無事にミッションをクリアしたことを告げる音声を聞き、乃梨子は胸を撫で下ろした。他の生徒達との接触を回避するように行動することで時間がかかってしまったが、これでどうにか今しばらく命は保証された。既に使用済みの"懺悔の箱"もあったが、やはり三人で行動したことがよかったのか、複数の箱を見つけることでそのリスクも無事にクリアできた。
少なくとも、静と乃梨子の二人は。
乃梨子は顔をあげ、いまだミッションをクリアできていない蓉子の横顔を見つめる。
「大丈夫よ、乃梨子ちゃん。まだ時間はあるわ」
何が言いたげな乃梨子の視線を感じたのだろう、安心させるように蓉子は軽く笑みを浮かべてみせる。
「大体、想定通りだから。静さんと乃梨子ちゃん、二人のが解除できて僥倖だし」
いまだ自分の危機が去っていないというのに、非常に落ち着き払っていることに感服する。加えて他人のことまで気遣うなんて、どれだけ出来た人なのだろうと思う、この状況下にあってだから尚更だ。
この悪趣味なミッションが開始されてから既に三時間以上が経過している。即ち、ミッションのクリアに残された時間は既に三時間を切っていることになる。既に幾つもの"懺悔の箱"が使用されているうえに、陽が沈んで園内も随分と暗くて見えづらくなった場所が増えている。
各所の照明がついているから移動に困るということはないが、光の届かない場所にはなかなか目も届かないだろう。真っ暗にならないのは、視界がきかなくなることで殺し合いが止まってしまうことを恐れているからだろう。
「……それじゃあ、私は行くわ」
周囲を警戒しながら立ち上がり、蓉子はそう告げた。
「よ、蓉子さまっ?」
「あなた達は、このエリアから離れていなさい。まだクリアしていない子と鉢合わせになるかもしれないし」
「でも、私達も一緒にいったほうが、箱を見つけるにも誰かと出会ったときにも有利じゃ」
「静さんの足は、まだよくなっていないでしょう。気持ちは嬉しいけれど、それだったら、私一人で動いた方が多分、効率が良い。乃梨子ちゃんは静さんのサポートをお願い」
蓉子の言葉に無言で唇を噛みしめる静。
自身が足手まといになっていることは分かっているのに、どうにもできない歯がゆさがあるのだろう。
蓉子の言うことは間違いではないが、絶対に正解とも言い切れない。一人で探せば見逃す可能性も高くなる。三人なら、同じエリアを探していても異なる視点で探すことができる。だが、静の足を考えれば移動に無理はさせられない。
「――分かりました。でも、私たちは私達で未使用の箱を探します」
考えた末、乃梨子はそう結論づけた。
「私達も探しますので、万が一、蓉子様のほうで見つけることが出来ず時間だけがいたずらに過ぎているような事態になった場合、そうですね、15分前までにあの観覧車の下に来てください。私達も、探した結果を手にして向かいます」
むざむざと蓉子を死なせるわけにはいかない。生き残る可能性を高くするには、それがベターだと判断したのだ。
「……分かったわ。もしも私が来なかったら、その時は無事にクリアできたと思って」
蓉子の言葉に頷く乃梨子。
もちろん、素直に納得できたわけではない。間でどんなことが起きるか分からないし、アクシデントで戻ってこられない可能性もある。だが、今ネガティブなことを発言したところで何もプラスになることはないと分かっているから、乃梨子も蓉子もあえて余計なことを口にしない。
「それじゃあ、また後で」
「はい……必ず」
力強い意志を宿す乃梨子の瞳をやきつけ、蓉子は踵を返して走り出した。
(とはいっても、果たしてどうなるか……)
甘い考えを持たず、だからといって悲観的にならず、なるべく平静な心を保つようにして蓉子は園内を巡る。
次の19時に進入禁止となるのは、A-10、C-1、J-5の3つ。さらに21時にはC-4、F-1、I-2の3つ。幸い、"懺悔の箱"が設置されているエリアは禁止エリアとならない。もし、禁止エリアに箱があったらと考えると、禁止エリアを早く回っていかないといけない。
