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【マリみてSS(祐麒・色々)】乙女はマリアさまに恋してる プロローグ②

更新日:

~ 乙女はマリアさまに恋してる ~

<プロローグ②>

 

 リリアンへと旅立つこととなったその日。
 アンリはまだ荷物整理や身支度をこれから行うので、後から入寮するということになり、とりあえず祐麒一人でリリアンの寮へと向かった。
 いきなり三年前にタイムスリップし、家族は行方不明で、小笠原家に拾われて祥子の『妹』として過ごし、かつては存在しなかったリリアンの寮に入るという、訳の分からない状態に祐麒は混乱する。誰一人、理解してくれる者もいないわけで、それでも命ある限り生きていかねばならない。だからといって、女の子として女子校に通い、挙句に女子寮で生活するなんて無茶な話だ。
 弱気の虫が頭をもたげてきて、寮の前で逡巡していると、玄関から一人の女性が姿を現した。女性は祐麒に気が付くと、ゆっくりと歩み寄ってくる。祐麒はどうしようかと思いつつ、逃げることも出来ずにただ女性が近づいてくるのを待つしかなかった。
「ごきげんよう。もしかして、今日入寮予定の福沢さんかしら?」
「あ……は、はい、そうです」
 女性は、ショートボブの髪型をして、凛とした空気を持っていた。
「良かった、時間になっても到着しないから、迷っているのかと思ったわ」
「あ、いえ、すみません」
 慌てて頭を下げる。
 遅れたのは、単に色々と考え、悩みながら歩いていたせいである。
「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私はここ『秋桜寮』の寮長をやっている、三年の水野蓉子です。よろしくね、『福沢祐紀』さん」
「あっ……! こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
 改めて挨拶をして、寮長である蓉子のことを見て、思い出した。祐麒が一年生の時、確か紅薔薇さまだった蓉子。話したことは殆どないが、学園祭の打ち合わせで顔を見たことはある。正統派美人で、有能な委員長といったタイプで、外見と雰囲気からしてもまさに寮長に相応しいといった印象だ。
 ちなみに祐麒は、『福沢祐紀』に改名されていた。
「それじゃあ、せっかくだから部屋に行く前に寮内を簡単に案内しましょう」
「え、そんな、わざわざお休みの日に申し訳ないですよ」
「いいのよ、私が好きですることだから、気にしないで」
 と、結局は押し切られて蓉子に寮内を案内される。
 まずは寮に入る前に、庭を見せられる。綺麗な花壇があり、見事にチューリップが咲き誇っていた。花壇の手入れは当番制で行うとのこと。また他にテーブルと椅子のセットが幾つかあり、天気の良い日などは外でお茶をしたり、読書をしたりする寮生も多いとのこと。この辺を聞くだけで、お嬢様っぽいと祐麒などは思ってしまう。
 外を歩いて回ると、寮は三棟に別れており、『コ』の字型に建てられていることが分かった。そして『コ』の字型の空いている部分が中庭になっている。
 一回りしてから中に入る。ラウンジは広くて明るく清潔感があり、ソファやテーブル、テレビにパソコン、自動販売機などが設置されていて寮生達の交流の場として使用されている。
 引き続いて食堂、図書室、風呂、洗濯室、トイレ、ミニキッチンと見て回り、多目的室ではスクリーンを使っての映画鑑賞や、置かれているピアノを使用しての演奏なども出来ると説明を受ける。それらの施設は風呂やトイレなど三棟それぞれにあるもの、図書室や食堂などいずれかの棟にしかないものがあった。生徒の部屋はそれぞれにあるようだ。
