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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(祐麒・色々)】乙女はマリアさまに恋してる 第二話②

更新日:

~ 乙女はマリアさまに恋してる ~
<第二話 ②>

 

 翌日、再び薔薇の館に出向くと、昨日の騒ぎを詫びるとともに体も無事であったことを告げる。
「祐紀ちゃんが無事ならいいのよ」
 と、皆は笑って許してくれるが、お騒がせした張本人としては申し訳ない。特に、自分自身のことというよりも、危うく由乃に大怪我、ないし大火傷させてしまうところだったと思うと、冷や汗が出てくる。
 肝心の由乃は、今日はまだ薔薇の館に姿を見せていない。学校には来ているというから、体調さえ悪くなければいずれやってくるだろう。
 しかしその前に、薔薇の館の古い階段をやたら激しく上ってくる音が聞こえた。壊れたりしないんだろうか、などと考えていると勢いよく扉が開き、姿を見せたのは長身のイケメン。
「あ、令さま、ごきげんよう」
「どうしたの令、そんなに慌てて……はしたないわよ」
 昨日は令が来る前に騒ぎで退出してしまったから、結局挨拶をすることもできなかったのだ。祐麒は椅子から立ち上がり、令の方を向いた。令と目が合う。
「まあ良いわ。昨日は紹介できなかったけれど、令、この子が私の妹となった祐紀……」
 言い終える前に、いきなり令が突進してきた。
 あまりに突然であったこと、そして動きが速すぎて反応できないでいるうちに、祐麒は令に抱きしめられていた。
「ありがとう祐紀ちゃん、昨日は由乃のことを助けてくれたんだって? 本当に、ありがとうっ!!」
 顔面が令の胸部によって完全に覆い尽くされる。
 なんということか。見た目はまるきり美少年、背が高くスポーツをやっていて引き締まった体をしながら、制服の下には凶悪な武器が隠されていた。制服を通してでもわかる令の胸の大きさ。柔らかな二つの膨らみに包み込まれ、幸せな気分に陥りつつも呼吸困難の危険性を感じる。
「ちょっと令、いつまで抱きついているのよ」
 呆気にとられていた祥子だったが、やがて我に返ると祐紀を奪い返すべく令から引きはがそうとする。
「いいじゃない、由乃を助けてくれたお礼をしたいだけなんだから」
「それならもう、充分にしたでしょう」
 要は祥子が令に嫉妬しただけなのだが、祐麒としてはそれどころではない。何せ令と祥子の二人に両の腕にしがみつかれているのだ、腕にあたっている感触が気持ち良くてヤバいからだ。
「なになにー、令と祥子ばっかりずるいじゃん。祐紀ちゃんの抱き心地は最高なんだから、あたしに断りなく抱きつくのはダ~メ」
「ひゃうっ!?」
 と、さらに背後から聖が抱きついてきた。
「ちょ、聖さま、祐紀は私の妹なんですから」
「妹だからって、独占権があるわけじゃありませーん」
 今度は背中にあたっている聖の二つの膨らみ。祥子ほどの大きさはないが、それでも十分に柔らかい。おまけに聖が口を開くとそのたびに首筋、耳元に息がかかってくすぐったくなる。
「あー、この抱き心地はやっぱり最高だわ~」
「や、ちょ、聖さまっ??」
 お腹のあたりをまさぐっていた聖の手が、じわじわとあがって胸の方に迫ってくる。令や祥子にばれないよう、実に巧妙に、実にゆっくりと、それでも確実に胸を目指してきているのがわかる。
 今、偽乳は装着していないから、スポーツブラをしているとはいえ触られたらぺったんこであることが分かってしまう。
 思いがけない状況、ピンチに困って顔をあげると、正面で腕を組んでいた江利子と目があった。
 幸か不幸か江利子には祐麒の正体を知られている。なんとかこの状況を助けてくれと目で訴えかけると、江利子は力強く頷いてくれた。
