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ノーマルCP マリア様がみてる 志摩子 真紀

【マリみてSS(志摩子×静×真紀×祐麒)】先生と先輩と同級生

更新日:

~ 先生と先輩と同級生 ~

 

 リリアンに通い始めてから一週間ほどが経過した。大勢の女子の中で僅かな男子生徒という状況にはいまだ慣れないものの、学園生活に大きな問題はなく、順調に過ごせているとはいえる。
 リリアンの女子生徒も真面目でいい子ばかりだし、男子生徒編入クラスに配された女子生徒はその辺の適性もきちんと考えられているのか、妙な偏見や嫌悪感を抱くようなこともないように感じられる。もちろん、一週間程度で親しくなれるほどでもないが、クラスで居辛いとか、変な目で見られているとか、そういうことは今のところ、ない。
 男子生徒も、きちんと選抜されたメンバーであるから、周囲に可愛い女の子ばかりだからといって浮つくこともなく(内心は分からないが、少なくとも表面上は)、品行方正に生活しているということも大きいだろう。
「……なるほどね、ありがとう。参考になったわ」
 一通り祐麒の話を聞いてノートにメモを取っていた真紀が頷き、髪をさらりとかきあげる。
 ここはリリアン学園内にある生徒指導室。
 入学から一週間が経過したということもあり、今までの学園生活はどうだったか、困っていることはないか、改善してほしい点はないか、そういったことをクラスの男子代表として委員長の祐麒がヒアリングを受けているわけである。
「――っていうかさ、おんなじこと、家でも話しているじゃん」
「そうだけど、ちゃんと学校でヒアリングしないと格好がつかないでしょ。あと、ため口になっているわよ祐ちゃん。学校では私は『先生』なんですからね」
 そういう自分の方こそ祐麒の呼び方が自宅仕様になっているし、喋り方も家でのものに近くなっているが、余計な突っ込みは控えることにした。どうせ面倒くさいことになるに決まっているのだから。
「でもやっぱり、クラス委員が祐ちゃんだと楽よねー。こうして学園生活事情を聞くのも、男子女子の問題を聞くのも。クラスでもうまいこと男女間のことを取り持ってくれているみたいだし、お姉ちゃんも嬉しいわー」
 二人しかいない進路指導室ではもはや取り繕うことを放棄したのか、完全に"おうちモード"になりつつある真紀。
「ヒアリングだったら、藤堂さんと一緒にすれば時間の短縮だったんじゃないの?」
 祐麒も、真紀の前でしゃちほこばるよりかは余程楽なので、肩の力を抜いて話すことにした。
「隣に男子がいる状況じゃあ、言えることも言えないでしょう?」
「ま、そりゃそうかもだけど、ちなみに藤堂さんはなんて?」
「それはさすがに教えられないわよ、祐ちゃんにだって。女の子同士の秘密もあるし」
「いや、"女の子"って無理あり過ぎ……」
「んふふ、祐ちゃん、何か言ったかしら?」
「イタタタタタタっ、いや、何も言ってません!」
 ナチュラルに手の甲をつねられて悲鳴をあげる。謝ったところでようやく離してくれたが、つねられた部分が赤くなってしまい、反対の手でさすって痛みを和らげる。
「祐ちゃんは本当にデリカシーがないんだから……あ、それとももしかして、藤堂さんが何を言ったか気になるのかな?」
「そりゃ、気になるよ。一週間、男子連中に気を付けてはいたけれど、男子校出身だからね、女子がどう思っているかとか分からないし」
「…………そういう意味じゃないんだけどなー」
「話はもう終わり? それじゃあ、そろそろ行っていい?」
「ああ、うん、ありがとうね。またしばらくしたら話、聞かせてもらうから」
 椅子から立ち上がり、軽く手を振って進路指導室から廊下に出て扉を閉めると。
