ノーマルCP マリア様がみてる 三奈子

【マリみてSS(三奈子×祐麒)】晩秋のプレゼント

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~ 晩秋のプレゼント ~

 

 街中で偶然出会ったその人とは、随分と久しぶりにお話をするような気がした。
「あら、ごきげんよう」
「……ごきげんよう、三奈子さま」
 新聞部の前編集長、祐巳のクラスメイトである山口真美さんの姉、築山三奈子さま。かつて祐巳も何度か追われたことがあるし、山百合会自体がこの人のおかげで色々と騒がしくなったこともあった。
 悪い人ではないのは分かるけれど、祐巳としてはちょっと苦手だった。押しが強いから、ぐっと攻め込まれると、ついつい押し流されてしまうのだ。
「仲良くショッピングかしら、祐巳さん、由乃さん」
「ええ、まあ」
 隣にいる由乃さんも、どこか身構えたようにしている。
 由乃さんもまた、以前に色々と三奈子さまに煮え湯を飲まされてきている。黄薔薇革命しかり、バレンタインイベントしかり。
「そんなに身構えなくても大丈夫よ。もう新聞部は隠居した身だし、受験も控えてるし」
「三奈子さま、外の学校を受験されるんですか?」
「ええ、そのつもりよ。落ちると恥ずかしいから、どこ受けるかは教えてあげないけど」
「……別に、教えてもらわなくても結構ですけど」
 先輩に対しているにも関わらず、由乃さんの態度はかなり悪い。よほど、三奈子さまのことを毛嫌いしているのだろうか。
「そんなツンツンしないの。ほら、可愛い顔が台無しよ」
 由乃さんの失礼な態度もお構いなしに、三奈子さまはにこにこと接してくる。この辺の強気というか、傍若無人ぶりなところが苦手なのだが。
(――――あれ?)
 そんなことを考えているときだった。
 前に立つ三奈子さまに対して、どこか違和感のようなものを感じたのは。
「どうかしたかしら、祐巳さん。私の顔に何かついている?」
「あ、いえ、別に」
 違和感、というのとも少し異なるような気がする。
 うまくいえないのだけれど、三奈子さまを見て何かしら不思議な感覚にとらわれる。別に髪型はいつもと変わらないし、化粧をしているわけでもない。服装も特に奇抜なわけでもなく、ショッピングした後なのか左手に大きな袋を提げているくらいだ。
「それじゃあね、お二人さん」
 結局、その場では分からずに、三奈子さまとは別れることになった。
「……何よ祐巳さん。変な顔しちゃってどうしたの」
 三奈子さまが去った後も考え込んでいた祐巳を見て、由乃さんが聞いてきた。しかし、変な顔とは少しばかり失礼な。
「どこか、三奈子さまの姿に違和感というか見覚えというかが」
「ふぅん。別に、特に変な格好はしていなかったと思うけれど」
「うん、そうなんだよね……別に変な格好は……」
 と、そこで急に思い出した。
「あーーーーーーっ、分かった!!」
「なになに、なんなのよ」
 突然、大声を上げた祐巳に対して由乃さんが耳を押さえながら抗議する。だが祐巳はそれどころではなかった。
「でも、なんで」
 そんなことしか言えずに、祐巳は三奈子さまが消えて行った道を呆然と見つめるのであった。

 

