書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(色々)】パラレル オルタネイティヴ 10.初陣

更新日:

 

~ パラレル オルタネイティヴ ~

 

10.初陣

 

 

11月11日 ②

 

 事前に陣を敷くことが出来たため、BETA迎撃戦は順調だった。帝国軍の損耗率は低く、BETAの数は着実に減らしている。夕呼のお蔭だと、素直に感謝する。前の世界では、確かもっとギリギリのところでどうにか防ぐことが出来たレベルであり、今回とは雲泥の差だ。
 だが、だからといって戦いが楽なわけではない。戦いの中で被害は避けられず、今も戦死者が次々と生まれているはずだ。戦争なんだから仕方ない、戦争とはいかに効率よく味方を殺すか考えるものだが、心情的に祐麒はそう考えるのは苦しい。だから、指揮官というよりは現場で戦っているほうが合っているとは思うのだが。

 改めて最新の勢力図を確認する。旧新潟市一帯に上陸したBETAの数は小規模であり、12師団所属の中隊でどうにか対処することは出来ると思えた。問題なのは旧三島郡出雲崎町一帯に上陸したBETA群で、他と比べても勢力が大きく、更に他から漏れてきたBETAが合流することも考えられ、配置されている数の中隊では防ぎきれない可能性が高い。
 脳内でシミュレーションを展開し、最善と思われる方策を考える。もちろん、他に危ない地点がないわけではなく、それらもある程度は考えるものの人間の思考には限界がある。最も危ないと想定されるパターンに思考の多くを割き、手を考える。前の世界の記憶は薄れているが、BETAに押されっぱなしの戦況ではその場その場で対応するしかなく、そもそも祐麒は有能な衛士としてこき使われる立場にあり、そこまで深く考えることはしなかった。肉体的、精神的なダメージを考えても、そこまで考えて戦うのは厳しかっただろう。だからこそ、命令を出してきた上官たちの苦心が今になって少しだけ分かった気がした。
 戦況は刻々と変化している。A-01部隊も、そろそろ動き出す時期に来ている。
『――CPよりヴァルキリー1、現状、指揮権は現場に託されていますが、どう動きますか?』
 通信からの声は、ピアティフのものだった。ピアティフの言う通り、今回のA-01は遊撃部隊であり、現場の状況に応じた動きを任せられていた。そのA-01に口を出して聞いてきたということは、やはり戦況、特に迎撃している帝国軍に不利な予兆が見え始めてきたのかもしれない。
 同列とはいえ、武は現時点においては助っ人のような位置づけで、部隊長はあくまでみちるである。果たして、みちるがどのような決断を下すのか息をつめて待っていると、やがて方針が部隊に伝達される。それは祐麒の読みと同じで、戦列が薄くBETAの進撃を許す危険性が最も高いポイントを押さえようというものだった。即ち、旧刈羽方面から出雲へと抜けるルートである。

『出撃するぞ、ヴァルキリーズ!』
 みちるの号令とともに、遂に大勢のルーキー達を引き連れた新生ヴァルキリーズは動き出す。
 まだBETAのいない場所なので当たり前だが何事もなく進軍し、戦場が近くになったところで一旦止まり、隊列を再び整えつつも時々刻々と変わる様相を伝えてくるデータを確認する。
 先ほどの予想から大きくは変わっておらず、BETA群の動きと量から、帝国軍の防衛線が徐々に押されているのが見て取れる。CPより送信されてくるそれらのデータを見ながら、祐麒は想定進撃ルートを描く。
 冷静に思考している一方で、オープンにされている回線からは、死地で文字通り死に物狂いの戦いを繰り広げている第12師団兵士達の叫び、悲鳴、怒号といったものが間断なく届いてくる。

『――くそっ、支援砲撃はどうなってるんだ! 俺たちをBETAの餌にするつもりか!』
『――あと三分待て、信濃川河口一帯への支援砲撃が終わり次第――』
『クソッタレ! ああ分かったよ、きっちり三分もたせるから、一秒でも遅れたらてめぇのケツを吹き飛ばしてやるからな!』

 この手の威勢の良いものはマシな方で、悲惨なのはBETAに蹂躙されつつある部隊の兵士達である。

『―――う、うあっ、うあああああああ! 来るなっ、来るな化け物―――っ!!』
『―――落ち着け、山原っ! 三倉中尉、戦車級に集中砲火――』
『―――畜生っ、ぶっ殺してやる、ぶっ……ひっ、ぎゃああああああああっ!!!』
『―――ひっ、ひいっ!? や、山原少尉が喰われ……うぇぇっ!!』
『―――くそっ、諦めろ間に合わんっ。それよりも北西から向かってくる戦車級に――』