 寮など初めて見る祐麒であったが、思っていた以上の豪華さ、綺麗さに驚いていた。学生の寮なんて、狭くて汚くてごちゃごちゃしているものと思っていたが、さすがリリアン女学園、学生寮も洗練されている。
「ふふ、驚いているようね。確かに、高校生の寮にしては豪華よね。まあ、お嬢様が多いし、比較的新しく建てられたし、何より幾つかの家から寄付とか要望とかもあって、このようになったのよ」
「ははぁ……」
 なんとなく、納得する。
 確かに、蓉子に案内されている間に見かける生徒達も、そこはかとなく物腰柔らかで、お嬢様オーラみたいなものを感じられるような気がした。思い込みによる気のせいかもしれないが。
「さて、それじゃあお待ちかね、貴女の部屋に案内するわ」
「お、お願いします」
 しかし、すっかりお世話になってしまっている。寮とはいっても結構な広さだし、それぞれの場所で的確な説明もしてくれているので、それなりに時間をくっている。蓉子の案内と説明が非常に分かりやすく、且つ気疲れさせないものなので完全に甘えてしまっている。さすが、寮長ともなると面倒見がよく皆からも慕われているのだろうと思わせる。
 そうして蓉子の案内に従って階段に向かうその時。
「この子が新しく入る、最後の子猫ちゃん?」
「ふぎゃぁっ!?」
 いきなり、背後から誰かに抱き着かれて悲鳴を上げる。
「おお、なかなか面白い鳴き声。この、しなやかながらも引き締まった体つき、なかなかの逸品だねぇ」
「お、お……おぱ、おぱっ」
「おぱ?」
 おっぱいが背中に押し付けられているんですけど! と叫びたいのをこらえる。それだけではない、なぜか側頭部に頬を摺り寄せられ、甘酸っぱい香りが鼻先をつつき、言葉を放つたびに吐かれる息が首筋をくすぐる。
 緊急事態に、祐麒の頭の中は真っ白になっていた。
「聖、いい加減にしなさい、可哀想に怯えているじゃない」
「えー? 歓迎の抱擁なのに。それに、他の子猫ちゃんたちにも全員しているんだから、この子だけしないっていうのは、勿体ないじゃない」
「当たり前のように言わないの、セクハラで訴えられるわよ」
「おー、怖っ」
 おどけた口調で言った後、ようやく祐麒の体から離れていく。
 恐る恐る振り返ると、そこには人懐っこい笑顔を浮かべた女性が祐麒のことを見つめていた。どことなく日本人離れした掘りの深い顔立ちをしたその女性は名前を佐藤聖、蓉子と同じく寮に住まう三年生とのこと。
 もちろん祐麒は知っている。かつてお正月に祥子の家に泊まりに行ったとき、祐巳と一緒に訪れてきていて顔をあわせたのだ。
 話を聞くと、どうやら新しく入寮した一年生の子全員の抱き心地を確認していたらしい。
「総勢二十四人の子に抱き着いたけれど、祐紀ちゃんはトップ3に入る抱き心地だった! あの鳴き声をプラスしたらNo.1かもしれないなぁ、うんうん。他の女の子のように柔らかいだけじゃなく、引き締まった独特の感触があって、癖になりそうな抱き心地だったなぁ。どう、あたしの抱き枕子猫ちゃんにならない?」
「ふえぇっ?」
「聖、いい加減にしなさい」
 蓉子に睨まれると、聖は肩をすくませてそっと離れていく。
「……ごめんなさいね、とにかく、聖には注意して。どうしても我慢ならないときは、私を呼んで頂戴。制裁を加えるから」
 腕を組み、まだ遠くに見える聖を見つめる蓉子の顔が怖い。
 しかし、恐るべき女子のスキンシップ。男としては嬉しい部分もあるのだが、今後の生活のことを考えると、あまり過剰なものは遠慮願いたい。
「それじゃあ、改めて案内するわ」
 階段を上っていく蓉子に続く。
「現在、この寮には三年生が二十三人、二年生が十九人、そして一年生があなたを含めて二十四人の合計六十六人が入っているわ。寮の部屋はそんなに沢山ないから、相部屋になるわ」
「えっ、そ、そうなんですかっ!?」
 初耳であった。
