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ノーマルCP マリア様がみてる 可南子

【マリみてSS(可南子×祐麒)】響くのは

更新日:

~ 響くのは ~

 

 仕方ないことなのだと、自分に言い聞かせる。
 何を言っても、どんな態度をしてみせても、変わることはなかった。この場所に他人が踏み入ってはいけない、などという正当な理由など持つべくも無かったし、そのことを言われてしまえばそれまでだった。
 自分の方が先に来ていたから、なんて幼い言い訳をしてみたところでどうしようもなく、むしろ次のときにはアイツの方が先に来て待ち構えていたくらいだ。
 気にしてはいけない、無視すればいい。周囲の木々だと思え。地に転がる石ころと同じ。人の姿をしているのが気になるのならば、地蔵だとでも思えばいい。視線が気になるのであれば、山から狸が見ているとでも考えればいい。要は、自分の気の持ちようで、どうにでも変わるのだ。
 慣れだ、慣れ。
 かれこれ、どれくらい続いているだろうか。初めて会ってから毎週、飽きることもなくやってくる。いい加減、慣れたはずだ。
 ええい、慣れろ、自分!

 シュートが思うような軌跡を描かずボールが大地に落ちたところで、可南子は休憩に入ることにした。
 スポーツバッグの中からタオルを取り出して汗を拭い、水筒に入れてきた麦茶を口にする。冷たい麦茶が喉を通りすぎてゆくと、体全体に心地よさが浸透してゆく。
「お疲れ」
 声がしたほうに目を向ける。
「別に、これくらいで疲れませんから」
 素っ気無く、言い返す。
 すると相手は、苦笑いをするだけで特に何を言い返すわけでもない。なんだか、馬鹿にされたというか、見下されたというか、とにかく心がざわつく顔だった。
 一人だけ、自分だけ意識をしてしまっているようで、恥しさと怒りがこみ上げてくる。だけれども、それを表に出してしまえばまた相手に笑われるだけだと思い、平静を取り繕って近くの石に腰を下ろす。
 タオルで額を拭い、向こうからこちらの顔が見えないようにして、そっと相手の様子をうかがうと。
 まるで何事も無かったかのように、可南子のことなど意識の中に入っていないかのように、文庫本に目を落としていた。
 一体、毎週毎週、何しに此処に来ているのか。本を読むだけなら、他にいくらでも場所があるだろうに。
 一度そう言うと、この場所は落ち着くから、なんて平然と言ってきた。可南子が睨みつけると、邪魔だというなら場所を移すと言って来たが、それじゃあ邪魔だからどこか行ってくれなんて言うと、なんだか自分がやけに相手を意識しているように感じられ、またそう思われてしまうのではないかと考え、意地を張って邪魔じゃないと断言してしまった。
 それ以来、本当に遠慮することなく、毎週待ち構えたようにやってくる。決まった時間になるとやってきて、本を読んだり、音楽を聴いたり、何もせず鳥の囀りに耳を傾けてぼうっとしていたりしながら、可南子が練習しているのを見守るようにしている。
 お互いのことは、知らない。
 分かっているのは、自分が「カナコ」であり、相手が「ユウキ」であるということ。
 毎週決まってこの時間になると、この場所にやってきて、何を話すわけでもなく淡々とお互いの時間を過ごすということ。
 それ以上でもそれ以下でもない、不思議な関係。

「暑いね」
「もう、夏ですから」
 日中に練習をするのは、段々と厳しくなってくる。陽が落ちてきてからか、朝の涼しい時間に変えたほうが効率もいい。
 ちらと、ユウキに目を向ける。
 可南子の視線に気がついたのか、ユウキもわずかに首を傾け、可南子の方を見た。ぷいと、目をそらす。

 時間を変えたら、彼はどうするだろうか。

 しばらくは、通い続けるかもしれない。でもそのうち、可南子が練習をやめたか、場所を変えたかしたと思い、諦めて来なくなるだろう。
 諦めて、とはどういうことだろう。
 それではまるで、ユウキが私に会うために毎週、来ているみたいではないか。ありえない、そんなことがあるはずない。
 もう一度タオルで首筋の汗を拭き、立ち上がってボールを拾い上げる。

 ユウキの方に再度視線を向けると。
 彼は先ほどと変わりなく、淡々と文庫本の文字を目で追っているのであった。

 

