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ノーマルCP マリア様がみてる 祥子

【マリみてSS(祥子×祐麒)】誰のやきもち、誰にやきもち

更新日:

 

~ 誰のやきもち、誰にやきもち ~

 

 

 小笠原家で催されたクリスマスパーティも終了したと思ったら、いつの間にか大晦日も三が日も過ぎ去り、三学期が始まっていた。しかしながら祐麒の心はまったくもってピリッとせず、茫洋としているうちに日々が流れていってしまっていた。
 その辺は姉の祐巳にも気取られていたようで、こうして休日に何をするでもなくリビングのソファでボーっとしていると、ため息交じりに見下ろされてしまう。
「どうしたのよ、ここんところそんなんで。お正月ボケ? にしては、年末からそんな感じだったよね」
「ん……いや、別になんでもないよ」
「そうは見えないんだけど」
 こんなにもボーっとしてしまうのは、どうしても祥子のことを考えてしまうから。
 あのクリスマスパーティで受けた、祥子からの衝撃の告白。いや、あれは告白というべきものだったのだろうか。
 よく分からないが、どうやら祥子の方は祐麒から告白されたと思っており、それに対する返事を行ったということ。祐麒にしてみれば、祥子に対して告白した記憶などないのだが、そんなことを口に出せるような状況ではなかった。
 それよりも大事なことは、勘違いにせよなんにせよ、祐麒に告白されたと思っている祥子が、その告白に対して許諾したということだ。即ち、祐麒に対して好意を抱いているということ。
 そこまで考えて、慌てて首を振る。
 早とちりしてはいけない、許諾したからといって、イコール祐麒のことが好きだと決まったわけではない。男嫌いの祥子でもあるし、まずは交際を始めてそれから、という方向性の方がすっきりする。
 いや待て待て、そもそも告白どころか祥子はプロポーズをされたと思っていて、それを受けたのではなかったか。つまり、結婚を前提とした付き合いであり、祐麒のことを好きだというのは疑いようのないことなのではないか。

 全く分からなかった。
 ただ、祥子がふざけたり、からかったりしているわけでないことは確かだろう。あんな、両親の前で宣言するくらいなのだから。
 翻ってみて祐麒はどうなのか。
 祥子は美人だし、スタイルもいいし、魅力的な女性であることは確かで、惹かれていることは認める。だが、いきなり結婚などと出されると戸惑わざるをえない。何しろ祐麒はごく平凡な庶民であり、なおかつ単なる高校生なのだから。
 気もそぞろになっている理由としてはもう一つ、パーティの日以降、祥子と会うどころか電話やメールをする機会も得られていないこと。もしかしたら祐麒から連絡が来るのを待っているのかもしれないが、どうしたらよいのか祐麒には分からなかった。
 相手が祥子ということもあり気さくに行動も出来ず、もやもやしているうちに時間だけが過ぎてしまっているのが現状というわけだった。
 そんなわけで、せっかくの休日も昼間から何をするわけでもなくぼーっとしていると、来客を告げるチャイムが鳴った。
「祐巳、出てくれよ」
 両親は外出していて不在である。しかし、声をかけた姉からの返事がない。そういえば直前にトイレに行くとか言っていたか。仕方なく祐麒はソファから立ち上がり、玄関へと向かってゆく。
「――はい、どちらさまですか」
 あまり何も考えていなかったせいか、相手が誰かを確認もせずに玄関を開けてしまった。すると目の前に立っていたのは。

