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【マリみてSS(女性陣×祐麒)】3F! 4.福沢家内恋愛のススメ 長女の場合

更新日:

 

~ 3F! ~
The fashion of Fukuzawa family!
<福沢家の流儀!>

 

『4.福沢家内恋愛のススメ 長女の場合』

 

 

 ある日の夜、祐麒は景の部屋に呼ばれていた。
 作家である景は、普段は締切に追われたり、アイディア出しに苦労していたりと、そんなイメージが強い。
 取材や打ち合わせで外に出ることもあるが、どうしても部屋に引きこもっている感じがして、服装もジャージやスウェットばかり見ている。家の中だし、家族だし、それで全く問題ないのだが、同時に申し訳ないとも思う。
 ずっと家族の母親代わりとして働いて、妹たちの面倒をみて、稼いだ収入も殆ど家にいれて、小さいころからあまり自由とかなかったのではないだろうかと思う。
 景にもしも尋ねたら、「そんなことないわよ」と、穏やかな笑みで答えを返されそうだが、そんなことないはずがないのだ。だから、景が望むことならば願いを叶えてやりたいと思う。もちろん、自分の力の及ぶ範囲でだが。
 その景が今、目の前でもじもじしている。
 今日は珍しくジャージ姿ではなく、ブラウスにスキニーパンツという格好で、髪の毛も乱れていない。外で打ち合わせがあったのかもしれない。
「で、景姉さん、俺に用事って何?」
「ええと……あの、その」
 やはりもじもじとしている。シャキッとしているか、ぐったりしているか、どちらかというと二極化しやすい景には珍しい様相だった。
 何か相談事でもあるのだろうか。景の相談と言えば、大抵は作品のネタに関することである。家族の中で唯一の男であるということからか、男としての意見を尋ねられたりすることはある。
 どんな性格の女の子が好きか、髪型は、服装は、スタイルは、趣味は、といったものから、男がどんな思考や行動をするのかといったことまで、色々と質問されるのだ。そして中には、尋ねるのが恥ずかしいような事柄もある。ちょっとエッチなこととか。そういう時、景は仕事と割り切りつつも、わずかに恥じらいを見せたりしてなんか可愛いのだが、その時に似ているようで微妙に異なるような気もする。
「姉さん、俺に出来ることならなんでもするから、遠慮なく言ってみてよ」
 決意を促すように言う。
 実際、余程の無理でもない限り、景の願いは聞いてあげたい。普段、自分の望みとか口にしない景だけに、その思いは強い。
「う、うん……」
 頷く景。
 思いつめたような真剣な表情で、俯いている。
 急かしても悪いと思い、景が口を開くまで黙って待つ。
 やがて決心したのか、景は顔を上げた。
「ゆ、ゆゆっ、祐くんっ」
「ん?」
「わ、わたたっ、私の……こ、恋人になってくらしゃいっ!!」
 首まで真っ赤にして、眼鏡の下の目をぐるぐるにして、景は叫ぶようにして告白してきた。噛みながら。
「――――はいぃっ!?」

 

 