「――福沢くん」
「わっ、藤堂さん、あれ、なんでここに」
 いきなり声をかけて振り向いてみれば、そこには志摩子が立って祐麒の方に目を向けていた。
「驚かせてしまったかしら、ごめんなさい。あの、どういうことをお話ししたのかちょっと気になって待っていたのだけれど……ご迷惑だったかしら?」
「いやいや、迷惑なんてことはないよ、ただちょっと予想していなかったから。待つっていっても、結構、時間があったでしょ」
「大丈夫、待つのは平気」
 ふわりと微笑む志摩子。
「……でも確かに、私の時よりも随分と長かったかも。そんなに色々聞かれたの? やっぱり慣れないことが多いのかしら?」
 志摩子の言葉に曖昧に頷く。実際のところ、本当に聞きたいことは家で真紀に伝えているので、かなりの割合が雑談であったり、逆に学校の仕事における真紀の愚痴を聞いたり、関係ない話もおおくて時間をくってしまったのだ。もし、志摩子が待っていると初めから知っていれば、もっと早くに話を切り上げたのだが。
「でも担任の先生が鹿取先生で良かったかも。凄く親しみやすくて話しやすいものね。福沢くんも、そんな感じだったし」
「え、そうかな。他の先生とそんなに変わらないと思うけど」
「でもさっき部屋から出てくるとき、手を振って出てきて随分気さくな感じに見えたけれども」
 小首を傾げながら言う志摩子の言葉に内心でドキリとする。まさか待っているなんて思っていなかったから、つい普段のノリで部屋を出てきてしまったのだ。本来の教師と生徒という関係なら、「失礼します」と一礼して外に出て扉を閉めるのがあるべき姿だろう。あまりに迂闊すぎた自分の行動を省みるとともに、帰ったら真紀にも注意しないといけないなと心に刻む。
「ああ、なんか最後の方は雑談みたいになっちゃったから、油断したのかも。しまったなぁ、それ内心とかに響かないかな」
「それは、大丈夫だと思うけれど」
 とりあえず冗談めかして誤魔化すと、志摩子も軽く笑って流してくれたのでホッとする。やましい関係ではないが、余計な疑念を周囲に抱かせるようなことはしないに限る。
「それよりさ、藤堂さんはどんなこと聞かれたの?」
「ええと、私は……」
 ゆっくりと歩きながら情報交換をする。その結果分かったのは、お互いに同じようなことを聞かれたということだった。そしてどんなことを答えたかについては、肝心な部分はやはりはぐらかされてしまったが、それは仕方ないところだろう。祐麒だって、志摩子というか女子に対しては言い辛いこともある。ただ、男子も女子も総じていえることは、一方的に嫌がることはなく、歩み寄ろうとする姿勢を持っていること。
「まあ、とりあえず女子達に嫌われていないと分かってほっとしたよ」
 祐麒に限らず、これは他の男子全員が気にしているところだ。何せ全校の95%以上が女子なのだ、ここで女子を敵にしたらまともな学園生活を送ることなどできなくなる。ましてや男子が編入されたクラスは、男子が一緒のクラスでも良いと考えてくれている女子なわけで、ここで嫌われては未来がない。他のクラスには、どうしたった男子と一緒なんか嫌だという女子だっているのだから。
「福沢くんたちは皆真面目で紳士だから、大丈夫だと思うけれど」
 実感としてはいまだわかない。
 クラス委員となったから志摩子とはある程度話すが、他の女子と話す機会はいまだに殆どなくて、朝夕の挨拶が関の山だ。例外があるとすれば、志摩子の友人である桂だけは親しげに話しかけてきてくれているくらいか。
「そうだといいけれど…………ふぁ~」
 欠伸が漏れ、手で口を覆う。
「――寝不足ですか? そういえば、目の下に隈が」
「え、あ、そう? ちょっと読んでいた本が面白くて、夜更かししちゃって」
 言いながら、内心で夜のことを思いだす。