この辺は、果たして主催者側の手によって調整されているのだろうか。
とにかく探しながら移動、尚且つ他の生徒を気にしながらというのは時間がかかる。おまけに、ようやく探し当てた箱も使用済みだったりで、なかなかうまくはいかない。果たして今、どれくらいの生徒がミッションをクリアしたのだろうか。
時刻は19時を過ぎて進入禁止エリアが増え、もうすぐ20時になろうかとしている。さすがの蓉子も焦り出す。完全に夜になって視界も悪いし、状況はよくない。それでもできることはただ一つ、地道に探していくことだけだ。
そうしてライドタウンの一角で少し息を整えるために休んでいる時、不意にそれは起きた。
「――――っ、何っ!?」
今までとは異なる光が園内に広がり、眩しさに思わず手で目を覆う蓉子。
きらびやかにライトアップされ、更に音楽がどこからか鳴り響いてくる。
『…………さぁみんな、お待ちかねの"マジカル・ナイト・パレード"の時間よ。たくさん楽しんでね!』
スピーカーから万里矢の声が聞こえてきた。
万里矢の言うパレードとは、かつてこのテーマパークで展開されていたもので、マスコットキャラや華やかな楽団が煌びやかな姿を見せるもので、人気があった。それをなぜ、わざわざ今実施するのか。
『まだミッションをクリアできていない子も何人かいるわね。そんな子に大チャンス! このパレードの行進ルートの近くに、未使用の"懺悔の箱"があります。この機会をお見逃しなく!』
それだけを告げて、スピーカーから音は消えた。変わりに、おそらくパレードの音楽が大きくなって近づいてくる。
万里矢が告げたことが本当かどうかは分からないが、まだミッションをクリアできていない生徒なら、やみくもに探し回るよりも万里矢のことを信じて賭けるだろう。蓉子だってアテもないのだから、そう考える。となると、生徒同士がはちあわせになる可能性も高くなるし、もしも好戦的な生徒がいればこれをチャンスと、パレードに近づく生徒を影から襲うことだってあるかもしれない。
蓉子は僅かな間に考えをまとめ、動き出した。
音楽が聞こえてくる方角とライトアップされている状況から、パレードの進む道を想定する。何も、馬鹿正直にパレードについていく必要はないのだ。万里矢は、行進ルートの近くにあると言ったのだから、行進ルートさえ分かればその近辺を捜せばよいのだ。
そうして移動した蓉子の視線の先には、別の人影があった――
☆
高城典は焦っていた。
くだらないミッションだと思っていたけれど、クリアできなければ笑ってもいられない。いくつか箱はみつけたものの全て使用済みで、いまだにクリアできていない。そうこうしているうちに残り一時間、冷や汗が流れた時に万里矢のアナウンスだ。
罠かもしれないが、おそらくは真実を告げているだろう。まだクリアしていない生徒を同じ場所に集め、殺し合いをさせたいに違いない。
「ふん、だからって……」
肩から提げた散弾銃の感触を手に受け、心を落ちつけようとする。例え誰かと出会ったとしても、この散弾銃がある限りそう簡単にやられるわけがない。たいして狙いをつけなくて良い分、むしろ典の方が相手を上回る可能性の方が遥かに高いだろう。
周囲に人の気配はない。典は注意をしながら、それでも足早に音楽の聞こえてくる方、明るい方へと足を向ける。
そうしてやがて辿り着いた、パレードの集団。
といっても本物の人間は誰一人としていない。数台のパレードカーに乗っているのはどれもこれも人形はぬいぐるみ、それも腕がもげ、足が折れ、千切れて綿が飛び散ったようなものばかりで五体満足なのは見当たらない。
音楽とライトアップは非常に華やかなのに、その下にはスクラップか廃棄処分待ちのような人形ばかり。
「悪趣味ね……」
シュールな光景に目を奪われるが、今はそれ以上に重要なことがある。ゆっくりと自動運転で進んでいくパレードカーの動きを目で追いつつ、周囲に目をはしらせると。
「あった……?」
道の脇、あからさまに見せつけるように置かれている二つの箱。