 数日後の休日、街中で祐麒は景のことを待っていた。同じ家に住んでいるのだから、一緒に出れば良いのだが、色々と準備があったり、シチュエーションが大事だったりということで、待ち合わせをすることになった。
「お待たせ……祐くん」
 待つこと十分ほどで、家では見せることのないようなコーディネートの景が姿を現した。
 ブラックのプルオーバーの上からグレーのカーディガンを重ね、ボトムスはスカート風のキュロットパンツにストッキング。眼鏡や髪型といった部分に変化はないが、ほんのりと施された化粧と、見慣れない服装で、随分と変わって見える。
「おー、今日の景姉さん、可愛いね」
「かっ……可愛いとか、年上に向かって」
「別にいいじゃん、それくらい」
「あと、きょ、今日は"姉さん"禁止って言ったでしょう」
「あ、そうか。えと、景、さん」
「はぅ」
 自分で注意をしておきながら、祐麒に"姉さん"を外して呼ばれて絶句する景。
 頬をほんのりと赤くして、どこか落ち着きなく左右に視線を漂わせ、ようやくのことで祐麒の顔を見て、わざとらしく咳払いをする。
「そ、それじゃあ、行きましょうか」
「OK。しかし、恋人がいる嘘をついちゃうなんて、景ね……さんにしては珍しいね。でも、俺なんかでいいの? 弟だってバレないかな」
「私に弟がいるなんて知らないはずだし、それは大丈夫だと思う」
「それにしたって、ちょっと不釣り合いじゃない? 俺とじゃあ」
「うっ……そ、そうよね、祐くんに私なんか……妹たちみたいに美人じゃないし、愛想悪いし、眼鏡だし、Bカップだし、釣り合わないわよね」
 いきなり落ち込みだした景を見て、慌てる。
「そうじゃなくてっ、逆、逆っ。俺みたいなガキが相手って、不自然じゃない?」
「大丈夫、それは全く問題ないからっ! むしろ私みたいな年増じゃあ、祐くんには」
 とにかく、やたらと悲観的な景を宥めながら歩く。
 先ほど口にした通り、景から恋人になってほしいと言われたのは、恋人の"フリ"をしてほしいということ。
 漫画なんかでは見たことがあるが、まさか自分が誰かの恋人役をすることになるなんて、思いしなかった。ましてやそれが、姉である景の相手とは。
 出版社で仲の良い女性編集者が彼氏自慢をよくしてくるらしいのだが、会話の中で挑発されて、つい付き合っている彼氏がいると見栄を張ってしまい、今更後には引けなくなったというテンプレ的展開にがっくりとはきた。しかし、そんなことをしそうもない景がして、そのせいで慌てている姿が微笑ましいので、素直に願いを聞くことにした。

 

 

 一方、そんな二人の後を追いかける怪しい影が三つ。
「くっ……景姉さん、まさかこんな抜け駆けするなんてっ!」
 レースのハンカチを口惜しそうに噛みしめているのは、蓉子である。電信柱の陰から顔を覗かせて祐麒たちの背中を目で射ぬいている。
「い、いやらしい、そんな姉と弟でなんてっ。ちなみに私はただ、兄さんが変なことをしないか監視しに来ただけで、他意はないから」
 喫茶店の看板に身を隠しながら様子をうかがっているのは、乃梨子。眼鏡をかけているのは変装のつもりかもしれない。
「ねえ、尾行とか悪趣味だし、やめようよ」
 蓉子、乃梨子のことを困惑の表情で見ているのは令。
 どうやら、祐麒と景が恋人同士という設定でデートするのが気になり、後をつけているようだ。
「景姉さんたら、普段はしないようなお洒落して、祐麒ちゃんを籠絡しようとしているのねっ」
「兄さん……へらへらデレデレして、みっともないったらもう」
 偏見丸出しで見ている二人に、ため息をつかざるをえない令。
 もちろん令とて気にはなるが、蓉子や笙子と違い、景が妙な知恵を働かせてわざと祐麒を誘うなんてことするとも思えないので、そっとしておけばよいのにという方が強い。
「嘘でも恋人設定なんて……羨ましいぃ」
「兄さんと恋人設定なんて、景お姉ちゃんが可哀想よ。そう、景お姉ちゃんを魔の手から解放してあげないと」
 欲望を隠そうとしない蓉子と、自分は関係ないけれど的な態度の乃梨子、見せる姿は違えども、嫉妬していることには変わりない。そして、こうなった姉と妹を止めることは、令には難しかった。
「あ、あのお店に入るみたい」
「よし、私たちも行くわよ」
「ちょっと蓉子姉さん、乃梨子ちゃん、あの……うわああっ」
 なぜか蓉子と乃梨子に両脇を固められ、逃げることも叶わずに、令もまた悪の片棒を担ぐ羽目になるのであった。

 

 