 夏休みに入る前に、可南子は練習の時間を変えた。暑くて、集中力と体力が短時間で削ぎ取られてしまう日中ではなく、比較的涼しい朝の時間帯に練習をすることにした。
 当たり前だけれど、その日、ユウキは姿を見せなかった。
 淡々と練習をこなし、終了して帰宅する。

 翌週も、同じ。そしてまたその翌週も。
 ユウキは姿を見せることなく、一人の練習は続いていく。気楽で、ちょっと前までと同じ状態に戻っただけなのに、どこか心がイラつく。
「……ふん、根性なし」
 思わず、そんな言葉が口をついて出た。
 まるで、的外れな暴言だということは分かっている。時間を変えたことを告げなかったのは可南子であり、根性とは全く関係ないのだから。そもそも、練習の場に来る約束なんかしていないのだから、来ていなくたって問題は何もない。
 だというのに。
「……ちっ」
 ボールが手につかず転がってゆく。
 可南子は流れる汗を袖で拭いながら、近くの石に腰を下ろした。バッグの中から水筒を取り出し、冷たいスポーツドリンクを口に含み、大きく息をつく。
 目を閉じ、余計な雑念を振り払おうとする。
 今までずっと来ていたから、居ることに慣れてしまっていたのだ。そう、単なる慣れの問題。その前まではずっと一人だったのだから、またしばらくすればすぐに慣れる。ただ、それだけのことだ。
 内心で自分に言い聞かせるようにしながら、それでも変な思いが浮かび上がってくる。
 三日後からは、夏休みに入る。休みになったら、特別な用事がない限りはここにやってくるだろう。部活に入っているわけでもなく、家で何かすることがあるわけでもない。
 だけど。
「…………ええい、なんでこんなにイラつくのよっ?! そんなの、なんでもないじゃないっ!」
 一人で来て、一人で練習する。全く変わることなどない。
 今までだって、あのユウキが来ていたときだって、あんなの置物と同じで一人で練習しているのと変わらなかった。だから、何一つ前と変わることなんかあるはずがないのに。
「……っ」
 タオルを首にかけ、汗を拭く。
 転がったボールを無言で拾い上げ、バッグを肩に担ぎ、帰途につく。結局、時間と体力を無駄に浪費しただけの一日。
 去り際、一度だけ振り返ってみたけれど、当たり前だがユウキの姿はそこにはなかった。

 

 三日後、夏休みに入っての初日。
 あまりやる気は無かったけれど、可南子は朝の練習をこなした。こういうのは初めが肝心だし、最初にサボってしまうとその後も引きずってしまいがちだ。
 いまいちテンションの上がらないまま、練習をこなして帰宅。