前から置いてあったのか、それとも先ほどの万里矢の放送に従って置かれたのか、いずれにせよ典に選択肢はない。
素早く近寄り、手前にあった箱を持ち上げて近くの自販機の陰に身を潜める。近くに誰もいないことを確認してから、箱を開ける。
「……っ!?」
開けた瞬間、激痛がはしる。
「ぁっ、あああああっ!!?」
信じられないことになっていた。
「なっ……何よこれええぇっ!?」
ぼたり、ぼたりと地面に赤い滴が垂れる。
「手……手が! 私の、手があぁぁっ!?」
手に何かが突き刺さっている。
突き刺さっているどころではない、手の平から手の甲まで突き抜けていて、そこから血が滴り落ちる。
痛い。激痛だ。だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。これは何だ、明らかに『罠』だ。ということは、この『罠』を仕掛けた人間がどこかにいるのか。
「くあぁっ!?」
仕掛けた人間を探そうかとした直後、更なる激痛が典を襲う。手のひらが文字通り突き刺すような痛みなら、今度のは鈍痛。硬い何かが肩を直撃してその場に倒れる。目の前に、何やらボールのようなものが転がっていて、どうやらそれが当たったようだと知る。
この場所はまずいと、痛みを噛み殺して動き、ボールが飛んできた方向から身を隠すような自販機の位置に移動する。
誰だ、誰がこんなことをしてきた。
いや、そんなことはどうでもいい。このまま、やられてたまるか。
「……大丈夫、私は死んだりしない、やられてたまるか」
既に人を一人殺しているのだ、もはや典だって後には引けない。
肩から提げている散弾銃、これさえあれば撃退することなんてたやすいこと。
「くっ……手が」
だが、手に突き刺さっているモノがある限り、何かを握ったりすることも出来ない。
「畜生、こんな、こんなところで私は負けない、絶対に死んだりなんかしない!」
空いている左手で刺さっているものを掴む。
「うっ……あああああああああああっ!!」
引き抜き、投げ捨てる。
指に力が入らない。根元の半分当たりまで引き千切れている。大丈夫、他の指でも引き金を引くことができる、銃を持ち、引き金に指さえかけることができるならば。
散弾銃を血で濡らし、とりあえず典は自販機の陰から身を乗り出して撃ち放つ。狙いも何もあったものではないが、攻撃できることを示さなければいけない。
「誰よ、出てきなさいよっ? こんな……こんなこと……」
荒くなる呼吸を懸命に落ちつけようとする。緊張して舞台に上がった時だって、ここまで息が乱れたことはない。汗がべとつき、髪の毛が肌に張り付くのが気持ち悪い。
「大丈夫、大丈夫、これはかすり傷、私は主役、舞台の主人公がこんな途中で退場するなんてことありえないもの……っ」
いつしかのめり込んでいた演劇の道、それだけで食べていけるなんて思うほど夢想家ではないけれど、実力がないとも思わない。これから先、いかにして実力をのばしていくかによっては未来だって開けていくかもしれない。自分の人生の幕はまだ序盤を過ぎたばかりなのだ、こんなところで幕を引くわけにはいかない。しがみついてでも舞台の上に残り、カーテンコールを迎えるまでは退くつもりなどない。
「ふふっ……逃げたのかしら? そうよね、コレを相手に勝てるわけないものね」
散弾銃を掲げて典は笑みを浮かべる。
もしかしたら先ほどの発砲で倒してしまったのかもしれない。少なくとも、近くに誰かがいる気配は感じられない。
存在しているのは、道を通り過ぎて行くガラクタのパレード。ギラギラと趣味の悪い光を放ち、騒々しい音楽を響かせて進む間抜けな集団。
「そうだ、そんなことよりも、箱を……」
もう一つ箱があった。罠である可能性はあるが、確かめなければならない。手と肩が酷く痛むが、表情には出さないようにする。自分は女優だ、例え腕が折れようが、足が千切れようが、舞台の上で弱音は吐かない。
重い体を懸命に動かして歩き出したその時。
「――――え?」
ガクン、と急に足に力が入らなくなり、地面に膝をついた。