 景が足を踏み入れたのはファミレスであった。作家と編集者といえばファミレスらしい。
 中に入り、奥まったボックス席に向かうと、二人の女性が既に席に座っていた。おそらく景とは同年代くらいで、少し派手目なショートカットの女性と、巨乳ロングヘアの女性という組み合わせ。景とはタイプが全然異なるが、だからこそ気が合ったのかもしれない。
「へえ、そちらが噂の景さんの彼? 本当だったんだー」
 自己紹介の後、仁美(ショートカット)が目をくりくりさせて祐麒のことを見つめながら、少し大げさな感じで言ってきた。
「若っ! 高校生……」
 驚きに目を見張ったのは八重(巨乳)で、物珍しそうに見てくる。
 祐麒も一応、ジャケットなどを羽織って格好つけてはきているものの、童顔であるし子供であることは一発で分かるであろう。
「でもさ、そんなに若い子となんて、少し不自然な感じじゃない? どうやって知り合ったのかしら」
 この問いは想定していたので、用意していた答えを返す。即ち、祐麒がアルバイトしている店で景がよく執筆活動をしており、顔見知りとなり、やがて景にめろめろになった祐麒の方から告白して付き合うことになったと。
「ふぅん、じゃあ景さんは、なんで高校生の男の子と付き合う気になったわけ? 年下だけならともかく、高校生なんて」
「そうそう、景さんみたいにシャキッとしている人はさ、年上で渋くて高年収のイケメンとか捕まえそうって思ってたよ」
「なんで、って」
 問われて、景はちらちらと祐麒に視線を向けた後に口を開いた。
「……仕事をして、疲れ切った後でも祐くんを見ると疲れが癒されるの。荒んでいた気持ちも穏やかになれる、そんなところ、かな」
 言った後、わずかに赤くなって俯く景だが、言われた方の祐麒とて恥ずかしい。設定だからそのように言ってくれているのだろうとは思うが、もしも本当だとしたら、いくらでも仕事後に会いに行ってあげたいと思う。
「ちなみに、祝部君は景さんのどんなところが好きになったの?」
「えっ、と」
 これも予想されていた質問とはいえ、実際に口に出して答えるとなると気恥ずかしいものがある。本人がすぐ隣で身を硬くしているせいもあるが、答えないわけにもいかない。
 幸い、景に限らず姉妹のことは好きだし、本当のことは言うことができる。
「えっと、美人で可愛くて、真面目だけどどこか少し抜けているところもあるところと、あと家族思いの優しい性格で、お姉さん気質なところです」
 言い切ると、隣の景の顔が僅かに赤みが増したように見えた。祐麒も、こんな風に本人のいる前で好きな点を述べるなんて初めてだから、赤くなっているかもしれない。
「でもさ、良く考えてみなよ。10年後とかさ、祝部くんはまだ20代の男真っ盛りのとき、景さんはもうアラフォーよ。20年後なんかアラフィフよ。それで、えっちとかできる?」
「そうだよ、今は良くても、ねぇ」
 事実としてはそうかもしれないが、祐麒は首を傾げる。
「問題ないと思いますよ。だって、景さんが変わるわけじゃないし。10年経とうが20年経とうが、景さんは景さんだし」
「祐くん……」
「おおー、なんか真っ直ぐな青少年、って感じでいいわね」
「うーん、最初見たときは嘘だと思ったけれど、なんかラブラブオーラが出ているなぁ」
「でも、口でならなんとも言えるからねぇ、ここはやはり同じ口でも違うことで示してもらわないと」
 仁美が変なことを言いだした。
「そうだねー、せっかくだから、ちゅーしてみせてよ」
「なっ……」
 とんでもない言葉に、景が絶句する。
 仁美と八重はにこにこと笑っているが、瞳の奥に何ともいえない光があるように見える。
 ここで祐麒は悟る。仁美と八重は、景から聞いた話が嘘っぱちではないかと疑い、こうして祐麒に話させて真実かどうか見極めようとしているのではないかと。景の相手としては若すぎることもあり、恋人なんかではないのではと疑心なのだ。
「こんな人前で、出来るわけがないでしょう」
 当たり前の反応をする景。
「いいじゃない、別にちゅーくらい」
「そうそう、減るもんじゃないし」
 断ってもしつこく喰らいついてくる。
 どうすれば納得してくれるのだろうかと考えた末、祐麒は口を開いた。

 

 