「こら、三人とも」
 江利子がそう声をかけて歩み寄ってくると、聖、令、祥子の三人の動きが止まり、江利子に視線が向けられる。さすが江利子、体が入れ替わった時はとんでもない人だと思ったが、困っている時にはきちんと助けてくれる。
 と思って感動していると。
「私も仲間に入れなさいよ」
「へ、ほえええええええっ!?」
 なんと、江利子は唯一あいていた正面から抱きついてきたのだ。
 ぎゅうぎゅうと押し付けられてくる江利子の胸。それは、入れ替わっていたから祐麒も知っている最強の乳。おおらかに包み込んでくる大きさ、沈み込んでは全てを優しく押し返してくるしなやかな弾力、美しきフォルム、まさにパーフェクトを誇る。
 しがみついてきた江利子は、耳元でこっそりと囁いた。
「これで、胸も、あとアソコもガードしてあげたでしょう?」
 確かに、祐麒の胸に江利子の胸が押し付けられたおかげで、聖の手が侵入する隙をなくしてきている。加えて正面から抱きついてきているから、下腹部も隠してくれている。それどころか、むしろ江利子にあたってしまっている。お蔭で、余計に我が息子が元気になってしまいそうになるではないか。
「ちょ、やばっ……」
 どうにか抑え込もうとするものの、今の状況ではそれも難しい。どうすれば良いのか、
「……既に一回、見ているし、その…………わ、私だって前にさ、触ってもいるんだから、今さらでしょ」
 なんて言いながらも、江利子の顔は赤くなっている。
「はうぅ」
 そんなことを言われて、むしろ恥ずかしいのは自分だと思う祐麒だったが、それ以上に今は前後左右からの乳攻撃にさらされて脳みそが沸騰しそうだったし、反応してしまっているのがまずいのだ。江利子はまだそこまで理解はできていないようだが、このままでは。
「はいはい、いい加減にしなさい、祐紀ちゃんが困っているでしょう」
 本当の助け船を出してくれたのは、山百合会の良心である蓉子であった。パンパンと手を叩き、まずは祥子を姉の権威で引きはがし、聖の頬を引っ張って祐麒から離す。すると自然と令は自分で離れ、最後には江利子の襟首を掴んで引き離す。
「大丈夫だった、祐紀ちゃん? ああほら、タイがぐちゃぐちゃに」
「す、すみません。あ、ありがとうございます、蓉子さまぁ~」
 四人にもみくちゃにされ乱れた制服を見て、蓉子が呆れたように苦笑しながら身だしなみを整えてくれる。
 救出してくれた蓉子が菩薩のように見え、祐麒は感謝して蓉子のことを見つめると、不意に蓉子の頬が赤くなる。
(っ!? う、潤んだ瞳で上目遣いの祐紀ちゃん……きゃ、きゃわゆいっ)
 そもそも祐紀は蓉子にとっては孫にあたり、問答無用で可愛がりたい存在。それがこんな、困って泣きそうな表情で縋るように見つめてくるものだから、蓉子といえどもハートをぶち抜かれそうになる。
「……そ、そんなに抱き心地がいいのかしら?」
 ぼそりと呟く蓉子。
「は?」
「なっ、なんでもないわよ。あ、髪の毛も乱れているわよ?」
「わ、く、くすぐったいです」
「駄目よ、髪は女の命なんだから」
 なんだかんだ言いつつ、蓉子もべたべたしてなかなか祐紀から離れようとしない。しかも理由をつけているだけに、他の面々も邪魔をしづらい。
「あの、よ、蓉子さま。もう大丈夫ですから」
「そう? それじゃ……(残念だけど、抱きつくのはまた今度ね。さすがに皆のいる前では恥ずかしくて出来ないし)」
 わずかに名残惜しさをみせながらも、蓉子は素直に離れた。抱きつかれこそしなかったが、蓉子の細い指が首や胸元に触れてきて、祐麒としてはとても落ち着かなかったので、これでようやく人心地つく。
「皆さん、ごきげんよう……って、どうしたんですか?」
 その時になってようやく姿を見せた由乃が、部屋の中の妙な空気を感じ取って首を傾げるのであった。