「な……何、これ…………」
口から涎が垂れる。
鉛のように重い腕をあげて口元を拭うと、べったりと付いたのは血だった。
「……っ……」
何で、血を吐いているのか。それだけではない。胸元から広がっている赤い染みは一体なんだというのか。
事態を把握できない典。ゆっくりと視線をあげると、目に入ってくるのはパレードカー。そして、パレードカーに乗った壊れたロボットやぬいぐるみたちと、その隙間から伸びている腕に握られた銃。
「な…………」
典が何かを言う前に、更なる銃弾が典の腹に吸い込まれた。銃声は、やかましい音楽にかきけされて聞こえない。
力なく、地面に体を崩れ落としてゆく典。
パレードカーからゆっくりと降りてきたのは、江利子だった。
江利子がとった手段は、棒手裏剣を"懺悔の箱"の中に罠として仕込み、近くで誰かがやってくるのを待つ。罠にうまくかかるかどうかは何ともいえなかったが、たまたま典が引っ掛かったので、そのままスリングショットで攻撃。
しかしその後、散弾銃で反撃されたのでこの場は撤退しようと一度は思った。だが、典が冷静さを失っていると見ると、パレードカーにそっと乗り込んで典を観察。スリングショットの放たれた方角から、襲撃者はパレードより後ろにいると思っていた典は全く江利子の方には注意を払っていなかったので、そのまま至近距離から典を狙い打ったのだ。
もしも外して散弾銃で反撃されたら? そのリスクは当然付きまとっていたが、このあたりでやられるようでは到底、『彼女達』に勝つことなどできやしない。だから江利子は勝負をして、そして勝ったのだ。
「散弾銃か……これを持てれば、かなりの攻撃力UPよね」
倒れている典の方に近づいていく江利子。さすがに、典も反撃する力は残っていないだろう。
あとは典の散弾銃を奪うのみ、余裕の表情で歩む江利子。
「――っ!?」
その江利子の目の前の地面が弾けた。
パレードが遠ざかっていく中で、銃の音も確かに聞こえた。気が付かなかったが、近くに他にも誰かがいたらしい。
弾丸の飛んできた方向に顔を向ける。
「…………あはっ」
相手の正体を見て、江利子は思わず声をあげてしまった。
「江利子……貴女……」
「ふふ、蓉子だったのね……」
そこには銃を江利子に向けて構える蓉子の姿があった。
「わざわざ姿を見せるなんて、蓉子らしいわね。しかも、先ほどの一発もわざと外したのでしょう、警告かしら?」
「銃なんて初めて撃つのに、狙って当てられるわけないでしょう。それよりも貴女」
「ええ、私はゲームに乗ったわ。他に選択肢なんてないじゃない」
「そんな、江利子……あっ、どこへ行くつもり!?」
江利子は蓉子に背を向けて走り出した。
銃をしまっている今の状況では、明らかに江利子の方の分が悪い。逃げる相手の背中に向けて発砲するような蓉子とも思えなかったので、思い切ってこの場を離れることにしたのだ。
いずれ、蓉子とは決着をつける。先ほど、本当かどうかわからないが江利子を撃たなかったことを蓉子に後悔させるのだ。
「――さすがね、蓉子。簡単に私の上をいってみせる。でも、だからこそ倒し甲斐があるってものよね」
走りながら江利子は、そんなことを考えていた。
一方で蓉子は、江利子が消えて行った方向をしばし睨んでいたが、やがて倒れた典のもとへと駆けつける。
脇にしゃがみこみ、典の腕をとる。
「…………っ」
既に、息は無かった。
蓉子は無念さを噛みしめる。目の前で典を死なせてしまったことを悔いる。もう少し、自分にもできることがあったはずではないかと。
「江利子、貴女……」
そして、親友の行動を、心情を、信じられない気持ちで思い出す。
ためらいもなく典を殺した江利子。
蓉子に向けられた、今まで見たことが無いような精気に溢れた表情。
「本当に……のったのね……」
典の瞼を閉じさせると、蓉子は散弾銃を手に取り、近くにあったダストボックスの中に捨てた。こんな危険なもの自分の手に持つのも恐ろしいが、だからといって放って置いておくわけにもいかない。ゴミ箱の中をあえて漁るような者もいないだろうと、不安はあったが放置するよりは良いと判断した。