 こういった声だけ切ることが出来れば良いのだろうが、そう都合よくいかないのは致し方ないところ。悲惨ではあるが、戦場では日常的に起こっていることであり、この手のものを雑音として処理する能力が求められるし、嫌でも戦い続けるうちにそういう体になっていく。
 気分の良いものではないが、幸いといったものか祐麒も動じることはなかった。明確な記憶は失われても、数多の戦場を駆けたことは覚えており、身に沁みついているのだろう。
 まあ、新任少尉達には聞かせなくても良いのかもしれないが、いずれ嫌でも耳にすることになるわけで、これくらいで戦場に行くのが嫌になるようでは実際の戦いで耐えられるわけがない。むしろ、多少なりとも現実というものを知らせておいた方がよいだろうと勝手ながら思う。
 実際、旧207A教育訓練分隊の新任少尉達は、バイタルデータを見てもその動揺している様が手に取るように分かる。
 特に戦術機装甲部隊とBETA群の近距離戦闘が始まり、戦場を渡り歩いてきた衛士にとっては当たり前の、新任少尉には阿鼻叫喚としか思えない内容が始まると、一気に心拍数が高まり、極度の緊張状態に陥っていく。網膜投影のサブウィンドウ上に映し出される彼女たちは、程度の差こそあれど見る見るうちに表情が強張り、青ざめ、泣きそうな顔をしているものもある。
 ポーカーフェイスの晴子でさえ、やや顔色が白くなって見える。
 先ほど、全員の緊張を解こうとした会話はあえなくリセットされてしまったようだが、仕方ない。恐らく、ここでもう一度緊張を解いたところで、戦場に立ってBETAを前にすれば再びリセットされてしまうだろう。
 だけど、だからといって手をこまねているわけにはいかない。1%でも生存確率を高めるため、努力を惜しまない。その1%が生死の分かれ目になるのだとしたら、惜しんだことを生涯、後悔することになるから。

「ヴァルキリー13より各機に。先ほども告げたように、俺が皆を守ります。だから、絶対に死なないでください」
 無茶なことを言っていると思うが、それで構わない。
「――何せ皆さんには後の『福沢ハーレム部隊』に入ってもらわないといけませんからね」
 先ほどのネタを拝借して、冗談めかした口調で言う。
『はぁ? ちょっと福沢、アンタ――』
「速瀬中尉、さっそく反応いただけるとは、ありがたい。部隊発足の折には、ハーレム01の称号を与えましょう」
『なっ……』
『ええ~っ、ちょっとずるいよ福沢くん。私のこと強引に押し倒してあんなことしてきたのに、01は速瀬中尉なんて』
 タイミングよく晴子が乗ってきてくれて、これをきっかけに先ほどと同じような軽口が通信で交わされる。殆どのメンバーは、これが緊張をほぐすためのものだと理解しており、中には緊張で震えた声で、それでも無理に軽口を叩いてくるメンバーもいた。でも、例え強がりだったとしても、口にできるだけ良い。
 ほどよく息抜きが出来たタイミングで、みちるからいよいよ出撃指示が下る。
『ヴァルキリー01より全ヴァルキリーへ。現況、帝国軍が最も押されている戦域にこれより向かう。ここから15km先に展開している第112戦術機甲中隊の防衛している地域だ。我々は海岸沿いに進軍して西側からBETAを叩く。遠慮はいらない、訓練の成果を存分に発揮してBETAを殲滅させろ』
 ピンと緊張感で引き締まる空気を感じるが、ある程度の余裕はあり、悪くはない。
『ヴァルキリー01よりヴァルキリー13、福沢は状況に応じ自由に動く許可を与える。最善と思う行動をせよ』
「ヴァルキリー13、了解」
 頷きつつも、内心で苦笑する。
 簡単に言うが、みちるも随分と厳しい要求をしてくるものだ。本来、軍隊においては上意下達が絶対であり、戦場においても作戦に基づいた動きをしなければならない。もちろん、戦場は生き物でもあり、状況に応じて臨機応変に対応していかなければならないのは言うまでもないのだが、最初から自由にしてよいとは。初陣のメンバーも多く、戦っているうちにパニックになるものもいるだろうし、経験者でもどうなるのか分からないのが戦場、それらをうまいこと助けろと、みちるは暗に言っているのであろう。
 それだけ信頼されているのか、うまいように使われようとしているのか、だがいずれにしても『最善』とは、ヴァルキリーズ全員が生きて帰ることだろう。
「……そんじゃまあ、期待に応えますか」
 もとよりそのつもりであるし、この程度をクリアできなくてハイヴを叩くなんてできっこない。
 そうこうしているうちに戦場が間近に迫る。

