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【マリみてSS(由乃、祐麒他)】ぱられる! 13 熱くなれ! <前編>

更新日:

~ ぱられる! ~

 

 「ぱられる13  熱くなれ! 」 
<前編>

 

 長かった夏休みにもとうとう終わりはやってきて、二学期に突入した。
 二学期に入ると、二年生はイベントが山盛りで待っている。
 まず、先陣を切って9月に体育祭が開催される。10月の中間試験を挟んで、11月の頭には文化祭があり、11月下旬には修学旅行が待ち構えている。最後に、12月の期末試験と期末試験後の球技大会。
 修学旅行がある分、2年生は他の学年よりも密度の濃い時間を過ごすことになる。
「――と、いうことで、いよいよ体育祭が間近に迫りました! 我がクラスはチーム・イエローになります。優勝目指して、頑張りましょう!」
 教室の前に立ち、勇ましく、力強く演説をしているのは、由乃であった。隣には、高田鉄が仁王立ちしている。
「しっかし由乃ったら、体力なしの運動音痴なのに、よく体育祭実行委員なんてもの、やる気になるわよねぇ」
「運動音痴でも、こういうの好きなんだよ。オリンピックとか、世界陸上とか」
「ま、ウチのクラスはノリもいい方だから、いいんじゃない、あれくらい」
 蔦子、祐麒、小林の三人は、それぞれがそれぞれの思いを持って、教卓にいる由乃の姿を見つめている。
 体育祭は、各学年を縦にクラス単位で分けての対抗戦。学園自体がお祭り好きで、元気な高校生が開催するとなると、盛り上がらないわけがない。
 当然ながら全員参加が基本で、最低でも一人一種目は出場する必要がある。逆に、一人が出場できるのは最大で三種目である。
 また競技以外にも、応援合戦、看板作りといったものが行われ、それぞれも得点対象となる。
「でも現実問題、うちのクラスはあまり期待できないんじゃないか?」
 軽く肩をすくめる祐麒。
 何しろ由乃はもちろんのこと、蔦子だって運動は得意でない。男子だって、アリスは完全に文科系で、他を見まわしてみても、飛びぬけて凄いというキャラクターがクラス内には存在しない気がする。
 どのクラスにも大抵、運動部のエースクラスが一人や二人はいるものだが、祐麒の所属するクラスは、良くも悪くも平均的な人間の集まりに見えるのだ。もちろん、チームとしては一年、三年のクラスもあるので、全体を見ればエース級がいるのかもしれないが。
「こら、そこの狸顔! 戦う前から弱気なことを言わないのっ。大体祐麒は、中学の時野球部でピッチャーやっていたんだから、体育祭くらいは張り切りなさいよね。と、いうわけで、アンタはとりあえずリレー決定ね」
 一人で勝手に納得した由乃が、黒板に祐麒の名前を書く。色別対抗リレーの走者として。
「おまえっ、何、勝手に決めているんだよ! 俺はリレーはいやだ! 大体、野球をやっていたのは中学時代だろうが」
「アンタねえ、少しはクラスの役に立とうと思いなさいよ」
「だからリレーじゃ大して役に立てないって言ってんだよ!」
 立ち上がり、教壇の由乃と睨みあう。
 足が遅いとは思わないが、陸上部の連中や、サッカー部や現役野球部の連中に勝てるとも思わない。しかも、体育祭ラストの色別対抗リレーなんて目立つし、責任は重いし、冗談ではなかった。
「まあまあユキチ、もう諦めろって」
 小林が座ったまま、笑いながら祐麒を見上げてくる。
 同調するように、蔦子も口を開く。
「そうよー、由乃はね、祐麒くんがリレーで格好良く走る姿を見たいのよ。この前だってね、『祐麒は昔から足が速くて、リレーとか、びゅーんっ、って凄かったんだから!』なーんて目をキラキラ輝かせて話していたんだから。期待に応えてあげないとねぇ」
「なななななっ、つ、蔦子っ!! ああああたしはそんなこと言ってないーっ」
 わたわたと否定する由乃だが。
「なんだよ、結局はいつも通りの惚気かよ」
「相変わらず仲良し夫婦ねー」
「福沢くん、旦那さんとして、奥さんには格好良いところ見せてあげないとね」
 途端に、クラスメイトに囃したてられ、教室中が笑いに包まれる。
 結局祐麒は、全員参加競技以外に、色別対抗リレーと二人三脚障害走に出場することとなった。