「……景姉さん、姉さんってば。機嫌直してよ」
「知らない、もう」
 祐麒の言葉にも、ぷいと顔を反らせてしまう景。ファミレスを出てから、ずっとこの調子である。
 なぜかというと、仁美と八重を納得させるために、景と親しくなければ知らないような事実を色々と話してしまったせいだ。
 景には見えない箇所にある黒子のこととか、寝起きのこととか、仕事明けの姿とか、極めつけは携帯で撮った景のセーラー服姿とか。これは、作品中のキャラクターと同化するためとか何とか言って着たときのもので、携帯写真を撮らせてもらうかわりに、祐麒も相手役として小芝居をさせられた。
 仁美と八重は景のセーラー服姿に興奮し、なんでこんな格好しているのかと問われて、祐麒が「コスプレ」と答えるとさらに喜び、景は真っ赤になった。
「うぅ、絶対に勘違いされた、普段からそぉゆぅぷれいをしているって……違うのに……べ、別に本当でもいいんだけれど、まだだし」
 ぶつぶつと何やら呟きながら歩く景。祐麒の暴露話で仁美と八重もそれなりに信じてはくれたようだが、暴露された景としては簡単には怒り収まらないようだ。
「ごめん、景姉さん。ねえ、どうすれば機嫌直してくれる?」
 あまり怒らない景を怒らせてしまったことが申し訳なく、尋ねてみると。
 景は立ち止まり、何か考えた後に、祐麒の方を向いた。
「それじゃあ……今日一日、この後デート、してくれる?」
 そして、そんなことを言ってきた。
 もちろん、祐麒は喜んで頷いた。

 

 ショッピングモールに行って幾つかの店を冷やかし、フードコートでお喋りしながら軽食をつまんで、また特にあてもなく二人並んで歩く他愛もないデート。
 そんな様子を後方から眺める視線が三組。
「くぅぅっ、景姉さんずるいーっ。楽しそうにデートしちゃって!」
 血涙を流す蓉子。
「何よ、私と一緒のときはあんな楽しそうな顔しないくせに……別に、私は兄さんとデートなんてしないよ? ただ、学校の帰りとか、買い物に言ったときとか」
 一人で文句を言い、一人で言い訳をする乃梨子。
 朝からずっと祐麒達のことを追いかけて、疲れたり飽きたりしないのだろうかと、令としてはある意味感心してしまう。
 もちろん、令とて祐麒の動向は気にかかるが、さすがに良心が痛む。
「あ、曲がるわよ。追いかけましょう」
「らじゃ」
 動き出そうとする二人に腕を伸ばし、その襟首をつかんだ。
「ぐえっ!? ちょ、れ、令、何をするのよっ」
「あ、行っちゃう、イッちゃうー!」
 首を絞められ、動けなくなり、じたばたもがく蓉子と乃梨子。
「もう、やめようよ。普通にデートしているだけだし、いいじゃない。これ以上は景姉さんに悪いよ」
「でも令」
「蓉子姉さん。景姉さんは毎日仕事で、あまり外出する機会もないし遊びに行く時間もない。収入はほとんど家にいれてくれていて、自分のためにお金を使うのは仕事のためのことばっかり。私たちと違って、こうやって祐麒くんとデートする機会だって殆どないんだから、たまにはいいじゃない」
「でで、でも」
「蓉子姉さんはなんだかんだいって学校で会ったり、一緒に帰ったり、休日に買い物に行ったりもするでしょう?」
「……うぅ、分かったわよ」
 令に諭され、渋々と頷く蓉子。蓉子が言い負かされてしまっては、乃梨子としても逆らうわけにはいかない。それに、既に二人のことを見失っていて、追いかけることも出来ない。
「じゃあ、夕飯の買い物して帰ろうか。今日は蓉子姉さんと乃梨子ちゃんが荷物持ちしてくれるから、重いもの買っちゃおうかなー」
「ええーっ!? 令ちゃん横暴!」
 三人の姉妹は、仲良く歩き出した。
 もっとも、周囲の人からは、美少年が二人の美少女を侍らせているようにしか見えないのであったが……

 