 第112戦術機甲中隊は押し寄せる大群のBETAを相手に、必死で防衛陣形を保って奮戦しているものの、状況としては完全に孤立しておりこのままでは全滅するのも時間の問題と見える戦況である。
 中隊は、増援の姿に喜色を見せたものの、それが一個中隊にすぎないと知って声のトーンが落ちる。それくらい、相手取っているBETAの数は他と比べても多い。
 だが、それを救ってこそヴァルキリーズが出撃してきた意義がある。
『ヴァルキリー01より第112戦術機甲中隊指揮官、我々はこれより西側から突入する。タイミングを見て補給と戦線の立て直しを。第14師団の増援が来るまで、死ぬ気で踏ん張れ』
『――――了解した』
 さらなる増援の話を聞き、相手指揮官からの返事に力が入った。損害は出ているものの、隊列は崩れておらず、練度の高い部隊だということが見てわかる。これなら、問題ないだろうと判断する。
「ヴァルキリー13より全ヴァルキリー。隊長の言った通り、第14師団が増援にくるらしい。つまり、俺たちの仕事は第14師団が来るまでにこの戦域のカタをつけるってことだ」
『ヴァルキリー02、了解。ってゆーか、増援が無駄足になっちゃうから、もっと早く片付けて他の戦域に行ってもらいましょう』
 既に血気にはやっている水月は問題ないだろうが、他のメンバーには不安がある。
「ヴァルキリー13よりヴァルキリー01、俺が先に突っ込んで突破口を開きたいんですけど、いいですか?」
『――――構わんが、どうする気だ?』
「派手に行きますから、続いて援護お願いします」
 言うが早いが、祐麒は一気に最大戦闘速度まで引き上げると、躊躇することなく中空へと舞い上がった。
 帝国軍の衛士から驚きと、そして警告の言葉が出るのを無視してBETAが蠢動する大地の上空を翔け、同時に突撃砲で地上のBETAを無造作に薙ぎ払う。
「こんだけ密集していたら、狙わなくても当たるな……っと、来たか」
 コックピット内に、光線級が放つレーザー照射の警報が鳴り響いた。
 引き続き突撃砲を乱射しつつ、逆噴射で元から目をつけていた場所に不知火を急降下させると、直後に空中をレーザーが切り裂く。
 レーザーには目もくれず、周囲のBETAを砲撃でなぎ倒してゆく。圧倒的な物量を前にしては不利に思えるが、長時間留まる必要はない。祐麒が削いで薄くなったBETAの壁を突破して、次々とヴァルキリーズが突入してくるからだ。BETAを分断して帝国軍側に余裕をもたせ、晴子たち初陣の連中も動きやすくする。加えて、BETA戦で無防備に空中を飛翔しながらレーザーをかわすという、タブーともいえる動きを見せてヴァルキリーズの優秀さをアピールもした。
『福沢ばかり目立たせてんじゃないわよ、ほら、行くわよっ!』
 水月を皮切りに、ヴァルキリーズの他の面々も戦闘になだれ込んでゆく。
 水月は突撃前衛長、エースの名に相応しい激しさをもって突き進み、BETAの群れを蹂躙し、切り裂いてゆく。そして彼女を補佐するべく、涼宮茜、築地多恵、小笠原祥子が従って進む。
「うあぁぁぁぁあぁっ、ひぃっ、あ、茜ちゃ~んっ!?」
「お、お、落ち着きなさい多恵、変な動きしないのっ」
 祐麒とは違った意味で予測不能な機動を見せるのが築地であり、それは茜もわかっているはずなのだが、やはり緊張のせいか意味もない言葉をかけている。それでも、目の前で築地が慌てているせいで逆に落ち着いたのだろうか、訓練時と比べてやや動きが硬いものの、冷静に戦場を見られているようだった。
 さらに茜と多恵は初陣だが、既に戦闘経験のある祥子が二人をカバーするように動いており、大きな問題はないようだった。これが、水月が率いるB小隊である。
 B小隊に続くのが、隊長であるみちる率いるA小隊、柏木晴子、高原千里、麻倉一帆が続く。千里は突撃前衛の適性が高いが、複数のポジション適性を保有するため状況に応じて変わり、今は迎撃後衛として砲撃支援、打撃支援の晴子と千里を守っている。
「うひぃぃっ、気持ち悪いっ、やだBETA! うきゃあああっ!?」
「ええい、うるさい高原。あとめくら滅法に撃つな、味方にあたる」
「隊長、麻倉が固まっちゃってます!」
「どうにかしろ、柏木」
「え、えぇ~~っ!? ど、どうにかって言われても」
 新兵三人を率いて、さすがのみちるも苦戦しているようだった。
 実際、麻倉一帆は戦術機の中で硬直状態にあった。訓練で体が覚えているため、かろうじて機体を動かせてはいるものの、ほとんど無防備で攻撃も出来ない。晴子がフォローしているものの同じ初陣、余裕がそこまであるわけではない。
(BETA……撃たなきゃ、撃たなきゃ……)
 心の内で必死に思う一帆なのだが、BETAの醜い姿を目にし、圧倒的な大群が襲い掛かってくる様に心が恐怖に飲み込まれてゆく。
(あっち? ううん、こっちを…………!!)
 打開しようと本人的には必死なのだが、一度パニックに陥ると悪循環にはまっていくのを避けられない。視界も思考も狭くなり、通信による声も耳に入らない。目前のBETAしか視界に入らず、それを前にしても思うように動くことが出来ない。そんな麻倉機に向かって殺到するBETAの群れが、一瞬にして薙ぎ倒され醜い肉塊に成り果てる。
「――落ち着いて、麻倉さん、大丈夫だから!」
 咄嗟に判断し戻ってきた祐麒の突撃砲による斉射だった。眼前の危機が去っても、一帆はまだ正常に戻れない。
「あ……わた、私…………っ」
「大丈夫、麻倉さんのことは俺が守ってあげるから。ほら、落ち着いて深呼吸して」
「はっ、はっ、はいっ……はぁ…………ふぅ……」
「そう、体の力を抜いて、いくよ……」
「はい……」
「俺の動きにあわせて……そう、焦らなくていいから。初めてだからキツイかもしれないけれど、そう、その動き……」
「はぁっ、はぁっ…………あ、んっ……」
「――――って、ふぅくぅざぁわぁ~~~~っ!! あんた、麻倉と何エロい会話してんのよっ!?」
 いきなり水月の大音響が割って入る。
「ちょ、なんですか、別に俺はエロいことなんて」
「麻倉もエロい声出してんじゃないわよっ!」
「なっ……だ、出してませんっ」
「てゆうか、一帆のことばっかえこ贔屓してずるいよ祐麒くーん」
「柏木さんも、余計な茶々いれないでくださいよっ」
 ふざけた雰囲気になってきたが、お蔭で一帆もパニック状態を乗り切り、どうにか平静を取り戻したようだった。その間も、みちる、そして千里が周囲のBETAを確実に足止めしてくれているお蔭だった。