「――え、祥子さん?」
「っ!?」
 祥子のことばかり考えていたから幻でも見てしまったのか、そんな風にも一瞬考えたものの、玄関先に立っているのは間違えようもなく祥子その人だった。
 一方で祥子も、祐麒が出てきたのが意外だったのか、声もなく立ち尽くしている。
 もしかしたら、いつまでたっても動きのない祐麒に業を煮やして、自ら祐麒のもとへと訪れてきてくれたのだろうか。そこまで自分は思われているのだろうか。そんなことを考えると、急に心臓の動きが速くなりだしたのだが。
「――あ、お姉さま、いらっしゃいませ!」
「どわっ!?」
 祐麒を押しのけるようにして祐巳がしゃしゃり出てきた。
 祥子もホッとしたように表情を緩め、ようやく口を開く。
「ごきげんよう、祐巳」
 久しぶりに聞いたような気がする祥子の声に、胸が躍る。
「もう、祐麒ったら気が利かないんだから、お姉さまをこんな寒い外にいつまでも立たせたままにして。お姉さま、どうぞ上がってください」
 祐麒の気持ちをぶち壊しにする祐巳だが、言っていることは間違っていないので反論することも出来ない。
 祐巳の手によって壁際に追いやられると、その前を祥子が歩いて中に入ってくる。この様子を見ていると、別に祐麒を訪ねてきたわけでもなんでもなく、祐巳と約束があってやってきたようだ。普通に考えれば、当たり前だが。
「お邪魔します」
「どうぞ、どうぞ。両親も外出しているので、何の気兼ねもいりませんから」
 尻尾があったら千切れんばかりに振っているのが目に浮かぶほど、祐巳は浮かれている。大好きなお姉さまが家に遊びに来たのだから、それは嬉しいのだろうが。
「それじゃあ俺は部屋に戻ってるから……祥子さん、ごゆっくりしていってください」
 せいぜい、失望が顔に出ないようつとめて祥子に挨拶し、二階へと上がっていこうと階段に足をかける。
「――あ、ちょっと待って祐麒さん」
「はい?」
 足を止め、祥子の方を向くと。
「ケーキを持ってきたんです。せっかくですから一緒に、食べませんか?」
「え、えーと、でも」
 二人きりのところで邪魔にならないだろうかと、ちらりと祐巳に目を向けると、祐巳は腰に手を当てながら器用に肩をすくめてみせた。
「お姉さまがせっかく誘ってくださってるんだから、祐麒も来なさいよ」
 二人きりでいることよりも、我がままを言わない良い妹であることを選んだようだ。それならばと、祐麒はお言葉に甘えてお邪魔すべく、上りかけていた階段から足をおろしてリビングへと向かうのであった。

 

 リビングではお客様である祥子は上座に座ってもらい、祐麒と祐巳は対面のソファに並んで座った。
 コートの下は、フロントにフリルとシフォンをあしらったプルオーバーに、グラデーションカラーのカットソースカートというコーディネートで、ブラックを基調としているが重く感じないのは祥子自身が華やかだからだろう。
「うわぁ、凄い、美味しそう!」
 祥子が手土産に持ってきたケーキの箱を開けて、祐巳が目を輝かせている。
「私もお気に入りのお店なのよ。気に入ってくれるといいけれど」
「絶対に気に入りますよ! うわー、どれにしようかなぁ、迷っちゃう」
「おい、はしたないな。まずはお客様である祥子さんだろ」
「わ、分かっているわよ、それくらいっ」
「ふふ、私のことは気にしないで、好きなのを選んで頂戴」
 聞いたこともないケーキ屋だが、高級であることは間違いないだろう。一つ一つのケーキのサイズは大きくないが、非常に手がかけられているように思えた。
 結局、祐巳はフルーツたっぷりのタルト、祐麒はガトーショコラ、祥子は苺とチョコのモンブランを選択した。あわせる飲み物は温かい紅茶、ケーキが甘いから祐麒は砂糖抜きのストレートにした。
「うわ……」
「これは……」
 一口食べて、福沢姉弟は絶句した。
 正直、味にうるさいとかいうのは無いし、舌が肥えているつもりもないが、普段食しているケーキとは何かしら違う、ということだけは間違いなく分かった。
「あら、どうしたの。もしかして、口に合わなかったかしら?」
 動きの止まった二人を見て、不安そうに尋ねてくる祥子。
「と、とんでもないですっ」
「凄く美味しくて、びっくりしちゃっただけですから」
 二人して慌てて祥子に言葉を返す。
 実際、それが事実だったから。
「あぁ、でも祐麒のガトーショコラも美味しそう。ね、ちょっと頂戴」
「って、俺が返事する前から食おうとしているじゃないか」
「えへへ、ぱくっ…………おぉ、濃厚でビターなチョコレートだけど、しつこくなくて、なんか凄い!」
「お前なあ」
「まあまあ、ほら、私のタルトもあげるから」
「いや、別に俺は祐巳みたいに欲しがってないし」
「いいじゃん、ほら」
 遠慮していると思ったのか、祐巳はフォークでタルトを切り取ると、祐麒に向けて差し出してきた。避ける間もなく、ケーキを口の中に放り込まれてしまう。
「おい、祐巳お前ちょっと…………」
 フレッシュなフルーツの甘さは素晴らしかったが、さすがに祥子の見ている前で何をするんだと言おうとして、食べてしまって今さら感はあったが、ちらりと祥子の様子を窺ってみた。