 夕食を終え、入浴を終えた後、祐麒は大抵の日は日付が変わる前には布団に入って就寝する。これは中学時代まで野球をやっていて、早寝早起きが身についてしまっていることで、むしろこれでも夜遅くまで起きているようになった方なのだ。
 そんなわけで昨夜も十二時前には布団に潜り込み、寝付きも良い方なのであっさりと眠っていたのだが、どれくらい時間が経った頃だったろうか、ふと人の気配を感じて偶然にも目が覚めた。
「ん……真紀ちゃん? どうかした…………?」
 人の気配とはいいながら、今の福沢家には祐麒以外といえばもう一人しかいないのだから、必然的に真紀だという結論に至る。
 電気の消された室内に、開いたドアから光が差し込み、それを逆光にした真紀のシルエットが視界に入る。
 そして。
「――――ふにゃぁ」
 とことこと無造作に歩いてきたかと思うと、もそもそと布団の中に潜り込んできた。
「ちょっと真紀ちゃん、寝ぼけてるの? 真紀ちゃんの部屋はここじゃな……って、こら、だから抱き着くなっての!?」
 祐麒の言葉など耳に入っていないのか、身を寄せ、背中に腕を回し、足を絡めて祐麒の体にしがみつく真紀。
「うぅん、抱き枕……」
「だーかーらーっ、俺は真紀ちゃんの抱き枕じゃないって何度言ったら……って、酒臭っ!? またビール飲んだな真紀ちゃん!?」
 早く寝る祐麒と異なり、真紀が寝るのは日付が変わってから。祐麒が部屋に入ってしまえば、真紀がお酒を飲むのを止めることもできない。そして真紀はお酒を飲むと大抵、こうして祐麒のベッドに入り込んでくるのだ。
「くっ……いつもながら、なんつう力だ……っ」
 酒の入った真紀の力はやたらと強く、がっちりと抱き着いてきて引きはがそうにも引きはがせない。祐麒にしても、両腕と足をガッチリホールドされてしまっているのもあるし、それよりなにより真紀の肌の柔らかさと温かさを直に感じ、力を出せない。
 こうなると朝まで目を覚まさない真紀である、祐麒としても諦めて寝るしかないところなのだが、押し付けられる胸とか太ももの感触が男子高校生には刺激が強すぎて、そう簡単に眠ることなどできない。もちろん、手を出すなんてもっての外で、ストレスと睡眠不足だけが積み重なっていくという悪循環であった。
 殆ど眠れないまま朝を迎え、真紀が目覚めたところでようやく生殺し状態から解放されるわけだが。
「…………あれ、祐ちゃん?」
 いまだ寝ぼけ眼の真紀に対し、祐麒は苦い顔で応じる。いまだ、真紀は祐麒に抱き着いている状態は変わらない。
「あれ、じゃないよ。なんでこう、いつも俺のところに来るんだよ……」
 ため息交じりに問うと。
「……だって、祐ちゃんを抱いていると、安心するんだもん」
 などと、警戒心などまったくもたない子供のような笑顔で答える真紀に、祐麒の方が赤面してしまう。分かっている、酒を飲んだ翌朝の寝起きの真紀は30歳の真紀ではなく、大学時代の、まだ小学生だった祐麒を相手にしている真紀に戻ってしまっていることは。だから、こんな無防備でいられるのだと。
「――――ごめんなさいっ、あのね、お仕事で疲れた後に飲むビールってこう、堪らないというか、やめられないというかっ」
 目が覚めて意識もクリアになった後に謝ってくるのが、まともな精神状態でなかった証拠だ。
 とにかく、そんな人には言えない事情があり、祐麒は睡眠時間を削られているのだ。