「……どうやら、大丈夫みたいだね。まったく、戦場にあってもこんなに騒がしいとは。二条は大丈夫かい?」
「――――はい、宗像中尉」
 殿をつとめ隊を守っているのが美冴率いるC小隊、制圧支援の風間祷子と二条乃梨子が続く。人数バランス的には祐麒がC小隊に入るのが良いのだろうが、今回の戦闘では大丈夫とみちるが判断したのだろう。あるいは、それも踏まえて動けということなのかもしれないが、美冴や祷子の動きを見る限り不安はなさそうだった。
 全員がどうにか問題なく動けていることを確認すると、祐麒は再び隊の先頭に戻り突撃してゆく。祐麒が穴を空けた箇所を起点に、水月の隊が道を開いて切り裂き、みちるの隊が大きく傷口を広げ、零れたものを漏らすことなく美冴の隊が始末する。
 A-01部隊の動きに問題はないが、今後もそのままうまくいき続ける保証はない。ならば祐麒がやるべきことは、要塞級、光線級を殲滅することだ。これらさえ片付けてしまえば、脅威は大きく減る。
 本来ならもう一機を連れてゆき、二機連携で戦った方が効率が良いし安全なのだが、それはあくまで同レベルの腕前、動き、意思疎通ができる場合に限る、今回、新OSもいまだ搭載できていない状態で連れてゆけるとしたら、みちるか水月くらいだろうが、この二人を抜いたら部隊そのものが危険になる。
「……と、ゆうことで、やっぱ俺一人でいくしかないよなぁ。だから伊隅大尉、俺を自由に動かそうとしたってこともあるのか」
 祐麒はCPに連絡を取り、要塞級と光線級の最新データを表示してもらう。一人で突撃するからには、いかに効率よく要塞級、光線級を無力化できるかを考える。幸い、要塞級と光線級は比較的離れており、要塞級を盾に光線級の攻撃を防ぐことが出来るとみた。
「とはいえ、本隊と離れ過ぎないように気を付けてはおかないとな。弾薬切れ、補給できずにゲームオーバーなんて、間抜けもいいところだし」
 調子に乗ってはいけない、この戦いはあくまで防衛戦、BETAを撃退し、尚且つヴァルキリーズを生き残らせることが目的である。新OSでもないわけで、無理な機動を行うわけにもいかない。
「……よし、行きますか」
 心は熱く、且つ冷静に。
 祐麒は、自ら考えたルートに従って進軍を始めた。