「はぁ……ごめんなさいね、うちのお姉さまが暴走して」
「あはは、ま、まあ、大丈夫」
「私のことになると、途端に駄目駄目になっちゃうのよ」
「それだけ、由乃さんのことを大事に思っているっていうことだよ」
 今日の打ち合わせを終え、キッチンで片づけをしながらの会話。由乃が登場するまでの顛末を改めて話すと、由乃は呆れたようにため息をついて謝ってきた。
「でも、もとはといえば私のせいだもんね。本当にごめん」
「由乃さんのせいじゃないよ、謝らないでよ」
 なんとなく由乃と話していて調子が出ないのは、元気で明るい由乃の姿しか知らないからだろうか。
 帰り支度を終え、薔薇の館を出る。
 皆で固まって帰宅の途につくが、やはり同学年ということで自然と由乃と並んで歩くことになる。そして、由乃は体が弱いせいか歩みもゆっくりで、他のメンバーと少し距離を置いた最後尾を歩くことになる。
 この世界では昨日に知り合ったばかりというのもあるだろうが、由乃の大人しさには物足りなさを感じさせてしまう。だから、ふとした会話の切れ間、無言を埋めようとして口からするりと出てしまった。
「ねえ由乃さん。なんかさ、無理していない?」
「え? ううん、大丈夫よ。今日は体の調子もよ……」
「無理して大人しく自分を抑え込んでいるように見えるんだよねー」
「――――え?」
 驚いたように祐麒のことを見つめる由乃。
「……って、あ、ご、ごめん! なんか勝手なこと言って。そうだよね、由乃さんだって好きでそうしているわけじゃないのに。無神経でごめん」
「え、あ、ううん、全然そんなことっ。それより、そっか、そんな風に見えたんだ、祐紀さんには……」
 真剣な表情で考え込む由乃。
 そんな由乃を見て、祐麒は何か失言をしてしまったのだろうかと焦る。しかし、思い出そうにも何がまずかったのかさっぱり分からない。
「ね、祐麒さん」
「は、はいっ!? なな、なんでしょう」
「改めて言うのもおかしな話かもしれないけれど、私と友達になってくれるかしら」
「え、友達じゃなかったの?」
「え…………」
 由乃の発言に思わず首を傾げ、続いて青くなる。前の世界でのことがあり、勝手に友達だと思っていたけれど、ここでは知り合ったばかりだったのだ。由乃が祐麒のことを友達だと思っていなくても、不思議ではない。
「ごめん、俺、いや、わたし、一人で思いこんでて」
「ううん、私こそごめん…………いいえ、ありがとう、祐紀さん」
 一転して由乃の表情は嬉しそうなものに変わり、この短い時間の中で由乃の中にどのような変化が起きたのか分からず困惑するが、機嫌が悪いよりは良い方がいいに決まっている。祐麒はほっとして歩みを進める。
 他愛もない話をしながら歩いていると、ふと視線を感じた気がして顔を横に向ける。
「――あ」
 思わず表情も綻ぶ。
 視線の先にいたのは、桂だった。
 まだ部活の途中なのかジャージ姿だが、見間違えるわけもない。いずれはテニスウェア姿も目に焼き付けたいなぁ、などと心の中でちょっとばかり邪なことを考えつつ桂に向けようと手をあげようとする。
「…………え」
 しかし、なぜか桂は急に背を向けて足早に立ち去ってしまった。祐麒に気が付かなかったのだろうかとも思ったが、それではなぜ、あんな場所で立ち止まりこちらを見ていたのか。
「どうかしたの、祐紀さん」
「え、あ、いやぁなんでも」
 中途半端にあげた手に気が付き、誤魔化すように頭をかく。
 気になりつつも、桂は既に去っており姿は見えない。皆から遅れるわけにもいかず、不審に思いつつも寮へと帰宅するのであった。