「――どんな本を読んでいるんですか? 私も、本は好きで――」
「え? あ、ああ、それはっ」
 志摩子に訊ねられ、慌てて適当な書名を口にする。
「……ふぅん。福沢くんって、そういう本が好きなんですね」
「意外だったかな?」
「あ、ごめんなさい、そういうことじゃなくて……あ、でもそういうことになるのかしら。福沢くんてやっぱり野球の印象が強いから、本というよりは活動的な感じの方がイメージしやすいから」
「うーん、そっかぁ…………って、あれ? 藤堂さん、俺が野球やっていたって」
 リリアンに入ってから、クラスメイトの誰にもそのような話をした記憶はなかった。祐麒にとっては古傷を抉るようなことであり、自分から進んで話したいと思えるものではない。もちろん、中学時代に野球をしていたことを秘密にしていたわけではないから、男子の誰かから聞いたという可能性もあるだろうが、男子の誰かが志摩子と話している姿すら目撃した記憶はない。志摩子に限らず、女子と雑談をしたことのある男子はいまだいないと思うのだが。
「あっ…………と、あの、それは」
 聞き返された志摩子は、ほんのりと頬を赤らめて、わたわたと慌てている。
「わ、私……」
 恥ずかしそうに俯きながらも、懸命に上目づかいで祐麒の方に目を向けようとする志摩子。その様子が小動物というか、怯えた兎のようで保護欲をそそられそうになる。
「実は…………」
 もじもじしながらも懸命に口を開く、それに合わせるようにして別の声が重なる。
「――――あ、キミ!」
「え?」
「…………」
 なんとなく予感がして声の方を向くと案の定、静が向かって歩いてきていた。
「あ――――ど、どうも、こんにちは」
「はい、こんにちは。実は、キミのことを探していたのよ」
「え、どうしてですか? お礼ならこの前に」
「うん、そうなんだけど、その時に肝心の名前を聞くの忘れていたことを今日、思い出して。我ながら間抜けでしょう? それで改めて、教えていただけるかしら」
「いいですけど。えと、福沢祐麒です」
「フクザワユウキくん……と、うん、覚えた。あ、ごめんなさい、尋ねておいて自分の名前を伝えていなかったわ。私は蟹名静、よろしくね」
「はい、蟹名先輩」
「蟹名、って言い辛いでしょう? それにリリアンでは、名前で呼び合うのが通例だから、私のことも『静』でいいわよ」
「えっ!? そ、そういうわけにはいきませんよっ」
「その代わり、私もキミのことは『祐麒くん』って呼ばせてもらうわね」
 ――――チッ
「お、俺はいいですけれど、さすがに先輩のことを名前では呼べませんよ」
「皆そうだから気にしなくていいのに……って、あ、ごめんなさい、すっかり話し込んじゃって。お友達と一緒だったのに」
 そこでようやく静が、祐麒の少し後方にいた志摩子に目を留め、申し訳なさそうな表情をして頭を下げた。
「――――いえ、お気になさらないでください、静さま」
 それでも志摩子は嫌な顔一つ見せず、天使のように微笑んでみせる。
「ありがとう。貴女は藤堂志摩子さんね――――どうして名前を、って顔をしているわね。それはそうよ、新一年生で一番の美少女だもの」
 得意げに「ふふん」と胸を張っている静を、志摩子はきょとんと見つめていたが。
「あ……あの、静さま。私と福沢くんはそろそろ」
 さすがの志摩子もペースを乱されているのか、口調がいつもと僅かに異なるような気がした。
「そうそう、祐麒くんに実はお願いしたいことが――」
 しかし、そんな空気を読まずに静は続けようとする。
「――――ッ」
 志摩子が息を止める。
 そして。
「あっ、志摩子さん見ぃーーーーーーつけたっ!」
「きゃあっ!? か、桂さんっ!?」
 新たに現れた四人目によって、全てがリセットされた。
 駆け寄ってきた桂は志摩子が止める間もなく飛びつき、志摩子に頬ずりをしている。これには、静の方も面食らったようだ。
「ど、どうしたの桂さん、急に……」
「ねえねえ見てみて、ほら、どうかな? 志摩子さんに最初に見てもらいたくてっ」