 しかし、相部屋はまずい。いくらなんでも女の子と同じ部屋で暮らすなんて、一日中落ち着かないではないか。いや、もしかしたらアンリと同部屋かもしれない。それなら、むしろラッキーだ。
「そんなに不安にならなくても大丈夫よ、同年代の女の子だもの、すぐに慣れるわ」
 祐麒の驚きを、蓉子は寮生活に対する単なる不安だと思ったようで、安心させるように言ってくれたが、祐麒は曖昧に笑って返すしか出来なかった。どうやらアンリと同部屋という希望も潰えたようだった。
「三年生は受験もあるので、基本的に三年生同士の相部屋になるけれど、一年生と二年生は一緒の部屋になるの。これは、せっかく寮生活をするのだから、上級生と下級生のコミュニケーションをとろうという意図の他に、二年生が一年生を指導して導くためのものでもあるの。慣れない一年生は二年生に師事し、一方で二年生は上級生としての自覚を持つようになる。リリアンの姉妹制度とはまた別、姉妹ではない上下間の触れ合いというものね。もっとも、同じ部屋になった一年生と二年生が姉妹となることも、やっぱり多いけれどね」
 新年度が始まる前から一緒に生活をしていれば、それは当然親しくもなるだろうし、親しくなればその相手と姉妹になりたいと思うだろうから、そうなるのだろう。しかし祐麒にしてみれば、ただでさえ女の子と同室で正体がばれないよう気を張らなければならないのに、上級生と一緒だなんて気も遣わなければなくなる。ため息をつきそうになったのを、どうにかこらえて蓉子に付き従う。
 やがて、二階の一室の前で蓉子は立ち止まった。
「ここ、『白の棟』の203号室が貴女の部屋になります。荷物は中に入れると大変だから、とりあえず廊下に置いてあるの。後で、整理して頂戴。でも福沢さん、随分と荷物が少ないのね」
「そうですか? でも家具類は備え付けてあるということだったので、あまり増える要素もないですし」
 そもそも小笠原家に拾われた身、与えられたものは沢山あったけれど、それを自分の物として当たり前のように持ってくる気にはならなかった。大体、祥子や清子が買い与えてくれるものは、どれもこれもやたら可愛らしい、女の子らしいデザインのものばかりだったというのもある。だから、持ってくるものは厳選した。
「そう。まあ、必要なものがあれば、後から送ってもらえば良いものね。それじゃあ、ルームメイトを紹介するわね。この時間には部屋にいるようにお願いしておいたから」
 言いながら蓉子は部屋の扉をノックする。
「福沢さんを連れてきたのだけれど、いいかしら」
『――はい、どうぞ』
 中から聞こえてきた声に、緊張が高まる。
 蓉子は、大丈夫だから、とでも言うように目を向けた後に扉を開いた。
 まず目に飛び込んできた室内は、結構広いと思われた。相部屋だし寮の部屋だし、狭いだろうと考えていたのだが、この辺もお嬢様向けというところ。とゆうか、歩いて見て回って、部屋もそれなりに広いと見当がついていたはずだったのだが、実際に目にするまでは実感がわかなかったのだ。
 二段ベッドが二つあり、机が四つ、クローゼットにドレッサー、本棚、テーブルといったものが目に付く。決して手狭という印象は受けず、かといって無駄に広すぎるということもない。
 そして部屋には三人の女の子がいた。
「ここは四人部屋になるわ。一、二年生は四人部屋を三人、または四人で使用しているの。ええと、それじゃあせっかくだから簡単に自己紹介をお願いね」
 蓉子が室内にいた一人の女子生徒に振ると、振られた女子生徒は軽く頷いて祐麒と正面から向かい合う。
「初めまして、二年生の蟹名静です。よろしくね」
 発せられた声が、ただ簡素な挨拶をしただけだというのに、美しく響いて脳にまで染み渡ってくるようだった。腰にかかるほど長い真っ直ぐな黒髪も見事な、静かな雰囲気の中にもどこか威厳を感じさせる美少女である。
 静は優雅に微笑むと、隣に立つ少女に目をちらと向ける。