 翌日は休み。その翌日は練習。次は休み。

 そして、夏休みに入ってから四日目。
 可南子は少しテンション高めで練習場所に向かっていた。というのも、先日、母の給料日であったため、今日は外食をすることになっていたから。
 可南子とて年頃の女子高校生。美味しいものが食べられると聞いて、嬉しくないわけがない。だから、今日はいっぱい動いて汗をかいて、体重を落としていこうと考え、久しぶりに明るい気分で練習に向かった。もっとも、沢山食べてこれ以上身長が高くなるのは勘弁して欲しいと思ったが。
 いつもの階段を足取りも軽く上り、珍しく鼻歌など歌いながら練習の場に躍り出ると。
「―――あ」
「…………」
 口ずさんでいたメロディが止まり、機嫌が良かったせいでにこやかだった表情が固まる。
 ユウキが、いたから。
「や、やあ」
 なんで、今さら此処に―――という疑問は、次の言葉でかき消される。
「何か、良いことでもあったの? 随分楽しそうだね」
 一気に、頭に血が昇る。
 果たしてそれは、羞恥のためか怒りのためか。
 にこにこと笑い、陽気に口ずさみながら階段を駆け上がってくる姿なんてものを見られてしまった。しかもその先にはユウキが待っていて、これではまるで、ユウキに会うのが楽しみで浮かれていた、みたいに見えるではないか。
 見ている者など誰もいないのだから、変な勘繰りをされる心配も無いはずなのだが、突然のことに可南子の思考は追いつかない。
「そ、そんなことっ、あるわけないじゃないですか」
 だからただ、芸のない言葉を口にして、照れ隠しをするかのように今度は憎まれ口を叩く。
「むしろ、悪いことが起きました。ええ、今まさに目の前で。ここのところ姿を見せなくて静かに練習できると思っていたのに、また何で今さら」
 わざとため息をつき、目を合わせないようにしながら歩く。
 本当に、ようやく居ないことに再び慣れ始めてきたというのに、なぜ今日になって急に姿を見せたのか。
 可南子の内心の動揺など気づかぬ様子で、ユウキはいつもどおりの穏やかな表情で可南子のことを見ている。
「いや、来たんだけれどいなかったからさ。最初の日は単に休みにしただけかと思ったけれど、その後も来る様子がないし……ひょっとして、もう来ないのかと思った」
「だったら、なぜ」
 今日、ここにやってきたのか。しかも、可南子が来るかどうかも分からない曖昧な状態で、朝早くから。もし、可南子が来なかったらどうするつもりだったのか。可南子は何も言わず、ただ目で問いかける。
「だって、そんなにバスケが好きな君が、やめるはずないから」
 至極あっさりと、聞いている可南子の方が恥しくなるような台詞を口にするユウキ。
「あと、やっぱり時間を変えたなら朝かなって。今は陽が沈んでもまだ暑いからね」
 今度は手を団扇代わりに扇ぐような仕種を見せて、肩をすくめた。ころころと変わる表情は、見ていてなぜだか落ち着かなくなる。無視して練習を開始しようと、ボールを取り出すべくバッグに手をかけたとき。
「あ、ちょっと待って。実は今日は、付き合って欲しい場所があるんだけれど」
「はっ!?」
 突然の誘いに、文字通り体が固まる。
「な、何を言って」
「少しくらい、いいでしょ? 多分、損はさせないと思うんだけど。ここまで自転車で来ているんだよね」
「え、ええ」
「じゃ、行こう。遅くなると、もしかして、ってことがあるかもしれないし」
 可南子の意向をほとんど聞こうともせず、話を進めていく。だけど、まるで子供のように無邪気な顔を見せられると、怒りや苛立ちのガスもどこか抜けていってしまう。急かすように石段を降りかけているユウキを見て、可南子は半ば諦めて後に続いた。
 階段を降りきり、停めていた自転車に跨り、走り始める。
 どこに向かっているのか、ユウキはまだ口にしない。可南子の方から尋ねるのも、なんだか興味を持ったみたいにとられるのが嫌で、仕方なく無言でただユウキの背を見てペダルを漕ぐ足に力を入れる。
 夏とはいえ早朝、自転車のスピードで駆けると心地よい風が体を撫でてゆく。後ろで束ねた可南子の長い髪の毛は朝陽の光を浴びて輝き、一部零れた髪の毛は躍動感も豊かに波打っている。
 前を走るユウキは、時折、可南子の方に顔を向けてくる。そして、可南子が遅れずについてきているのを確認して、また前を向く。
 気を遣われていることに気がつき、むっとした可南子は速度を上げてユウキの隣に漕ぎ進んだ。
「そんな気を遣わなくて結構ですよ。こんなスピード、遅いくらいですから」
「あ、そう? まあでも、あんま急いで怪我や事故にあっても馬鹿らしいし」
「さっきは、急げ、みたいなことを言っていたくせに」
「手厳しいな」
 苦笑いするユウキ。
 可南子もまた、軽く口元を歪めさせかけて、はっとする。
 二人、自転車で並んで走り、笑いながら話をしているなんて、これではまるで、仲の良い二人がサイクリングをしているみたいではないか、と。
 慌てて口を閉じ、速度を落としてユウキの後ろにつく。
 ユウキは首を捻って後ろを見たが、可南子はぷいと横を向いて、視線を合わせなかった。ユウキは少しばかり不思議そうな顔をしたが、何も言わずに前に向き直り、無言で可南子を先導してゆく。
 結局その後、自転車に乗っている間二人が言葉を交わすことはなかった。

 