 ようやく志摩子から身を離した桂は、嬉しそうにその場でくるくると回ってみせる。
「あ、テニス部の……桂さん、凄く可愛い」
「本当っ!? 嬉しいっ、けど照れる~~っ」
 テニス部に入部したのか、桂はテニスウェアを身に付けており、それは志摩子の言う通りとても良く似合っていた。オフホワイトを基調としたウェアは清潔感があり、それでいて短いスカートから伸びる足が健康的な色気を醸し出しているが、元気いっぱいの桂からはいやらしさなど微塵も感じない。
「本当は一年生がそろうまで発注しないんだけど、去年の余りがあるっていうから一足先に着させてもらっちゃって…………」
 と、それまで楽しそうにくるくると表情を変え、ぱたぱたと手足を動かしていた桂の動きが止まる。
「……って、しししししししし静さまっっっ!? すすすすすすみませんっ、は、はしたないところをお見せしゅ、しゅてっ、あのっ」
 どうやらようやく静の姿を認識したらしく、顔を真っ赤にして狼狽し、志摩子の後ろに身を隠したと思ったが逆に失礼だと気付いたのだろう、前に出てきて頭をぺこぺこと下げて目をぐるぐる回し、パニック状態に陥っている。
「――――ふふふっ。落ち着いて、桂ちゃん? 怒ったりしていないわ、こんな可愛い桂ちゃんを怒るわけないでしょう」
 そんな桂を見て静は可笑しそうに笑いだした。笑われて余計に桂は赤くなっていたが、静が怒っていないのは本当のようで、むしろ笑いのツボに入ったのかお腹と口元を手で抑えて必死に堪えているように見えた。
「……っ、私はお邪魔なようね。それじゃあ、また会いましょう。ごきげんよう、志摩子さん、桂ちゃん、そして祐麒くん」
 笑いを堪えながらもあくまで優雅さは失わず、静はその場を去って行った。
 静が立ち去るのを茫然と見送り、完全にその姿が見えなくなったところで桂は頭を抱えた。
「ああああ、やっちゃった! ご、ごめんね志摩子さん、あたしっ」
「ううん、むしろ桂さんが来てくれて助かったわ」
「え? そなの?」
「ええ、だってあの人――いえ、ほら上級生相手に私も福沢くんも緊張していたから」
 ちらと志摩子に視線を送られ、祐麒も頷いた。実際にはそこまで酷く緊張していたわけではないが、何を話したらよいのか困っていたのは事実だし、それに桂が落ち込まないようにという配慮も分かったから。
「そっかぁ、それなら良かった……って、良かったのかな? あれ?」
 はてはて、と首を横に揺らす桂を見て、祐麒も志摩子も思わず笑ってしまう。
「あ、あー、二人して笑うなんて酷いよーっ」
「ごめんなさい、桂さん。でも、本当に……感謝しているのよ?」
「それならいいけど……って、なんかあたし……場違い?」
 きょろきょろと、周囲に視線を向ける桂。確かに、校舎内に一人でテニスウェアでいるのは少し浮いている気がする。先ほどの桂の悲鳴を聞いてか、何人か生徒がこちらを見てきてもいるようだ。
「うわ、なんか急に恥ずかしくなってきた……し、志摩子さん、一緒に外まで行ってくれない? あ、その前にあたし、お手洗いにも」
「ふふ、分かったわ、一緒に行きましょう」
「それじゃあ、俺も今日は帰るから。また明日」
「うん、ばいばい、福沢くん」
「ごきげんよう、福沢くん」
 トイレに向かう二人に手を振り、鞄を取りに行くべく祐麒は教室に向かう。

 

「――ね、志摩子さん。もしかしてあたし、二人の邪魔しちゃった?」
「や、やだ、桂さん。そんなのじゃないわよ、私達。それより……」
「ん?」
「…………本当、あのタイミングで来てくれて、助かったわ」
「そう? 志摩子さんがそう言ってくれるなら、いっか。じゃ、お手洗いに行こう、おしっこ漏れちゃいそうっ」
「もう、桂さんたら」
 仲良く腕を組んでトイレへと足を向ける二人。

 こうして、徐々に新たな人間関係を構築しつつ、祐麒の学園生活は続いてゆく

 

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