 時は一週間ほどさかのぼる。
 駅前のメインストリートから微妙に外れた道を歩いていると、妙な胸騒ぎを覚えた。なんともいえない感覚、何かが祐麒に忍び寄ってくるような、そんな感じ。
 神経を研ぎ澄ませて、周囲の気配を探る。
 道行く人の数はそれなりにある。しかし、混雑しすぎているというほどではない。近くに知っている人間の姿があれば、見分けられなくはないくらいである。
(……こっちか?)
 と、視線を感じた方向に顔を向けると。
「―――さっきから何きょろきょろしてんの、祐麒くん?」
「うわあっ?!」
 反対方向から声をかけられて、祐麒は飛び退った。
「ちょっと、随分と失礼な反応ねえ」
「いきなり背後から話しかけられたらびっくりしますって……って、三奈子さ……ん?」
「何よ、変な顔して」
 祐麒の前に立っているのは、間違いなく築山三奈子さんなのだろうけれど、祐麒は大いに戸惑っていた。
 それはなぜかといえば、髪型によるところが大きかった。
 長い髪の毛を後ろで結わくのではなく、両サイドの肩から胸にかけてさらりと自然に流している。
 さらにブローチの付いたホワイトのトップに、ブラックのミニフレアスカートをあわせた姿は、まるで別人のように感じられた。
 そんな祐麒の視線に気がついたのか、三奈子さんは髪の毛にそっと手を当てた。
「ふふーん、たった今、美容院に行ってきたの。私、髪の量が多いからちょっと軽めにしてもらって。ね、どう?」
「あー、似合っているんじゃあ、ないでしょうか」
「何よー、その心のこもっていない台詞は」
 腰に手を当てた三奈子さんは不満そうに言ったが、祐麒は別にわざとやったわけではない。思わず見とれて、そんな風にしか口に出すことができなかったのだ。
 女性は髪形と服でいくらでも変身できるというけれど、それは本当のことなのだなと、祐麒は身をもって実感した。一つ一つのパーツを見れば間違いなく三奈子さんなのだが、全体として見てみるとまるで別人のように感じられるのだ。
 精神を集中していたにも関わらず見つけられなかったのも仕方がない。
「こ、これから帰って勉強ですか?」
 心の動揺を悟られぬよう、あえて硬い話を持ち出す。
「そうねえ……」
 と、三奈子さんは考え出した。
 これは、祐麒と出会ったことによってこの後どうしようか模索しているのだと、これまでの経験から祐麒は悟った。
「……ねえ、祐麒くんこれか」
「三奈子さん、受験生ですよね」
 機先を制す。
 途端に、三奈子さんはしゅんとした。
「……なんか祐麒くん、お母さんみたい」
「あのですね、俺は三奈子さんのために言ってあげているんですよ。俺と会うたんびに遊びに行っているじゃないですか」
「だって、だって」
「勉強ばかりじゃ息が詰まる、でしょう?気持ちもわかりますけれど、受験生なんですからそれを乗り越えないと。みんなそうなんですから」
 なぜ、学年が下である自分がこんなことを言わなくてはならないのだろうか、という疑問はとうの昔にどこかに消え去ってしまっている。なぜか分からないが、三奈子さんは祐麒に対して甘えてくるのだ。だから、三奈子さんのためを思えばこそ、心を鬼にする必要がある。
「受験が終わったら、いくらでも付き合ってあげますから」
「ホント?!」
「えっ……ええ」
 しまった、と思ったときは遅かった。
 今日のことを諦めさせるために、とんでもない約束をしてしまった。それに、三奈子さんの受験が終わるということは、次は祐麒が受験を迎える番ではないか。
「うーん。でもそれはそれとして、今日この後、どうする?」
「はあっ?!人の話聞いていたんですか?!」
「やっぱりねえ、人はぶっ通しで勉強なんて出来ないのよ。間に休息や、ご褒美があるから人は頑張れるのよ」
「なに、もっともらしく自分を正当化させようとしているんですか。俺は、休息している三奈子さんの姿しか見たことありませんよ」
「そりゃそうよ。だって、祐麒くんと遊ぶときがそうなんだから」
 悪気も悪意もまったくない、屈託のない笑顔を向けてくる三奈子さん。
 すると、自分は三奈子さんにとってのご褒美なのだろうか。少し嬉しいような、それでいてちょっと侘しいような、微妙な気持ちである。
「―――はい、祐麒くん」
 横から、缶コーヒーが差し出される。
 ため息をつきながらも缶を受け取って蓋を開け、口をつける。まだ熱いコーヒーが喉を伝って落ち、体を温めてゆく。
 いつもこんな感じで三奈子さんのペースに乗せられ、結局のところ付き合ってしまうのだ。自分自身の甘さにほとほと嘆息する。
 横を見れば、まだ熱くて口をつけられないのか、缶を両手で包み込むようにして持ちながら息を吹きかける三奈子さん。しばらくして、ようやくコクリと一口、味わうようにして飲み込む。
「……ねえ、やっぱり駄目?」
 そんな、缶コーヒーを両手で抱えるように持って、横から首をちょこんと傾げるようにして見つめてこないで欲しい。髪型や服装のせいもあるけれど、ちょっと反則技だ。
 祐麒は敗北を認めた。
「ああもう。どうせ、駄目だっていっても駄目なんでしょう?」
「分かっているじゃない。祐麒くんくらいしか遊んでくれる人いないんだから、それくらい、いいでしょう」
 なんだかんだいいつつ、心の中でこの流れになることを喜んでいる自分がいるのだろうか。甘ったるいコーヒーを飲みながら、ふと祐麒はそんなことを思う。
「……あ、そうだ」
 その隣で、名案でも思いついたように表情を輝かせる三奈子さん。
 こういう表情を見せるときは、たいてい、ろくでもないことを考え付いたときだと分かっている。
「来年は、祐麒くんが受験生よね」
「そうですけど」
 だから遊びに誘うのを控える、なんてことは決して言い出さないだろう、などと思っていると。
「じゃあ来年、祐麒くんのご褒美には私をあげるよ」
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
 吹き出した。
 それはもう、盛大に吹き出した。
 通りを歩きすぎる人が全員振り返るほどの勢いで、祐麒は飲みかけのコーヒーを吹き出した。
「何よ、いきなり。どうしたの、大丈夫?」
 しゃがみこんでむせ返る祐麒を、怪訝な表情で見下ろしてくる三奈子さん。
 いや、分かっている。三奈子さんが天然でそんなことを言っているのは分かるのだが、悲しいかな祐麒も若い男。ついつい反応してしまうのは仕方がないではないか。三奈子さんはただ、自分の時間を割いてあげる、と言いたいだけなのだろうが。
「み、三奈子さん。そうゆうことはすぐに口に出したりしないの」
「えー、なんでー」
「なんで、じゃありませんっ」
 どう言ったら分かってもらえるのだろうかと頭を抱えていると、近くで談笑していた主婦の集団が、「いやあねえ最近の若い子ときたら、昼間からふしだらな」とか話しながら祐麒たちのことを横目で見ているのが分かった。
「ど、どこか場所を移そうか、三奈子さん」
「オーケー。どこかいい場所でも思い浮かんだの?」
 一人、まったく状況をつかめていない三奈子さんを引き連れて、祐麒はその場を後にした。