「えーっと、同じく二年の築山三奈子です。新聞部所属、新入部員はいつでも大歓迎だからね!」
 こちらも長い髪の毛だが、後ろでまとめてポニーテールにしている。静とは対照的に、明るく溌剌とした感じで、にこにこと祐麒のことを見つめている。だがそれだけでなく、祐麒を値踏みするようなところも感じられた。ちょっと困るのは、部屋で油断していたのか、少し露出度が高い服装で、ショートパンツから伸びる太腿が目に眩しかった。
 三奈子が軽く会釈した後、最後の一人が口を開く。
「うわー、良かったよ同じ学年の子が入ってきて! あたし、桂、よろしくね!」
 ショートカットで活動的な印象を抱かせる少女が、喜色満面、もろ手を挙げて祐麒を歓迎してくれた。フレンドリーで気さくそうで、なんとなく仲良くやっていけそうに思えて少しばかりホッとする。
「何、桂ちゃん。私たちと一緒の暮らしがそんなに嫌だったのかしら?」
「へっ!? はわわわっ、そ、そうじゃないですよぅ、やっぱ同学年のお友達がいた方が、嬉しさが増すというだけで、お姉さま方と同じ部屋で私、毎日感謝感激しているんですから!」
 くるくると変わる表情、あたふたと動くさまを見て、思わず笑いがこぼれる。
「はうぅ、わ、笑われた!?」
「あ、ご、ごめんなさい」
「あら、さすが桂ちゃん、殊勲よ。福沢さん、寮内を見ている時もずっと緊張していたの。今初めて、物凄く自然で可愛い笑顔を見せてくれたわ」
 蓉子が言うと。
「うん、うん、肩の力がふっと抜けたもんね」
「桂ちゃんの才能よね」
「やや、やめてくださいよー」
 三奈子と静にも続けて褒められ、桂は顔を真っ赤にして慌てふためく。そんな桂の姿がまた可愛らしくて、三人がまた笑い、自然と祐麒もつられて笑ってしまった。
 暖かな雰囲気、緩んだ緊張感、内心で桂に感謝する。
「それじゃあ、あと詳しいことは桂ちゃんに聞いて」
「あ、どうもありがとうございました、蓉子、さま」
 リリアンでは上級生のお姉さま方には名前に『さま』をつけて呼ぶのだと、しつこいくらいに祐巳に言われ詰め込まされてきたため、どうにか間違えることなく言えた。
「ふふ、無理しないで、自然と慣れればいいわよ」
 全てを見透かしているのか、蓉子は軽く微笑んで部屋を後にした。
 蓉子が姿を消すと、どことなく室内の空気が緩んだような気がする。最上級生、それも寮長ということで、やはり多少なりとも緊張していたのかもしれない。
「よっし、それじゃあ荷物、整理しちゃおうか。あたしも手伝うよ?」
「手伝ってもらうほどのものじゃ」
「いーから、いーから。手伝いながらお話ししようよ。寮のこと、教えてあげる」
 厚意で言ってくれているし、これ以上断るのも悪いと思い、素直に受け取ることにした。二年生の二人は桂に任せたようで、それぞれ室内に戻っていく。
 廊下に置かれていた段ボールを室内に運び、祐麒用のクローゼットや収納に収めつつ、桂の話を聞く。
 朝食は七時から八時、夕食は十八時半から十九時半、時間が変わる場合やお昼のお弁当が必要な人は事前に申請が必要になる。食事の後は自由時間になり、お風呂は二十時から二十三時の間、消灯は二十四時。門限は十九時。
 寮内の掃除は当番制、届け物はメールBOXに入れられる、外泊は許可証が必要、三年生のお姉さま方には世話係がつく、寮の中では二年の誰それが素敵、等々、とにかく桂はよく喋った。お蔭で、祐麒は相槌をうつか軽く合いの手を入れるくらいで問題なく、ボロを出さずに済んだ。
 しかし、話を聞いていく毎にどんどん気が重くなってくる。これではまさに一日二十四時間、ずっと女の子と一緒の生活になる。今まで男子校生活だったので、果たして本当にうまくやっていけるのか、不安で仕方がない。
「えっと、これでおしまいかな? 本当に物少ないね。でもまあ、寮だから物は少ない方がいいけれどね」