 

 要塞級を盾にして光線級の攻撃を抑えつつ、その要塞級と光線級を確実に潰してゆく。文字にすれば簡単なことでも、行動に移すのは困難なそのことを、祐麒が操る不知火はいとも容易くこなしているように見えた。
 しかし、それを見据えるA-01の面々、特に自らの腕に自信を持つ者ほどその出鱈目さに目を見張り、言葉を失う。
 速瀬水月は悔しさに歯噛みする。シミュレータで何度も訓練を行い、その機動を目にしてきたはずなのに、あれはあくまで訓練でしかなかったのだと理解する。訓練でできないことが本番で出来るはずがない、それは真実であろうが、訓練で見せたことが全てではないことも確かだった。
 単機でBETAの大群に飛び込み、要塞級に光線級という面倒な敵を確実に、効率よく屠り去ってゆくという離れ業をなんでもないことのようにこなしていく。もちろん、祐麒に続く水月達の動き、援護を期待している部分もあるが、そこまで計算して動いていることがまた単なる猛戦でないことを意味している。
 内心の悔しさはさておき、水月は祐麒の意図を汲んで確実に戦闘を有利に進めていく。いずれ超えてみせると思っているが、そのためには今任されたことをこなさずに出来るはずもないと分かっているから。
 隊長の伊隅みちるもまた、舌を巻いていた。祐麒の実力を信じたというのと、力を有効に活かすために自由を与えたわけで、それは大きな結果を出しているのだが、想像以上の能力には唸らざるをえない。
 訓練中に本気を出してなかったというわけではないのだろうが、戦場で見せる力はまた異なるものなのかもしれない。
 だからといってもちろん、A-01として指をくわえて見ているだけのつもりはない。祐麒に負けず劣らず、個の力では敵わなくとも、部隊として優れているところを見せ付けてやるべく奮戦する。

 

