなんか恥しくて、口に出したのは違う言葉。
「あー、とさ、そろそろお互い、着替えた方がいいんじゃない? いや、菜々ちゃんの身体が見られるのは眼福だけど」
 今はお互い、ショーツ一枚という格好で向かい合っており、当然、菜々ちゃんの細い裸体が遠慮なく目に飛び込んできているわけで。
「なっ……こ、この変態っ! エッチ!」
 菜々ちゃんが顔を真っ赤にしながら腕で胸を隠し、もう片方の手で殴りつけてきた。
「うわ、そこまで怒る? 俺だって裸を晒しているわけだしっ」
「私とユウキさんじゃ、全然違うでしょうがっ! 見るな、このっ!」
「あははっ……」
 ぽかぽかと殴ってくる菜々ちゃん。
 本気で殴ってきているわけではなく、全然、痛くなんてないのだけど。

 なぜか俺の目からは、涙がこぼれていた。

 

 

つづくしかあるまい

 

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