 桂が手伝ってくれたので、予定していたよりもずっと早く荷物の整理が終わった。
「ありがとう、桂ちゃん」
「えっ!?」
 お礼を口にしたら、なぜか驚かれた。
「え、な、何か変なこと言った?」
「あ、ううん。いや~、あたしもリリアンでずっと育ってきたから、同級生に『ちゃん』づけで呼ばれるの久しぶりで、ちょっとびっくりしただけ」
「あ! ご、ごめん」
 そうだった。同級を呼ぶときは名前+『さん』づけで呼ぶのであった。静や三奈子が普通に『ちゃん』付けで呼んでいたので、祐麒の頭の中でもそれが定着しつつあったのだ。
「別にいいよ、というかむしろより親しい気がして大歓迎! ね、じゃあ寮にいるときはお互いに『ちゃん』付けにしない、祐紀ちゃん?」
 名案とばかりに手を叩く桂の勢いに押され、祐麒は頷くしかなかった。
 ともあれ、部屋の住人は三人とも良い人そうで良かったが、それはそれで心配にもなる。相互不干渉な感じだったら祐麒が何しても気にせず、祐麒も他の人を気にしないで済むのだが、随分と仲が良さそうだ。
 寮での初日、最大の難関は風呂だったが、今日は引っ越しや緊張で疲れて体調が本調子ではないので遠慮すると言って、逃れた。明日からはどうしようかと悩むが、解決方法はすぐに出てこないので、先延ばしにすることにした。
 緊張しつつも一日を終えて就寝し、朝になってこそこそと制服に着替える。制服は、数年前までワンピースタイプだったが、今はセパレートになっているらしい。そして、制服姿をしきりに褒めてくれる桂と一緒に登校し、校舎への道を歩いているというわけだった。
 途中でマリア像にお祈りし、掲示板でクラス分けを確認する。
「あっ、祐紀ちゃんとあたし、おんなじクラスだよ! わぁい、やったあ!」
「わ、ちょ、ちょっと桂ちゃんっ」
 いきなり抱き着かんばかりに体を寄せてくる桂に、思わずわたわたする。ていうか胸、当たっていて、思わず腰が引ける。
「これから一年、部屋でも学校でもよろしくねっ」
「う、うん、こちらこそ」
 喜んでくれるのはいいのだが、このスキンシップ過多はどうにかならないだろうか。それとも、女の子同士とはこういうものなのか。
「ほらほら、どうしたの。教室に行こうよ」
 にこにこと笑顔で手を繋いでくる桂。小さくてかわいらしい手を振りほどくことも出来ず、祐麒は桂と仲良く手を繋いで下駄箱まで歩いて行った。
 教室に入って出席番号順に割り振られた席に荷物を置いたら、入学式のため体育館へと移動する。ちなみに、午前中に始業式が行われており、午後に入学式を行うスケジュールであった。
「あ、と、ごめん、ちょっとお手洗いに」
 女の子ばかりの中で少し緊張したのかもしれない。式の途中で行きたくなっても困るし、早めに済ませておくことにした。
 案内しようかという桂を待たせ、一人で素早く女子トイレに入る。女の子はどうして、一緒にトイレに行こうとするのか不思議である。
 なぜか後ろめたい気持ちで個室に入り、用を済ませて手を洗う。鏡に映っている自分を見ると、完全に女の子の姿になっている。もともと女顔であったことは分かっていたが、だからといってここまで女の子になり切れるとは、自分でもショックであった。
 微妙に落ち込みながらトイレから出て、急いで桂の所まで戻ろうと、行儀悪くスカートで走り出し、階段のある場所まで来たとき、前を歩いていた女子生徒にぶつかってしまった。角から死角になっていて、見えなかったのだ。
「きゃっ……!?」
 女子生徒の体が傾く。その先は階段で、落ちたら軽い怪我では済まないかもしれない。咄嗟に祐麒は女子生徒の腕を掴み、そして引き留めようとしたものの、自分も走っていた勢いがあったため止められず、二人でもつれるようにして階段を転がり落ちてしまった。
「――――いっ……たぁぁぁぁっ!」