 祐麒を含むA-01の活躍によって、戦況は帝国軍有利に変わりつつあったが、それでも予断を許すものではない。
 最前線から引き返した祐麒はA-01本隊と合流し、危険を事前に察知して潰し込むようにしていた。
 特に初陣の少尉達は初期の混乱状態を抜けると、奮戦して充分以上に合格点を出せる活躍をしていたが、だからといって危なくないわけではない。特に、『死の八分』を乗り越えた後、余裕が出てくると隙が出て危険にもなる。
『あわわわっ、あ、茜ちゃ~ん、ひええええっ!!』
『落ち着きなさい多恵、大丈夫、恐れることはないわよ、こんなの』
 そう言う涼宮茜の操縦する不知火に、残っていた要塞級の巨体の陰から要撃級が突っ込んでくる。
「――涼宮、油断するな、見えている範囲以外にも意識を向けろ。築地、お前はまず前方180度内の視界に集中しろ。他の範囲は涼宮と……小笠原がカバーしてくれる」
 祥子さんと言いそうになり、慌てて言いかえる。
 A小隊はまだ多恵がやや不安だったが、茜は落ち着いており、水月も猪突猛進に見えて隊員のことはきちんと注意しており、破綻は見えない。
 続いてB小隊に向かうと、みちるの制御が行き届いているのか、非常に安定している。特に、砲撃支援の晴子は初陣とは思えない視野の広さで各所をカバーしている。声をかけたかったが、高原千里の動きがややぎこちないのでフォローに入る。元が前衛の適性が高いため、迎撃後衛のポジションで苦戦しているのかもしれない。
「高原、あまり無理しなくても、伊隅大尉がうまくあわせてくれる。もっと思い切りやっても大丈夫だぞ。麻倉は逆にもう少し抑えろ、無駄が多い」
『りょ、了解であります』
『はいっ、申し訳ありませんっ』
 こんな指導が出来るのも、戦局に比較的余裕があるからである。一帆が落ち着きを取り戻したB小隊は、それくらい安定していた。
 一方で最も不安定なのが意外にもC小隊であった。
 A,Bと比較してメンバーが一人少ないこともあるだろうが、前を行く2つの小隊と少し距離が離れすぎている。更に、初陣である乃梨子の動きが思っていた以上に芳しくなく、そのフォローに美冴、祷子が手を取られているようでもある。
 訓練時の乃梨子は決して劣等生ではなく、理論は誰よりもすぐに覚え、戦術機の操縦も努力でこなしてみせていた。
 ただ、優等生的性格でプライドも高い。優秀とはいえ教科書通りにいかないのが戦場であり、うまくいかずに先輩のフォローを受けていることから余計に焦ってまたうまく動けないという悪循環に嵌っていた。
『二条、落ち着け。ゆっくりやっても問題はない』
『ですが、私のせいでC小隊が遅れています。早く追いつかないと』
『二条少尉、今の戦局は私達の方が優位に進めているし、確実に進軍して追いつけばいいのよ。焦って進んでも、いいことはないわ』
 美冴、祷子の二人が乃梨子を諭すが、逆にそれが乃梨子を焦らせてしまう。
 事実、美冴たちの言う通りではあったのだが、状況が少しずつ変わっている。距離が空き過ぎたため、A、B、両小隊によって開けられていた空間に、大量のBETAが向かって埋めようという動きを見せていた。
 もしもここで埋められてしまうと、C小隊が完全に孤立してしまう。
『――ちっ、塞がれるとさすがにまずい』
『わ……私が、切り開きます!』
『馬鹿、待て二条!!』
『私がフォローに入ります。美冴さんは、全体を見て指示を』
 責任を感じたのか、乃梨子が独断で動きBETAの群れに突っ込もうとするのを、慌てて祷子が抑えに入る。
『うあぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!』