「桂ちゃん、今日、私が帰るところを見ていたよね?」
 夜、夕食を終えて食堂から部屋に戻る途中で尋ねてみた。本当はもっと前に訊きたかったのだが、食堂では他の子もいるし、夕食以前もなかなか二人になる機会が無くて訊くことができなかったのだ。
「え、え、そーだっけ? ごめん、よく覚えていないや」
「そう? こっちを見ているんだと思ったんだけど」
「私、ぼーっとしているから、もしかしたらそういう時があったのかも」
「そう……?」
「あ、私ちょっとテニス部の先輩に用があるから、ごめんね」
「え、桂ちゃん、ちょっと?」
 止める間もなく、桂は行ってしまった。どうにも腑に落ちないが、桂自身が言うのだからそれ以上に詰め寄るのも感じ悪く、部屋に戻る。
 結局、桂が戻ってきたのは消灯時間の直前で、お風呂も部の先輩とすませてしまったとのことだった。桂の裸身を見るのは(もちろん、見ないように心掛けているが)心が痛むのでありがたいが、なんとなく物足りなさを覚える。
 桂とほとんど話すことが出来ないまま就寝したが、別にそういう日がたまにあったとしても不思議ではない。あまり深く考えず、眠りに落ちる。

 翌朝、目が覚める。
 ゆっくりとベッドの上で上半身を起こすと、なんだかやたらと体が重い。どうしたのだろうか、風邪を引いているような気はしないし、疲れでも溜まっているのだろうかと眠い目をこすって開いてみると。
 視界に飛び込んできたのは、目にも鮮やかな豊満な胸の谷間だった。
「…………マジか」
 このところずっと起きてなかったので、実はもう大丈夫なのではないかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
「おはよう、江利子さん。どうかしたの?」
「あ、お、おはよう……克美さん。な、なんでもないわ」
 どうにか笑顔を浮かべて、朝の挨拶をしてきた同室の克美に返事をする。
 眠っているうちに入れ替わりが起きていたようだ。
「ふふ、でもいつも朝はギリギリまで寝ている江利子さんが、この時間に起きるなんて珍しいわね」
「え、そ、そう……かしら?」
 答えてから、ふと考える。
 前回の入れ替わりは夜の就寝前だったから、翌日の朝も注意していた。しかし今回は、朝気が付いてみたら入れ替わっていたというもの。幸いにして自分はすぐに気が付くことが出来たし、大事には至らなかったが。
「や、やばっ」
 もし江利子が入れ替わっていることに気が付かず、妙な行動をとってしまったら。特に朝は男性特有の生理現象が出ることもあるし、薄着でもあるし、危険な時間帯だ。
「え、ちょ、どうしたの江利子さん?」
 びっくりしている克美をよそに部屋を飛び出すと、本来祐麒が眠っている部屋を一路目指す。
 ドアをノックして、開くのももどかしく部屋の中に目を向ける。
「あ、あの、え、江利子さまっ!?」