 踊り場で止まり、どうにか体が無事であることを悟り、身を起こす。肩と腰を打ちつけたのか痛みはあるが、折れているとかそういうことはなさそうでほっとする。
 続いて、ぶつかってしまった相手は大丈夫かと視線を移す。自分の下に体があり、もしかしたら祐麒のクッション代わりになってしまったのかもしれない。だとすると、祐麒よりも酷い怪我をしているかもしれないと、慌てて容態を確かめようとして、動きが止まる。
「…………え?」
 なぜなら。
 祐麒が見たのは、先ほどトイレの鏡で見た自分自身の姿だったから。
「な、何、どうゆうこと…………っ?」
 呟いた声が、自分の声でないことにも気が付いた。
 びっくりして顔を触り、体をまさぐったところで、胸に触れた。紛い物とはとても思えない、大きくて質感たっぷりで、手の平の上に乗っかって、たぷんたぷんと揺れる非常に立派な物だった。
「い、一体、何がどうなって……」
「うっ……うーん……」
 と、目の前の祐麒の顔をした女子生徒(?)が、うめき声をあげた。
「やばい、え、これどうしたらいいっ?」
 パニックに陥り、あわあわとしつつ、目を開きそうになっている自分の顔を見下ろして顔を近づけた。
「…………う、あ、いったい何、ガッ!?」
「ふぎゃっ!?」
 勢いよく体を起こそうとした自分の体と、思い切りおでことおでこが激突してしまった。激しい痛みに、額を手で抑えて涙を堪える。
「ううっ、い、イタタタ……って」
「いったぁ~~い」
 気づくと、いつの間にか床に仰向けになって倒れていた。目を開くと、ぼやけた視界に飛び込んでくる女子生徒の姿。それは、祐麒ではなかった。
 さらさら流れる髪の毛はセミロングをヘアバンドでまとめ、綺麗な額を出している。どうやらその額とぶつかってしまったらしく、赤くなっている。
「す、すみません、大丈夫ですか?」
「うぅ、なんとか……痛いけれど、貴女は大丈夫?」
「は、はい、どうにか」
 幸い体は男だし、野球部の時代にダイビングキャッチなどで受け身の練習もしていたので、節々が痛むがたいしたことはなさそうである。階段から落ちた割には、非常に幸運な結果だ。
「そう、それは……っと、ごめんなさい、私ったら」
 祐麒の体の上に跨り、M字開脚していることに気が付き、顔を赤くしながら慌てて退くヘアバンドの女子生徒だったが、スカートの下の生白い太ももと、その奥に覗いた純白のショーツはしっかりと目に焼き付いてしまった。
「ううん、だ、大丈夫。私の方こそ、ぶつかってしまってごめんなさい。ええと、怪我はありませんか?」
 身を起こし、祐麒も乱れたスカートの裾を抑えるが、これはどちらかというと反応してしまった下半身を隠すためでもある。
「ちょっと痛みはあるけれど、大丈夫よ。それより貴女の方が、私の下敷きになってしまって、体の方は」
「あ、あー、大丈夫ですっ、そ、それじゃあ急いでいるので、失礼しますねっ」
 立ち上がり、手を貸して相手も立たせると、祐麒は回れ右をして階段を降り出す。恥ずかしかったし、そして何より怖かった。
「あ、ちょっと……」
 呼び止めようとする女性の声を背に、祐麒は困惑しつつ歩みを止めない。
 先ほどのは、何だったのか。単に階段を転がり落ちて気を失っている間に見た、短い夢か幻のようなものだったのか。
 でも、あれが夢だったなんて思えない。声も、手も、胸も、全てが本物だった。目の前に横たわる、自分の体も。
 それが真実だというなら、短い間とはいえ、入れ替わっていたとでもいうのか?
「…………まさか」
 自分で考えたことを、馬鹿らしいと頭を振って脳内から追い出す。

 リリアン女学園入学初日は、まだ半分も終わっていなかった。

 

プロローグ③に続く

 

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