 そうして十五分近く走った頃だろうか。後半は上り坂となり、暑さはまだ抑え目とはいえ、さすがに汗が流れ落ち出した頃。
 前を行くユウキの自転車の車輪の回転が緩やかなものとなり、やがて完全に止まる。ユウキに続いて自転車を停めて地面に降り立つと、可南子の目の前に広がっているのは。
「ここは……」
 周りには、特に何があるというわけではない。住宅街というほどに家があるわけでなく、店やビルが立ち並んでいるわけでもない。
 そんな、人の目を引きそうにもない場所に、ぽつんと存在している小さな広場。ベンチはあるが遊具があるわけでもなく、公園とすら呼べないような広場だったけれど、ただ一つだけ存在しているものがある。
「ゴール……」
 古びてはいるけれど、確かにバスケットゴールが立っていた。
 可南子がただ見上げていると、いつの間にかユウキが横に並んで立っていた。
「場所のせいか、あまり人が来ることはないようなんだ。なんで、こんな場所にバスケットのゴールがあるのかは分からないけれど、ま、いいよね。あるんだから」
「なんで」
「ん?」
「なんで、こんな場所を?」
「たまたま、見つけたから」
 本当に、たまたまなのだろうか。こんな場所に偶然やってくることなどあるのだろうか。可南子の頭の中を疑問が巡る。
 しかし。
 久しぶりに目の前にしたバスケットのゴールに、体が疼き出す。リリアンの体育館にもバスケットのゴールはあるが、まだ体育の授業でバスケットは実施していないから、本当に中学の頃以来である。
 ほとんど無意識のうちにバッグからボールを取り出し、ゴールに向かう。何度か軽くボールをバウンドさせて手に馴染ませると、フリースローの要領でシュートを放つ。
 ボールは可南子のイメージ通りに弧を描き、音もなくゴールの網に吸い込まれてゆく。
「おー、さすが」
 後ろからそんな声が聞こえてくる。
 ボールを拾いながら振り返ってみると、両手を頭の後ろで組んで、嬉しそうに可南子のことを見ているユウキ。
「やっぱり、ちゃんとゴールがあった方がいいよね」
 素朴な口調と笑顔に、なぜか動揺する。
 自分自身を誤魔化すように、可南子は手にしたボールをユウキに向けて投げつけた。驚きつつも、ワンバウンドしたボールを両手でキャッチしたユウキは、不思議そうに可南子のことを見ている。
「せっかくだから、やったらどうですか?」
「え、俺? でも俺、別にバスケはそれほど得意じゃないし」
「誰も見ていないし、いいじゃないですか」
「カナコちゃんに格好悪いとこ見られちゃうじゃない」
「べ、別に、最初から格好良いなんて思ってないですから、意味ないです」
「あ、そっか。それじゃあ逆に、ここで決めれば株が上がるのかな」
 なんて言いながらユウキは、ドリブルをしながらゆっくりとゴールに向かう。
「よし、いくかっ」
 ユウキの姿は、はっきりいって、なっていなかった。
 ボールを弾ませる手の動きはぎこちなく、うまく手に馴染んでいないしリズムも良くない。姿勢だってさほど良くないし、ボールを構える姿だって経験者の可南子から見たら色々と無駄だらけ。
 変なところに力が入り、その力がきちんとボールに伝わっていない。変に手首を使っているから案の定、放たれたボールの軌道は微妙に曲がり、リングとボードに当たってボールは落ちる。
 それほど『惜しい』ということもなく外れたシュート。
 だというのに。
「あーっ、やっぱダメかー」
 悔しがるユウキの表情は、なぜか輝いて見えた。
 決してスマートな姿ではなかったのに、思うとおりのシュートになってなどいないのに、なぜか綺麗に見えた。
 それは、外れて転がるボールを追いかけるユウキの姿を見て、分かった。
 楽しんでいるから。
 ただ純粋に、ボールを弾ませてゴールに向けてシュートするということを楽しんでいるから。バスケを楽しむという、一番の根本にある部分を実践しているからこそ、格好良くなくても眩しく見えたのだ。
 比べてみて、自分は果たしてどうだっただろうか。練習をしながらも、バスケを楽しんでいただろうか。
 そんな風に考え始めた可南子だったが。
「やっぱり、カナコちゃんのお手本見せてよ。何が違うんだろうなー、いや、なんか全部違うよな。カナコちゃんはホント、綺麗だし」
「なっ」
 先ほどに続きまたも名前で呼ばれ、しかも余計な一言までついて、可南子はわずかに頬を朱に染めてユウキを睨みつける。
 しかし、発言の主はといえば、とぼけた顔で続けている。
「背筋も真っ直ぐで、無駄がないもんなー、こう、こうかな?」
 ユウキの手から放られたボールが、再び可南子の手に収まる。
「……ただシュートするだけじゃ、張り合いがありません。ディフェンスに入って」
「えっ、俺が? でも」
「問答無用っ」
 姿勢を低くして、切り込む可南子。
 慌てつつも、両手を広げてディフェンスに入るユウキ。
「うわ、ちょっと、いきなりっ」
「男でしょう、いつまでも細かいことをグダグダ言わないでくださいっ」
「言ったな、この!」
 伸びるユウキの手を、体を捻ってかわす。
 わずかに触れ合う二人の体。
 だけれども、1on1に集中し始めた可南子にとってそれは、さほど気になることではなくなっていた。
「甘いですね」
「舐めるなよ、俺だってバスケの授業では『コート内のヘカトンケイル』との異名を」
「嘘ばっかり!」
 滑らかに舞踏するかのように躍動する可南子。長い黒髪は靡き、汗は光を浴びて水晶のごとく煌めいて、可南子の体を覆って舞い散る。