 出迎えてくれた三奈子が目を丸くしているが、構っている余裕はない。ベッドで寝ている自分の体を見る。こういうとき、二段ベッドの下というのは失敗だった。上の段なら、見られることもないのに。
「――――――ぶっ!?」
 一目見た思った。
(江利子さま、寝相悪っ!?)
 春で暖かくなってきたとはいえ、掛布団が除けられていてパジャマ姿が見えている。下半身にうつしてみれば、もっこりとした……
「うわああああああああっ!?」
「江利子さまっ!?」
 ベッドに飛び込み、抱きつくようにして自分の体を隠す。
「ふぁっ……な、なに……?」
 どうやら衝撃で目を覚ましたらしい江利子。ぼんやりとした表情で、薄目を開ける。
「ま、まずいです、入れ替わっちゃってます、体っ」
 顔を寄せ、江利子にだけ聞こえるよう小さな声で伝える。
「え…………あ、ああ、なるほど」
 寝ぼけ眼の江利子だが、それでもさすがに頭の回転は速く、状況を理解したように頷いた。まあ、自分自身の顔が真正面にあったら、理解できるか。
「うわ……こうして客観的に見ると、私の胸ってなかなかたいしたものね……」
「ひゃんっ。ちょ、さ、触らないでくださいよっ」
「別に自分のなんだし、それくらい……」
「そんなことより、あの、下半身の方、気を付けてくださいよ?」
「ん? 下半身って…………え、あ、なな、何コレっ!? やだ、なんか変な気持ち……」
 顔を赤くしてもじもじし始める江利子。自分の顔でそんなことをされると、なんとも複雑な気持ちになる。
「ど、どうすればいいの?」
「しばらくすれば収まりますから……前回のときは大丈夫でした?」
「よ、よく覚えていないけれど、多分……」
 前回は既に入れ替わった後で眠りに就いていたから、精神的な違いもあって特に何も起きなかったのかもしれないが、今回は既にその状態で入れ替わってしまったのだ。
「あ、あの~、江利子さまに祐紀ちゃんて……そ、そうゆうご関係だったんですか?」
「すみません、す、すぐに部屋を出ますけれど……朝はもうそんな時間の余裕はないと思います……」
「え?」
 声に振り向いてみると、三奈子と静がなんとも言えない表情で二人のことを見ていた。三奈子は既に制服に着替えているが、朝が苦手な静は寝間着姿だ。
「えーと……あっ、え、いや、これは違うんですっ!?」
 少しばかり冷静になって気が付いた。祐麒は朝に気が付いて着替えもせずにここまでやってきたのだが、江利子の寝間着はなかなかセクシーなベビードール。おまけに眠っている祐麒の体の上に跨って抱きついていて、どう考えても普通じゃない。
「江利子さま……嬉しいです、私、美人で優しくて聡明な江利子さまのことが、大好きなんですっ」
「「――――っ!!?」」
「ちょっ、なっ」
 言い訳しようとしていたところ、いきなり江利子がそんなとんでもないことを口走り、祐麒の首っ玉に抱きついてきた。
 三奈子と静、二対の瞳が祐麒と江利子を貫いてくる。
「ちっ……ちがぁ~~~~~~っう!!!!」
 朝っぱらから、江利子の声で祐麒の悲鳴が響き渡った。