 姉妹に尾行されていたことなどつゆ知らず、ほんわかデートを続けた二人は公園へとやってきていた。ベンチに座って購入したクレープを食べながら、とりとめもない話をするだけだが、普段、なかなか景とこのような機会を設けることが出来ないので、祐麒は嬉しいし楽しかった。
 隣に座る景は、表情があまり変わらないので内心どう思っているか良く分からない。仕事の最中や仕事明けのときと異なり、普段の景は基本的にクールだから。
 日も落ちてきて、徐々に人の姿もまばらになってくる。明日は月曜日だから、早めに家路につく人が多いのだろう。
「祐くん、今日はありがとう。変なことにつきあわせちゃってごめんね」
 クレープを食べ終えたころ、ぽつりと景が言った。
「ううん、景姉さんと久しぶりにゆっくりできて楽しかったよ。俺こそ、ええと、相手が俺なんかで良かったのかな」
「祐くんじゃなきゃ、頼まなかったよ。祐くん以外の誰にも、頼む気なんかないし」
 なんとなく、無言が二人の間に漂う。
「ねえ、祐くん。今日さ、仁美さんと八重ちゃんに、ちゅーしてみせてとか言われたじゃない。あの、あれ拒否したの、別に祐くんとちゅーするのが嫌だからとかじゃないからね」
「え、あー、うん」
 あえて言われなくても、それくらい分かっている。祐麒とて、あの場でしろと言われても断ったであろうから。
「ね、祐くん……だからってわけじゃないけれど……きょ、今日のお礼とお詫びに、ちゅーしてあげる、って言ったら、イヤ……?」
 いつもと変わらない口調で、だけど僅かに震えたような声で問いかけてくる景。
「そうだなぁ、嫌、かな」
 祐麒が答えると、一瞬、体が震える景。
「……そ、そうだよね、嫌だよね、ごめんね、変なこと聞い」
「だってさ、お礼とかお詫びでとかって、なんか義務だからみたいじゃない。そういうのは嫌かなぁ」
「え……?」
 きょとん、とする景。
「えと、じゃあ、そうじゃなくて私の気持ちとしての……」
 言いながら体を回転させて祐麒の方に向ける景。つられるようにして祐麒が景に顔を向けると、次の瞬間、景の小さな手に頬を挟まれていた。
 そして、唇に甘くて柔らかな感触。
 時間にしたらほんの1、2秒のことで、すぐに離れる。目の前には、頬を朱に染めた景。
「これなら、いい?」
「えーっと、うん」
「私の……ファースト・キス、だよ?」
「え? 俺、小さいころに何度も景姉さんにキスされた記憶があるけど」
 福沢家に来てから、祐麒は当時高校生だった景によく世話を焼いてもらっていた。その際、よくおやすみのキスをしてもらったり、良いことをしたらご褒美のキスをしてもらったことがあった。だから、さほど抵抗もなかった。
「あ、あれは、祐くんのお姉ちゃんとしてのキスなの。だから、ノーカウント」
「じゃあ、今のは?」
「今のは、一人の女の子としての、キス……」
 景の手が祐麒の首にかけられる。顎を下に向け、上目づかいで見つめてくる景は、年齢にそぐわない幼さを漂わせて見える。
「……あの、今の意味、分かってる……よね?」
 おそるおそる、尋ねてくる景。
「ああ、うん、さすがにそこまで言われては」
 景は祐麒の太ももの上に足を乗せて絡ませるようにして、正面から祐麒に抱き着くような格好となる。
「私、今、凄いドキドキしているよ、ほら」
 祐麒の右腕をとると、自身の左胸に添えさせる。
 ささやかな膨らみとともに、景が言うとおりに脈打つ鼓動が伝わってくる。
「私……祐くんが望むなら、キスだけじゃなくて私の初めて、全部あげたい」
 またしても、唇を重ねてくる景。
 今度は先ほどより長く、強く。
「ね、祐くん……」
 離れた口が、想いを紡ぐ。
 吸い付いたように離れない右手からは、どんどん速くなっていく景の心臓の音が聞こえてくる。
 この後、どうすれば良いのか。
 思考が固まりかけたその時。

「あーーーっ、おにいが景姉のおっぱい揉んでるーーーーっ!?」

 元気な声が耳に飛び込んできて、景は飛び跳ねるようにして祐麒から離れた。
 声のしたほうを見てみれば、夕陽をバックに菜々が元気よくかけてくる姿が見える。
「な、な、菜々ちゃん、み、見てたの今のっ!?」
「見てたよ、おにぃが景姉のおっぱい触ってえっちな顔していた」
「そ、そ、ソレ以外は?」
「ソレ以外?」
 首を傾げる菜々。
 どうやら、キスしているところは見られていなかったようで、ホッとしたのもつかの間。
「あー、ソレ以外って、ちゅーしていたこと?」
「はうぅっ!?」
 しっかりと見られていたようだった。
「え、えと、菜々ちゃん、他のみんなには今のこと、内緒にしていて頂戴、ね、お願い」
 末っ子にぺこぺこと頭を下げる長女。
 すると菜々は、にまーっと笑う。
「そうだなー、じゃあ、あれ食べたいっ」
 菜々が指差したのは、先ほどまで祐麒達が食べていたクレープを打っている店だった。
 もちろん景は、好きなものを注文するように菜々を餌付けしたのであった。