「――っ!?」
 すると、表情こそあまり変わらないものの、なんだかものすごいプレッシャーをかけてこちらを凝視してきていた。膝の上に置かれた拳は強く握り締められているのか、血管が僅かに浮き出て見えて小刻みに震えている。このままいったら、髪の毛がメデューサの如く蛇となって動き出しそうな気配すらある。
「も、もういいだろ」
 とりあえず身を寄せてきていた祐巳を押し避けて落ち着こうとしたが、祐巳が離れた今となっても祥子の様相はあまり変わらず、じっと何か物言いたげな感じで祐麒とケーキを見つめている。
 いくら姉弟とはいえ、さすがに今のような場面を目にしたら機嫌も悪くなるのかと思ったが、しばらくしてそれだけではないような気がしてきた。なぜかというと、祥子の目が時々こちらに意味ありげに向けられるから。祐麒が見ていることに気が付くと、すぐに視線をそらしてしまうが、ここはきちんと読み取らないとまずいことになると直感する。
「…………えぇと、さ、祥子さん」
「!! は、はい、なんですか、祐麒さん」
「え、えーと……さ、祥子さんのモンブランもとても美味しそうですね」
「ちょっと祐麒! あんたまさか、お姉さまからもケーキを貰おうなんて思っているんじゃないでしょうね。なんて羨まし……じゃなくて、なんて意地汚いのよ、お姉さまはお客様なんだからねっ」
 と、すぐに横から噛みついてくる祐巳だったが。
「ふふっ、いいのよ祐巳。ここのケーキは私も大好きで本当に美味しいものね。祐麒さんが食べたくなっても、おかしくないわ。そもそも、祐巳が最初に食べたいと思ったのでしょう」
「そ、それはそうですけど」
 やんわりと祥子に突っ込みをいれられて赤面する祐巳。一方で祐麒は、祥子の雰囲気が柔らかくなって少しばかり胸をなでおろす。祥子が祐麒のケーキを物欲しそうに見ている、なんて言うのはさすがに失礼なので、自分自身が祥子のケーキが欲しい感じに言ってみたのだが、悪くは無かったようだ。
「いいですよ、良かったら私のも一口」
「え、いえ、でもそれは」
「遠慮せずに……ああ、でもこのままでは遠いですね」
 遠いとはいっても手を伸ばせば十分に届く距離なのだが、何を思ったか祥子はケーキの皿を手に立ち上がると、祐麒と祐巳が座るソファの方に回り込んできて、なんと祐麒の隣に腰を下ろしてきた。
 祐巳と二人で並んで座っていたので、当然のように祐麒の隣のスペースは狭く、ゆったりとしたソファではあったが祥子とは触れ合うような距離だ。
「あ、あの、祥子さ……」
 突然のことに驚き戸惑っていると。
「そ、それじゃあ……ど、どうぞ、祐麒さん」
 そう言って祥子はモンブランの一片をフォークで切り取り、祐麒の口元へと差し出してきた。
「え、お、お姉さまっ!?」
「どうしたの祐巳? 祐巳も同じことをしていたでしょう」
「そっ、それは、そうですけれど……ええと、あの」
 わたわたしている祐巳を、不思議そうに首を傾げて見つめる祥子だが、近くにいる祐麒からするとその頬が赤くなり、表情も余裕がなくどこか緊張している様が見て取れる。祐巳の真似をしようとしているのかもしれないが、さすがに恥ずかしさはあるようだ。
 いつまでもその体勢でいさせるわけにもいかず、祐麒はぱくっとケーキを咥え込んだ。
「あ、あああぁぁっ」
 後ろから祐巳の変な声が聞こえてきたが、無視してケーキを咀嚼する。苺とチョコと栗という組み合わせが思った以上にうまく組み合わさって非常に美味で、自然と頬が緩んでしまう。
「凄い、美味しいですねこれ」
「そうですか、良かったわ」
 ほっと安心したように微笑む祥子。
「む、むむむぅぅ~~」
 変な唸り声が後ろから聞こえてくる。
「ちょっと、祐麒」
「ん、なんだよ」
「はい、もう一口あげる」
「え、なんだよ、さっきもらったからもういいよ」
「さっきはマンゴーが入ってなかったから、今回はマンゴー入りだよ」