 夏の日の朝。

 名も無き小さな広場では、ボールの弾む音、大地を踏みしめる足音、そして二人の息遣いと、誰にも聞こえぬ鼓動の音だけが響いていた。

 

おしまい

 

【おまけ】

 久しぶりに母親と外食をした。
 チョイスをしたのは母だが、この手のことで間違うことはないのでお任せにしておいた。
 実際、母の選んだスペイン料理店は非常に美味で、可南子も堪能した。
 日中、沢山動いてお腹を空かせてきた甲斐があったというものだ。

「今日は随分と楽しそうね、可南子」
 食後のデザートを食べながら、母の美月が言う。
「そりゃ、これだけご馳走を沢山食べれたら、そうもなるわよ」
「そうだけど、それだけじゃなくて。今日のバスケの話」
「ん? あ、ああ、うん」
 食事が美味しくて口も軽くなったのか、午前中のバスケのことも話していた。ゴールのある公園を見つけたことが嬉しくて、やっぱり話したかったのだ。
「でも、いくら嬉しかったからって、昼過ぎまでやっていたなんて、よほどだったのね」
「まあ、休憩もいれながらだったし、それにあいつもしつこくもう一回って」
「ほう、アイツ、とは?」
 しまった、と思ったときは遅かった。母がくいつき、先ほどまでとまた異なった目の輝きで可南子のことを見つめてきている。
「そんなこと、あたし言った?」
「え、何、誰かと一緒に練習していたの? その口ぶりからすると相手は男ね。ははぁ、いつの間にか可南子もやるわね。バスケの練習で男の子をナンパするなんて」
「そんなんじゃないし、もとはといえばアイツの方が勝手に!!」
「ふんふん、それで?」
 テーブルに腕をついて、にまにまと笑みを浮かべて楽しそうに続きを促してくる美月。
 いけない、これでは母のペースにはまってしまうだけだ。
 クレム・カタラーナを一口食べ、心を落ち着かせる。うん、美味しい。
「そっか、男の子とヤリまくっていたからそんなに嬉しそうだったんだ」
「変な言い方しないで!!」
 噴き出しそうになるのを堪えてから怒りをぶつけるが、母には柳に風である。
「なんで、バスケの練習をヤリまくっていたのでしょ? それとも何か違うことでも想像したの? あ、私が仕事でいない間は家で好きなことしていていいのよ? 綺麗に後片付けさえしてくれていれば」
「それが、母親の言うこと?」
「母親だから娘に理解があるんじゃない。いいじゃない、気になる子なら家に連れてきてもいいのよ?」
「アイツを家に連れてくるなんてこと、あるわけないじゃない」
 ツンと口を尖らせ、後の会話を否定するようにクレム・カタラーナに集中する。
 そんな可南子のことを楽しそうに見つめている美月の視線を感じながら。

 もちろん可南子は知らない。
 自分の発言が、自分自身によってあっさり裏切られることを。

「・・・・そんなこと、あるわけないし」

 呟きは、レストランの喧騒の中に吸い込まれて消えた。

 

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