 

 真美は憂鬱だった。
 運動音痴にとって、体育の授業、体育祭というものは、辛いものでしかない。出場する競技が団体競技だけならばよいが、個人競技があるとなると、それはもう当日に休みたくなるくらいで。
 しかし、今年の体育祭は少し事情が異なる。何せ、真美が出場することになったのは、『二人三脚障害走』で、しかも男女ペアの相手が祐麒なのだから。
 祐麒との二人三脚なんて、考えるだけで心臓がバクバク激しく脈動するくらいだが、足を引っ張ってしまうこと、祐麒に恥をかかせてしまうことを思うと、一気に気が沈む。
 友人の桂は、一緒に練習しようと声をかけてくれたが、少しくらい練習をしたところでどうなるというのか。残暑もまだ厳しい季節だが、真美の心の中はどんよりと湿りっぱなしであった。
 そんなこんなで出場競技が決まった次の日の放課後、新聞部の部活動に向かうべく校舎内を歩いていると、窓の外の裏庭の人影に目がとまった。数人の生徒が集まって、何かをしている。その中には、祐麒の姿もあって、だからつい見てしまったのだ。
 わずかに開いた廊下の窓から、声が聞こえてくる。
「よーし、もう一回いくぞー、せーのっ」
 縄跳びだった。
 クラスメイトの高田と、そして祐麒が縄の両端を持ち、数人の生徒が縄を跳ぶ構えをして待ち受けている。
 体育祭の競技に、確かにクラス全員での大縄跳びがあるが、クラス練習はまだ始まっていないはず。仮に先行して練習するにしても、4、5人で跳んでいるだけで練習になるのだろうかと、真美は首を傾げる。
 考えているうちに、縄が回り出す。人数も少ないため、問題なく回数を重ねられるように思えたが、まだ5回も跳んでないうちに、一人のリズムが狂っているのが明らかに分かった。
「よーーん、ご~~おっ」
「ふにゃぁっ!」
 足を縄に引っ掛けて、尻もちをついたのは、由乃だった。
「大丈夫、由乃?」
「あーっ、もう、くやしいっ!」
 蔦子の手を借りて立ちあがる由乃。
 どうやら、クラス全体練習をする前に、由乃に対する個人練習を行っているようだ。真美は運動神経はよくないが、長縄跳びならどうにか人並には跳べる。
 真美はふと、考える。
 運動が苦手だから、昔から運動会、体育の授業は嫌いだった。最下位争いをするのが常だった。それでいじめられたりしたわけではないが、苦しいし、惨めだし、楽しくなんてなれるはずがなかった。
 それが今年、由乃と同じクラスになって、密かに真美は安堵をした。由乃が運動音痴だということは知っていたし、実際に体育の授業で目の当たりにして、事実を確認した。真美よりも確実に足が遅く、確実に体力がなく、球技も、陸上競技も、全てにおいて由乃はほぼ、最下位ぶっちぎりだった。
 運動が苦手とはいえ、真美だって好きで最下位になりたいとは思わない。それが、由乃がいるならばと、凄く安心したのだ。自分よりもまだ下がいる、そう思うことで自分自身を慰めていた。
 由乃は小さい頃、心臓が弱く、運動など出来なかったと聞く。まともに体育の授業に出始めたのも、かなり最近からだとからしいので、運動が出来なくて当たり前。由乃が最下位なのは、皆も仕方がないと思うことだろう。
 だけど、由乃本人は違っていた。
 最下位になれば本気で悔しがるし、絶対に負けまいという気迫で挑んでくる。まあ、たいていは空回りなのだが、どんなに無様な姿をさらしても逃げもせず、恥しがるわけでもなく、真っ向勝負。
 学年の最初のスポーツテストで、自分自身の情けない記録にうなだれているとき、由乃に話しかけられたことを思い出す。