「でも、それ」
「いいから、はい、あ~んして」
「ちょ、祐巳っ……」
 半ば強引にケーキを口に押し入れられる。マンゴーは確かに美味しいのだが、祐巳だって大好きだったはず、わざわざそれを祐麒に譲ろうとするなんて食いしん坊の祐巳にしてはおかしい。
「祐巳、お前どうしたん……ん?」
 問いただそうとすると、右腕の服の袖が引っ張られていることに気付く。振り向いてみると、なんだか、"む~~っ"としているような顔の祥子と目があう。
「ど、どうかしましたか、祥子さん?」
「そういえばさっき、祐麒さんのケーキを祐巳が食べていましたよね。私も一口、良いかしら?」
「え、ああ、いいですよ、どうぞ」
 と、皿を祥子の方に押す祐麒だったが。
「…………食べさせては、くれないんですか?」
「――へ?」
「先ほどは、私が祐麒さんに食べさせてあげましたよね。でしたら、逆の場合は食べさせてくれるものではないのかしら」
「あの、祥子さん?」
 明らかにおかしくなっているが、戸惑う祐麒をよそに、祥子は恥ずかしそうに頬を紅潮させながら祐麒をじっと見つめてくる。
 一方で、なぜか背後からも妙な気配を感じ、前後から変なプレッシャーに押される。
「くっ……え、えと、じゃあ……」
 とりあえず目の前から発せられる圧力に屈し、ガトーショコラをフォークで削り取り、震えながら祥子の口元に差し出す。
 顔に落ちかかるしなやかな艶のある黒髪を指で掬いながら、ピンク色の唇を小さく開いてチョコレートケーキを口に含む祥子。
「……美味しい」
「は、はい、そうですね…………とわっ!?」
 ほぅ、と吐息を吐き出す祥子に見惚れそうになったところ、いきなり左腕を強く引っ張られた。
「な、なんだよ祐巳、今度はっ?」
「私、さっき食べさせてもらってない」
「あ? 食べただろ」
「祐麒に食べさせてもらってないもん」
 なぜかぷりぷりと明らかに不機嫌モードの祐巳に困惑する。やはり、マンゴーを譲ったことを後悔しているのか。
「……ってゆうか離せよ腕、当たってるだろ」
 冬場でセーターを着ているが、そのセーター越しに祐巳の胸があたっているのである。
「ん? 何が?」
 聞きかえしながら、さらに腕をぎゅっと強く抱くようにして胸をぐいぐいと当ててくる祐巳。
「いいから早く頂戴よ、私にも」
「ああもう、分かったよ、ったくなんなんだよ……」
 文句を言いながらも祐巳にケーキを与えてやると。
「えへへ、ありがと、美味しーっ」
「そら良かったな…………っ痛ッ!?」
 今度はいきなり激しい痛みが太腿を襲ってきた。何事かと首を向けるが、祥子は知らん顔をしている。
「どうしたの祐麒?」
「あ、いや、だから離れろって……タタっ!?」
 再び痛みがきたが、今度はハッキリと見た。祥子の手が祐麒の太腿をつねり上げてきていたのだ。
「いたたっ、痛いっ、ちょ、あの祥子さ」
「まあ、どうしたんですか祐麒さん。足がどうかしましたか」
「え、あ、いえ、べべべ別に何も」
 祥子から発せられるプレッシャーを感じ、何も言えなくなってしまう祐麒だったが、これ以上つねられては肉が引き千切れてしまう恐怖を覚え、とにかく腕にしがみついている祐巳を強引に引きはがす。
 すると、ようやく太腿をつまんでいた祥子の指が緩んでくれて祐麒はホッと一息ついたが、このままここにいたらヤバいと感じ、急いで残っていたケーキをかっ込み、紅茶を飲み干して立ち上がる。足が痛かったけれど、それは無視する。
「そ、それじゃあ食べ終わったことだし、二人の邪魔してもなんだし俺は部屋に戻るから。祥子さん、ごゆっくりどうぞ、ケーキ美味しかったです」
 と早口で告げて早足で逃げ去るようにリビングを後にして部屋に駆け込んだ。ベッドに顔を突っ伏し、大きく息を吐き出し、一人ごちる。
「……な、なんだったんだ…………?」