 乃梨子が吼え、BETAを次々と撃ち、薙ぎ倒してゆくが、周囲が見えていない。祷子が乃梨子の死角をフォローするが、その祷子も乃梨子に目がいっており周囲への注意が不足していた。
「――――祷子ちゃん、右から突撃級!!」
『え――――あ、はいっ!』
 祐麒からの通信に、慌ててその場から身を翻して突撃級の突進を直前でかわす。地形とBETAの動きから、死角にあたる場所ではあったが、普段の祷子なら気付かないことはない。
『ありがとうございます、福沢大尉――』
 しかし、想定外のことが生じる。
 そのままであれば通り過ぎるだけだった突撃級の進路に、乃梨子の不知火が不意に降り立ったのである。自分の周囲の戦局を見られていれば、決して行うことではなかったが、乃梨子には見えていなかった。そして気が付いたときは、誰かが手を出せる瞬間はとうに過ぎていた。
 直前で気が付き、咄嗟に跳躍して逃れようとした乃梨子であったが、完全には躱しきれず突撃級に跳ね飛ばされ、制御を失って大地に倒れる。
『二条!!』
 美冴、祷子が救援に向かうが、既に周囲には戦車級が群れを成して集まっている。
『……くっ…………ぁ、うわああああああっ!!!!?』
 倒れた戦術機を立て直そうとしたところ、目の前に迫る戦車級の大群に悲鳴を上げ、乱射する乃梨子。近くにいる戦車級を倒していくが、元よりBETAの脅威は物量である、たちまちに不知火を取り囲み、強靭な顎で戦術機の装甲を噛み砕いていく。
『や……来ないで、来るな、来るな来るな来るなっ!!!』
 懸命に薙ぎ払おうとする乃梨子だが、一度取りつかれてしまえば逃れるのは困難、メリメリ、バキバキという音とともに大破してゆく戦術機。そして、とうとうコックピットに外の明かりが差し込んできた。即ち、食い破られて外が見えるということであり、戦車級の大きな口が乃梨子に迫る。
『っ………………ぁ…………ぁ…………』
 声を失い、顔色を失い、ただガクガクと震えるしかできない乃梨子をめがけ、少しずつ破壊面積を広げて迫ってくるBETA。
 そのBETAが突然、派手な体液を飛び散らせて破裂する。
「大丈夫か、のり……二条さん!?」
 祐麒の呼びかけにも、乃梨子はBETAの体液で全身を汚して震えたまま、応えることが出来ない。
 かろうじて間に合った祐麒は周囲の戦車級を薙ぎ倒し、その間に美冴、祷子もやってくる。
「宗像中尉、風間少尉、これから俺が二条少尉を助け出しますので、その間、周囲をお願いします!」
『――了解!』
 返事と同時に、祐麒はコックピットから飛び出して乃梨子の元へと向かう。
「乃梨子ちゃん……乃梨子ちゃん、大丈夫!?」
 他に誰もいないということで、つい、前の世界の時の呼び方になってしまったが、気にしている暇はない。
 乃梨子は目の焦点も合わず、祐麒の声も耳に届いていないようだったが、体に怪我や傷は見当たらずにとりあえずホッとする。
「しっかりして、乃梨子ちゃん!」
 二回、三回と頬を叩き、どうにか目に光が戻ってくるのを確認する。
「……ぁ…………わ、わた、私……」
「もう大丈夫、よく頑張った、よく我慢した」
 抱きしめ、安心させるように頭を撫でる。
 本当ならもう少し時間をかけたいところだが、戦場でそのような余裕はない。足腰の立たない乃梨子を座席から無理矢理引き剥がし、そのまま背負って自分の不知火に移動する。
「あ、あ……わた、私、あの…………」
「大丈夫、もう心配無用。何せ、俺がいるからね」
 わざと冗談めかして言うが、今の乃梨子には何をどういったところで厳しいだろう。それでも、そうするしかなかった。