 

 まだ朝食を終えたばかりだというのに、げっそりと疲れ果てていた。
 あの後、どうにかこうにか三奈子と静に言い訳をした。
 江利子は祐麒が悲劇的な目にあう夢を見て、あまりにリアルな夢だったので心配のあまり駆けつけてきてしまったのだと。そして『祐紀』は、目が覚めたら憧れの黄薔薇様がいたことに気が動転して思わず口にしてしまっただけで、あくまで尊敬している先輩として好きだと言ったのだと。
 正直、苦しいどころではない内容だが、江利子の『黄薔薇様』の権力をもって無理矢理納得させ、他言無用と言い含めた。
 不幸中の幸いは、朝練のため既に桂の姿が部屋になかったことだろう。
「……ちぇっ。せっかくの既成事実を作るチャンスだったのに」
「もう、人をからかうのもいい加減にしてくださいよ」
 学校に登校する前、江利子と密かに待ち合わせて情報交換していたが、江利子は反省した様子もなくそんな軽口を叩いている。
「とにかく、いつ戻るか分からないんですから、お互いに人目を引くような行動は慎むようにしましょう」
「はいはい、分かってます。私は目立たないよう桂ちゃんと仲良くしています」
「…………この前みたいな余計なことはしないでくださいよ?」
「え~? でもちょっとくらい」
「お・ね・が・い・し・ま・す」
「わ、分かったわよぅ。そんなに怒らなくてもいいじゃない」
 いじいじする江利子だが。自分の姿なのでなんとなく苛々してしまう。
「何よう、祐紀ちゃんは良い思いをするくせに。自分ばっかり」
「良い思いなんてしませんよ、気疲れするだけです」
「でも……女の子の体になって、色々と見たり触ったりするんでしょう」
「そ、それは」
 実際に、既に着替えをして肌も見てしまっているし、トイレで用を足してもいる。大事な部分は見ないよう、直接触れないように気をつけてはいるものの、これからもずっと続けられるかは難しい。もし、しばらく戻れなければ入浴だってしなければいけないのだ。
「生活する以上は仕方ないけれど……私の恥ずかしい部分、全部あなたには知られちゃうのよね」
 そうなのだ。
 なんだかんだいって江利子は女の子。実は男だった祐麒に体を奪われて嬉しいわけがなく、その気持ちは男の祐麒とは比べ物にならないだろう。
「……だからせめて、私も祐紀ちゃんの体、いろいろとさせてもらうから」
「…………え?」
 見ると、ほんのりと赤くなった頬に手をあてている江利子。
 その瞳は、何か面白い物を見つけた子供のように、きらきらと輝いて見える。
「たとえばそう、今朝のあの現象。あれも、男の人の生理現象で仕方のないことなのよね? あれがいったい、どのような感じなのか……」
「え、ちょ、やめてください、そんな、それはらめぇっ」
「だって、仕方ないのでしょう? それに祐紀ちゃんだって私に黙っていれば、何をしたって私には分からないのよ? それは仕方のないことだって、私だって分かるもの」
「ぜ、絶対に変なこと、私はしませんから!!」
「え?」
 きょとん、とする。
「江利子さまがいやがるようなことは、絶対にしません。あの、着替えとか、お手洗いとか、お風呂とか、そういうのはどうしても必要ですけど、極力見ないよう触らないようにします、誓います。だって、女の子ですから、江利子さま」
 必死の思いを込めて告げた。
 実のところ、江利子に言われるまでもなくその手の欲望に襲われてはいた。女装していたとはいえ心は男なのだから、女の子の体やエッチなことに興味があるのは当然のこと。見たい、触れたい、ましてやそれが美少女なのだから尚更だ。
 だけど、実際に行為をされる方にしてみたらたまったものではない。男の祐麒ですら思うのだから。だから、変なことはしない。これはフェアじゃないから。
 女装して女子校に入っている自分が言っても説得力がないかもしれないが、そんな人間だと思われたくなかった。
「……分かったわ。祐紀ちゃんを信じる。私も、変なことはしない」
 祐麒の気持ちが伝わったのか、江利子もそう言って頷いてくれた。
「それじゃ、そろそろ学校に行かないと遅れちゃうわ。行きましょうか、たまに一緒に登校するくらい、同じ寮だし山百合会の仲間だし、おかしくないわよね」
「はいっ」
 笑って応じる。
「でもね、祐紀ちゃん」
 歩きながら、ちらりと江利子が視線を向けてきて言った。
「……もし、本当に見たり触ったりしたかったら、私は構わないわ。だって、私の体が無事なのも祐紀ちゃんに助けてもらったおかげだもの。だから、私の体はあなたのもの、好きにして……いいわよ?」
 江利子の口調はいつものからかうような色を帯びたものでなく、本気を感じさせるものだった。
「そんなこと、しませんってば。江利子さまの体は、江利子さまのものなんですから」
 言うと、江利子は目をぱちくりさせて祐麒のことを見つめてきた。
 なんだか、自分の顔のくせに江利子が入っているせいか、自分の顔だと思えないほど可愛く思えてしまった。なんか、これって女装している以上にやばくないだろうか。
「――そう、分かった。ううん、分かりました、江利子さまがそう言うのでしたら」
 笑って、江利子は祐麒の乳を揉んだ。
「自分の体だったら、構わないですよね?」
「ちょっ……こ、こら、ゆゆ祐紀ちゃん、ふざけないのっ!」
 恥ずかしいけれど、きちんと名前を呼ばないとおかしいから、頑張って口にする。笑っている、祐麒の体に入っている江利子。
 不思議な入れ替わりを通じて、江利子との距離は急速に変化していた。

 

第二話 ③につづく

 

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