 

「おい祐巳、今日の昼間のあれは一体なんだったんだよ」
 祥子が帰宅し、両親も帰ってきて一緒に夕食を終えてからようやく祐麒は昼間の不可解な行動について尋ねてみた。
「何って、何が?」
「あの祥子さんが持ってきたケーキのときの……アレだよ」
「別に。祐麒が図々しくお姉さまと食べさせっこなんてしようとするから。祐麒もしかして、お姉さまのこと狙っていたりするの?」
「え、いや、それはっ、その――――」
「……ま、祐麒にそんな度胸あるわけないか」
 咄嗟のことで言葉に詰まるが、どうやら祐巳はそれを都合よく受け取ってくれたようで安堵するも、もしも今後本気で祥子との交際を考えるならば、いずれは祐巳にも話さなければならないのだ。
「……そっか。あの時お前、もしかして焼きもちやいてたのか?」
「なっ! そ、そんなわけないでしょっ。な、なんで、そんなお姉さまに、うう、自惚れてんじゃないの祐麒?」
「は? いや、祥子さんを俺に取られると思って焼きもちやいてたんじゃないのか?」
「え? あ……あ~、そ、そうそう、そうよ、そうかも」
 赤くなりながら首を横に振ったり頷いたり、よく分からない挙動を示す祐巳だったが、思いがけず祥子が積極的に祐麒に絡んできたために焦って変な行動に出てしまったようだ。これは今後も思いやられる、なんてことは本当に祥子との仲が進んで初めて言えることだが。
「ったく、お姉さまのことが好きなのはいいけれど、あまり入れ込み過ぎるなよ、って言っても無駄か」
 軽口を叩きつつ、自室へと向かう。
 そんな祐麒の耳には、リビングに残された祐巳の「……そうだよ、そうに決まってるじゃん。なんで、私がお姉さまに……」という呟きは届かなかった。

 

 

 一方で小笠原家。
 帰宅した祥子は真っ直ぐに自室に足を向けると、入るなりベッドの枕に顔を埋めて羞恥に打ち震えた。
 なぜ、ケーキの食べさせあいなどという恥ずかしい行動をとってしまったのか。ましてや、妹とはいえ祐巳の目がある前で。
 だがどうしようもなかったのだ。直前、祐巳が祐麒にケーキを食べさせるシーンを目にしてから思考がぐちゃぐちゃになり、体を、口を止めることができなかったのだ。
「もう、祐巳がいけないのよっ」
 腹立ちまぎれに妹の名を出すが、声に出してみて改めて思った。そもそも祐巳が祥子に張り合うような態度を取らなければ、祥子だって祐麒に食べさせてもらうよう要求するなんてことはしなかったはず。
 祐巳をだしにして福沢家を訪れていながら、都合よく妹に責任を押し付けようとする祥子だったが、いつまでも腹を立てていても仕方ない。そもそも、祐麒に会って会話をするという当初の目的は達せられたのだから。
「……そもそも、祐麒さんがいつまでも誘ってくれないからいけないのよ。私に、プ、プ、プロポーズまでして、父と母にも認めていただいたのに……」
 ごろりと体を横に向け、枕を抱きしめるような体勢を取り、乱れた髪が顔に落ちかかるのを払いもせず、ぼうっと何もない空間に目を向ける。
「……私、祐巳にやきもち、やいたのかしら…………」
 しばらく無言でいた後、ぼそりと祥子は呟き。
 初めて知る気持ちに、戸惑うのであった。

 

 

おしまい

 

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