 

 その後、どうしたかというと。
 白薔薇さまである藤堂志摩子さんが、なにやらサングラスをしたいかつい男と並んで歩いているのを見かけた三奈子さんが、スクープの予感とばかりに追跡を開始して。
 その尾行はというと、男のほうを目印にして追いかけていたため、混雑していたバスでいつのまにか藤堂志摩子さんが降車したのに気がつかずに失敗するという始末。ならばせめて男の方の行き先だけでもつかもうとしたが、男を追いかけてバスを降りようとしたところで、慌てた三奈子さんが小銭をばらまいてしまい、拾い集めているうちに見失ってしまうというミスの連続。おまけで、落とした小銭は一枚を残して全て見つかったが、その一枚というのが五百円玉だったので三奈子さんは追加ダメージをくらっていた。
 こうして日が沈み、毎度毎度のどたばたした一日も終わりを迎える。

「うう、今日は踏んだり蹴ったりだったわ……」
 がっくりと肩を落としている三奈子さん。
「だから、素直に帰って勉強していればよかったのに」
「いいえ、こんなことで挫けていては、一人前の記者になんかなれないのよ」
 失敗に終わった追跡を経て駅に戻ってきたときには、日は既にすっかり落ちていた。街灯や店の看板に明かりが灯され、夜の街は昼とはまた異なった顔を見せている。
 こうして日が落ちると、急速に空気が冷えてくるのが肌を通して感じられた。日中は日が出ていても、朝や晩となると随分と気温は下がる。秋も終盤に入り、むしろ冬の足音が日に日に大きくなっていく。
「……その気合を、とりあえず受験が終わるまでは、勉強に向ければいいのに」
「はいはい、分かりました。まったく口うるさいのは真美みた……へ、へっくしゅ!」
 意外とかわいらしいくしゃみをする三奈子さん。
 しかし、鼻から鼻水が垂れているので外見的にはかなり台無しである。
 祐麒がポケットティッシュを差し出すと、三奈子さんはそこから二、三枚紙を抜き出して、背を向けて鼻をかんだ。
「うーーっ。だいぶ、冷え込んできたわね」
 丸めたティッシュを近くのゴミ箱に捨て、少し赤くなった鼻の頭をこすりながら、三奈子さんは自らの体を抱きしめるようにして手でさする。
「そりゃそうですよ……って、そういや三奈子さん、なんでそんな薄着なんですか」
 三奈子さんは、トップの上には何も羽織っていなかった。長袖とはいえ、上着なしで今の季節の夜は、いくらなんでも寒いだろう。
「だって、昼間は暖かかったし」
「日が沈めば寒くなるに決まっているでしょう」
「……日が沈む前に帰るつもりだったんだもの、しようがないでしょう」
 そっぽを向いて拗ねる三奈子さんだが、またくしゃみをしている。
 祐麒はため息をつきながら、自分のジャケットを脱いだ。
「……はい」
「は?何、コレ」
 自分に向かって突き出された男物のジャケットを見て、三奈子さんは首を傾げた。
 だが、すぐに祐麒の意図を察すると、今度は首を横に振った。
「いいわよ、祐麒くん、風邪ひいちゃうわよ」
「俺より、受験生である三奈子さんのほうが風邪引いたら困るでしょうが。ほら、もう、本当にしょうがないんだから」
 そう言いながら、半ば強引に三奈子さんの肩にジャケットをかける。
「あー……じゃあ、お言葉に甘えて」
 袖を通してみると、サイズはぴったりだった。
「うん、暖かい。ありがとうね、祐麒くん」
 にっこりと笑う三奈子さん。
「い、いいい、いいですから、風邪引かないうちにとっとと帰ってください」
「お礼に今度、私のコート貸してあげようか」
「なんですかそれは。もういいから、本当に早く帰ってください」
 追い立てるようにして、三奈子さんを帰途につかせる。その後ろ姿を見送って、祐麒も踵を返そうとすると。
「祐麒くんも、風邪引かないように早く帰るのよー!」
 そんな声が、祐麒を追いかけてくるのであった。