 この後、新潟防衛戦は無事に人類側の勝利、しかも今までのBETA戦を考えれば大勝利ともいえる結果に終わった。その一翼を担ったのがA-01、ヴァルキリーズの面々であり、彼女たちの活躍はここから広がってゆく。
 尚、A-01に戦死者、怪我人は無し。
 文句ない戦果であった。
 ただ一つを除いては。

 

 戦闘終了後、基地に戻ったA-01の面々は食堂でささやかな祝杯をあげていたが、完全に笑顔というわけではない。特に美冴、祷子は、この場にいない乃梨子の内心を慮ってしまい、晴れやかに笑うわけにはいかない気がしていた。
「何よ、二条ったら。誰だって失敗なんてあるんだし、初陣なんだから恥じる必要ないってのに、ねえ」
「水月、そうはいっても、ね」
 A小隊、B小隊のメンバーももちろん、通信によって乃梨子の悲鳴、叫びを耳にしており、知らないわけではない。それでも明るく振る舞う、生き残っているのだから、水月の言う通りに恥じる必要はないが、本人的にはショックが大きいだろう。他のメンバーが大きな失敗をしていないだけに、一人だけ大破、それも自分の責任によるものである。
 加えて、醜態を晒したこと。
 基地に帰り着いたあと、祐麒は乃梨子を毛布で包み込み、抱きかかえて自分の部屋まで運び込んだ。乃梨子を一人にするのが少し不安だったからだ。
「……も、申し訳、ありません…………」
 自室に着いた後で、ようやく強化服を脱いだ。本来なら、もっと前に着替えるのだが、今回ばかりは他人の目がない場所にする必要があったからだ。
 乃梨子は羞恥で項垂れ、祐麒の目をまともに見ることも出来ないでいる。
 それはそうだろう、戦争とはいえうら若き乙女が、涙と鼻水と涎にまみれた顔を見られたばかりか、下の世話までしてもらったのだから。
 突撃級の体当たりを受けて地面に激突した衝撃で、機内にも損傷が出た。そのうちの一つが排泄用のユニットで、祐麒が乃梨子をコックピットから出させようとしたとき気が付いた。うら若き乙女が、いくら死を目の前にした状況だったとはいえ失禁しているのを見られたのだから、恥以外の何物でもないだろう。
「申し訳ありません、大尉も汚してしまって……あの、シャワー、一緒にどうぞ」
「え? いや、しかしさすがにそれは……」
「大丈夫です。それに、大尉を待たせるのは、嫌なので……」
「…………分かった。でも、そっちは見ないようにするから。なんなら目隠し、する?」
「大丈夫です」
 二人で、さして広くもない浴室に入ってシャワーを浴びて汚れを洗い流す。当然、二人とも全裸であるが、乃梨子の方は見ないようにする。不思議と、イヤらしい気持ちはわきあがってこない。戦場であれば、こういうシチュエーションだって皆無というわけではないのだ。
「まあ、その、なんだ、気にするな。俺も初陣の時は情けなくも小便ちびったし、補給しながら休むことなく連戦したときは、大便だってしている。戦術機に乗っている奴は、言いこそしないが誰だって中でしているんだぞ」
 重くならないよう、軽い口調で言ってみたが乃梨子は反応を示さない。
 こうなったら、時間を置くしかないなと割り切り、さっさと浴室を出ようとしたところで、乃梨子に腕を掴まれ引き止められた。
「ど、どうかした?」
 乃梨子の体を見ないように訊ねると。
「あ、あの……きょ、今日のことを…………」
「誰にも言わないって」
 口止めのためにしようとしたのかと思ったのだが。
「あ、いえ、そうじゃなくて、助けていただいたお礼と、皆から隠してくれたお礼に……ただ、私、何も持っていないから……」
 普段の冷静でクールな乃梨子なら、絶対に考えないしやらないようなことをする。それは、まだ心に余裕がないせいだろう。
 祐麒は頭を振り、ため息を吐く。
「……感謝しているなら、今度俺が戦場で危なくなったら助けてくれ。っていうか、危なくなったら助け合うなんて当たり前のことだし。隠したのだって、当たり前だろ、二条さんが同じ立場なら相手のことを考えて隠すだろ。それと同じこと」
「………………でも」
「それに、そうゆうことをするなら、やっぱりお互いに好きになった相手にしてもらいたいし」
「…………晴子には、したのに?」
「ばっ…………あ、あれは、彼女の冗談だからな、真面目に受け取らないでよ、いや本当に、マジで!」
「……なんですか、それ。マジって?」
 そこでようやく、僅かにだが乃梨子が笑ったように見えた。
「マジはマジだよ。とにかく、そういうことだから、もう気にするな」
 一方的に告げて浴室を出て、乃梨子が出てくるのを待つことなく、食堂にやってきた。今頃、自分の部屋に戻っているだろうか。
「――福沢大尉はもしかして、二条少尉を慰めてあげていたんですか? ベッドの上で」
「なっ……そ、そんなわけないでしょう、宗像中尉っ!」
「その割には時間かかってましたし、ほら、シャワー浴びたのか髪がまだ僅かに濡れて」
「汗かいたからシャワー浴びただけですよ。二条少尉は、自分の部屋に戻りましたから。それよりですね、せっかく皆が無事に戻ってきたんですからもっと別の……」
 顔に出やすいので、どうにか他の話題に移そうとした祐麒だったが。
「あ、そういえば気になっていたんだけど福沢くん。どうして風間少尉のことを"祷子ちゃん"なんて呼んだのかなぁ?」
 晴子が新たな爆弾を放り込んできて、一気に周囲に誘爆する。
「あ、あたしもその通信、聞きました!」
「びっくりしたよね、いきなりだもん」
「いつの間にそんな親しい仲になったんですか!?」
 詰め寄られ、回答に困る祐麒。
 確かに、つい口走ってしまったのだが、それはもちろん前の世界で"瞳子"がいたからで、咄嗟のことでつい"瞳子ちゃん"のように呼んでしまっただけなのだが。
「……いや、あの時は焦っていたから、つい」
「咄嗟の事だったからつい、普段と同じ呼び方になってしまったと、そう言いたいわけですね。そういう関係だったの、祷子?」
「ち、違うんです美冴さん、私もどういうことなのかさっぱり……ただ、福沢大尉」
「は、はい?」
「私のことを、"祷子ちゃん"と呼ばれるのであれば……できれば他に誰もいない時にしていただきたいと」
「はぁ!? ちょっと、祷子それどういうことよ」
「あーっ、ずるい! それじゃ祐麒くん、あたしのことは"ハルー"って呼んでね? あ、あたしは二人きりのときじゃなくてもOKだよ」
「馬鹿みたい。私はお断り」
「あ、茜ちゃんと同じぐ!!」
「福沢ぁ、アンタいつの間に、柏木だけじゃなく風間にまで手を出していたの!? 戦闘中に麻倉は口説くし、どんだけ色摩なのよっ!」
「違うっ、誤解、誤解ですってば!」
 途端に騒がしくなる面々の一方で、席の端っこ、祥子は一人無言の冷めた目つきで祐麒達のことを見つめていた。

 

次に続く

 

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