 

 景と菜々に挟まれ、三人で帰宅すると、いつも通り令が作る夕飯の良い匂いが出迎えてくれる。と同時に、慌ただしい足音も聞こえてくる。
 姿を現した、姉妹たち。
「ゆっ、祐麒ちゃん、実は私、大学時代の先輩にお付き合いしている人がいるって言っちゃって……」
「お兄ちゃんっ、私の友達の中で男の子とデートしたことないの、私だけなのっ。だから私の恋人になってデートしてー!」
「祐麒さん、私、とある男性にしつこく付きまとわれていまして、つい将来を誓い合った許嫁がいると言ってしまい、そこでお願いなのですが」
「お姉さま方、馬鹿じゃないですか? お兄様、変なお願いに付き合う必要はありませんわ、ただ瞳子、この前のテスト頑張りましたのでご褒美として、その、で、で、でー」
「私なんだか知らないけれど大学でエロキャラだと思われていてさー、飲み会のときつい勢いで、実は高校生の男の子にメス奴隷として調教されているって言っちゃって、だから祐ちゃんに既成事実として協力してもらいたくて」
「その、ネットの友人があまりに彼氏自慢するから私もいるって言っちゃって。で、今度オフで会うことになって、その、兄さんが希望するなら私の相手役にしてあげてもいいですけれど。べ、別に兄さんじゃなくてもいいんですけれど、他にいないし、まあ仕方な」
 どやどやと祐麒を取り囲み、次々とそんなことを言ってくる。
「こら、みんな、祐麒くんを困らせないのっ! それにほら、もうご飯ですよ、手伝ってくれない人は夜ご飯抜きだからね」
 エプロン姿の令が飛び出てきて、珍しく強気に姉妹たちを叱る。何か言いたげな姉妹たちだったが、一家の食糧事情を一手に引き受ける令に逆らうことは、晩御飯を目の前にした今では禁忌である。
 仕方なく、すごすごとリビングへと戻っていく姉妹たち。その背中を見送り、解放されたことにほっと息を吐き出す。
「それじゃ、俺たちも手洗ってこようか」
 廊下を歩きだそうとする祐麒のシャツの裾を、景の手が掴んで引き留める。
「景姉さん?」
「……あの、ね。さっきの私の、本気だから。今まで妹たちに遠慮してきたけれど……やっぱり、負けたくないし。だから、その」
 音もなく近寄ってきて、祐麒の肩に手を添え、軽く背伸びするようにつま先立ちになって、景は祐麒にキスをした。
 ほんの一瞬の、素早い動き。
「だから、あの、もしも祐くんさえ良かったら、いつでも私の部屋に来て。私なら、いつでもOK、だから」
 囁くように言うだけ言うと、景は逃げるように自分の部屋へと入ってしまった。ちらりと見えた首筋まで真っ赤になっていた。
 景の温もりの残る唇を指でなぞりながら、祐麒は立ち尽くす。
「――おにぃ、鼻の下のびてる」
「って菜々っ!? えと、あのさ、今のは」
 ただ一人、菜々だけが残っていた。景は気付いていなかったのか、気付いていて開き直ったのかは分からないが、見られていたことは確実だ。
「わかってる、黙っててあげる、景姉のためにもね。でも、景姉もちゅーくらいでかわいいよねー。ねぇおにぃ、黙っててあげるから、菜々にもちゅーして」
 菜々が小さいころ、祐麒はよく遊び相手になっていて、その際にキスもしていた。それは、自分が景からされていたから、真似するように菜々にしていたのだが、そのせいもあってか菜々は兄妹姉弟がキスすることは当たり前だと思っている節があるのだ。
「うーん、まあ、後でな」
「えーっ、今がいいのに」
「もうご飯だから、ほらほら」
 菜々の頭を撫でながらリビングに向かう。菜々に甘いとはいえ、さすがに今の年齢で妹にキスするのは躊躇われる。菜々とは実際、小学生の低学年以来、キスなどしていない。

 思いがけず景から告げられた想い。
 景の唇の柔らかさと甘さを思い出しながら、祐麒は賑やかな食卓に向かうのであった。

 

つづく?

 

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