 

「―――そうだよ、思い出した!三奈子さまが着ていたジャケット、あれ、祐麒のジャケットだよ!」
「本当に?」
 信じていないのか、由乃さんは訝しげに祐巳のことを見つめてくる。
 だけど間違いない、あれは祐麒と同じジャケットだ。一週間ほど前に外出から戻ってくるとなぜか着ていなくて。訊いてみると、ただ小林君に貸しただけだって言っていて、特にその時はなんとも思わなかったけれど。
「確かに男物のようにも見えたけれど、たまたま同じだっただけじゃないの?デザインが気に入って、男性物を着ている人とかだっていたりしない?」
「うーん、そうなのかなあ」
「大体、三奈子さまが祐麒くんのジャケットをどうして着ているのよ。まさか、二人が付き合っているとでも言うの?」
「それは……さすがに無いと思う……けれど」
 だけれども、断言することもできない。
 どうも最近、祐麒の様子がおかしいというか、昔と違うような気がするのだ。祐巳の女としての勘(というほど大したものではないが)が、その背後に女性の影を感じ取っているのであった。
「まあ、帰って確かめてみれば早いんじゃないの?」
「それもそっか」
「何か分かったら、真っ先に教えてね」
 目を爛々と輝かせている由乃さん。色々と言いながらも、どういうことになっているのか興味津々のようだ。

 由乃さんと別れて家の前まで戻ってくると、やはり外出から帰ってきた祐麒と鉢合わせになった。
「……あれ、祐麒。そのジャケット」
「ん、な、何か?」
「新しいの買ったの?」
「ああ、まあね」
 それは、グレーを基調としたボタンのついていない一枚仕立てのジャケットで、確かに格好よくて、祐巳も今度借りようかなどと考えてしまったのだが、イマイチしっくりこない。どうにも祐麒の趣味とちょっとずれているような気がするのだ。
 それに、またここでも何か違和感というか、デジャブのようなものを感じるというか。
 考えているうちに当初の目的を忘れてしまった祐巳だったが、その日の夜、布団の中でようやく思い出した。
 祐麒の着ていたジャケットのブランドが、昼間、三奈子さまが手に提げていた袋のものと同じだということに。
 これはやはり、二人の間に何かあるのか。明日、起きたら一番に聞いてみようと思いながら眠りについた祐巳だったが、翌日目を覚ましたときにはすっかり忘れていたのであった。

 

 同日の夜、祐麒の自室。
 新品のジャケットをハンガーにかけながら、祐麒は目を閉じて細く息を吐き出した。
 帰宅したときに祐巳からジャケットのことを聞かれたときは、正直、あせった。まさかとは思うけれど、三奈子さんとのことに気づかれたりしたのかと。
 しかし、こんなことになるとは祐麒も思っていなかった。
 新しいジャケットを見つめながら、昼のことを思い返す。

『――はあ?気に入ったから、そのジャケットくれないかって?』
『いやー、ジャストフィットだし暖かいし、デザインも気に入っちゃって。あ、もちろん、無料だなんて言わないから。はい、これ』

 そして差し出されたのが、着て帰ってきたジャケットというわけだった。
 三奈子さんに渡すこととなったジャケットは自分自身も気に入っていたのだが、あまり言い合ってもろくな事にはならないと思ったので、素直に応じることにした。
 それに、あんなことを言われたら、断れないではないか。
 三奈子さんに言われた台詞を、思い出す。

 

『……一ヶ月以上早いけれど、プレゼント交換ということで、ね?』

 

 そう言って片目を瞑る三奈子さんの長い髪の毛は、冷たい秋風に吹かれて祐麒を魅了するかのように揺らめいていた。

 

おしまい

 

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