「ごめんなさいね、こんな場所に寝かせたままで」
既に魂の抜けた典の体を見下ろし、蓉子は謝罪する。単なる自己満足だと分かっているけれど、そうでもしないとやってられない。
蓉子は首を振ると、気を取り直して残されていたもう一つの"懺悔の箱"に向かった。慎重に開くと、果たしてそれは未使用状態だった。
無事にミッションをクリアして息をつく蓉子。
もしかしたら、典と蓉子の立場は入れ替わっていたかもしれないのだ。ほんのちょっとの、運の良しあしで蓉子は生き延びた、それだけのこと。
「江利子…………」
親友の名を口にする。
江利子は危険だ。このまま放っておくわけにはいかない。
ならば……親友を止めるのも、親友である自分がやるしかない。
蓉子は胸の苦しさを堪えて、そう決意するのだった。
☆
「う~ん、結局、ミッション中に死んだ子は二人だけ……盛り上がりに欠けたわね」
モニタを見つめ、万里矢は呟く。
もっと派手になるかと思ったのだが、思いのほか生徒たちは慎重に行動して他の生徒と衝突しないように行動していた。戦闘よりも、首輪の爆発を解除する方に意識を傾けていたせいだろう。
だとしても、狡猾な生徒ならミッションのために動き回る生徒に狙いを絞って攻撃を仕掛けると思ったのだ。そのために時間も場所も限定したというのに、やっぱり育ちの良いお嬢様はこんな状況下でも違うのか。この辺は、万里矢が見誤ったということだろう。楽しんでくれているお客様に申し訳ないことをしたと反省する。
一方で、ミッションをクリアするために必死の形相でエリア内を走り回る生徒の様子は、それなりに楽しんでもらえてもいたようだ。
モニターを見る。
これでようやく、残された生徒は20人、まだ半分にもなっていない。園内のエリアの方は、随分と黒く塗りつぶされてきていて行動範囲は抑えられてくる。進入禁止エリアはランダムで選ばれているとはいえ、園内が分断されるようなことはないようにしている。一人だけ分断されて戦うこともなく最後まで残る、なんてことになったら興ざめだからだ。だが今回、勝者は二人と設定されているから、あえて分断してみるのもありかもしれない。
「姉妹で残ろう、なんて考えていたら、同じエリアに分断させられてしまった、なんてね」
お客が求めているのはエンターテインメント性だ。そういう意味では、信頼し合っている姉妹同士で殺し合うというのが、このリリアン女学園の生徒が選ばれた時点で望まれた展開でもあるのだろう。
まあ、万里矢が特に何もしなくとも、生死がかかった場面になれば人は簡単に相手を裏切ることができるから、勝手に殺し合ってくれるだろうが。
今後の展開を考えてみる。
現在のところ、最もやる気になっているのが鳥居江利子で、既に三人を手にかけている。『最多殺』を彼女に賭けている客は満足していることだろう。他の生徒はまだ一人ずつを手にかけただけだから、このリードは意外と大きい。
他でやる気になっていると思われるのは、志摩子と可南子か。可南子はともかく、志摩子は意外だった。おそらくリリアンの生徒達も志摩子を疑うのは難しいだろうから、ダークホース的な存在になるかもしれない。
また、由乃が意外なほど健闘しているが、体力的には既にかなり消耗していると見え、この先は厳しいだろうというのが揃った見解だ。
その他の生徒については、まだ目立った活躍は見られないが、この先行動が制限されて来れば、おのずと生徒達は顔を合わせ戦わざるを得ないはず。その時までの楽しみにしておけばよいのだ。
「さてさて、今の暗さじゃあ動きづらいでしょうし、もっと明るくしてあげましょうかね」
コンソールを操作し、万里矢は園内のライトアップを最大限のものにした。もちろん、まだまだ暗い部分はあるが、行動する分には十分以上の明るさが園内を覆っているはず。
「楽しませてちょうだいよぉ、みんな」
そうして。
本格的な夜がやってくる――
【残り 20人】