「はぁ、もう、いやだな、こんなの。私一人、すっごい記録低くて」
 記録が低いのも嫌だ。そんな姿を皆に見られるのも嫌だ。みんな、陰で真美のことを笑っているのではないかという、被害妄想じみたことだって考えてしまう。そんな、どんよりと暗い真美に、由乃は話しかけてきた。
「何言っているのよ真美さん、真美さんの方がずっといいじゃない。ほら、あたしの記録なんて、これよ、これ!」
 なぜか偉そうに自分の記録を見せてくる由乃。記されている内容は、確かにどれを見ても、真美より悪い記録だったが。
「でも、由乃さんは仕方ないよ。だって、小さいときからずっと、運動なんてしたことなかったんでしょう?」
 物心ついた頃から体が弱く運動したことないのに、動けるようになったからといって、運動能力が一気につくわけもない。比較してみて、真美は昔から大きな病気も怪我もなく、健康に育ってきての結果である。
 しかし由乃は、そんなこと言い訳にしなかった。
「今は完全健康体だもん、そんな昔のことなんて関係ないわよ。ああもうっ、本当に悔しい! よし、次のソフトボール投げで勝負よ、真美さん」
「えっ、そ、そんな?」
 首を横に振ったが、半ば強引に、勝負させられた。結果は、非常に低レベルな争いだったが、真美が勝利した。
「あーもー、あと30センチ! やるじゃない真美さん、この日のためにシャドーピッチングを繰り返してきたあたしに勝つなんて」
「あはは、でも、私達の記録、ビリとビリ2だよ」
「またそんなこと言う。いい、確かにビリかもしれないけれど、同じ高校生、つまりあたし達にはトップの人のレベルまで伸びる可能性がある、この中で一番、のびしろが残されているのよ!」
「そ、そうかなぁ?」
「そうなんだってば。よし、次はなんだっけ」
 由乃は親の仇を取りにいくような勢いで、次の種目へと向かっていった。その後ろ姿を見つめて、なんてポジティブなんだろうと思った。
 そして、記録を改めて見て、少し驚いた。
 確かにビリ2だけど、去年の記録よりもずっと伸びている。由乃に勝負だと言われ、今まで以上に熱く気合いを入れて投げた結果だった。

 窓の外を見る。由乃は真剣な表情で、縄跳びをしている。
「だからー、力が入りすぎで、高く飛びすぎ。そのせいでリズムが狂うんだって」
「でも、高く飛ばないと引っ掛かりそうで不安だし」
「縄を回す速度は一定に保つから、タイミングさえ間違わなければ、そんなに高くジャンプしなくても大丈夫だっての」
 そんな由乃だから、祐麒が由乃を見る目も、温かいのだろうか。
 真美だって、頑張らなければ。偶然とはいえ、祐麒とペアという権利を得たのだから。
 一人静かに、熱き想いを内に秘めていると、誰かが真美の肩を叩いた。
「……桂」
 振り向くと、友人の桂。
 桂は真美の肩に手を置いたまま、ゆっくりと頷いた。
「真美の気持ちは分かっているわ。さあ、勇気を出して、一緒に練習してもらうよう頼みに行きましょう。大丈夫、私も一緒に行くから」
「桂……っ!」
 友人の手を強く握り、真美も頷いた。
 そうだ、かつて偉人も言っていたではないか、諦めたらそこで締切り落ちだよ、と。
 真美は桂とともに、外へと出て行った。
 意欲を胸に秘めて。頑張って練習して、祐麒の足を引っ張らないようにしなければと、決意しながら。

「――みんなっ、真美も大縄跳びの練習に参加させてっ!」
「って、そっちーーーーーーーーーーっ!?」

 

 

 体育祭で競うのは競技だけではない。
 応援合戦に、各色をイメージしたマスコットを描く看板作り。基本的には、やはり最上級生である三年生が案を考え、リードしていくのだが。
「黄色といえば当然! タイガーしかないでしょう!」
 由乃が気勢をあげている。
「そんなに虎にこだわりがあるの?」
「当たり前じゃない、蔦子。大体、虎といえば神獣、中国の四神の中でも最も高齢という偉大なる生き物なんだから!」
「それ、白虎だから黄色ないし」
 由乃の勢いに押されたわけでもあるまいが、黄色組の今年のマスコトットはタイガーと決まり、看板作りも始まっている。
 絵心のあるものたちが中心に、虎を大胆に、荒々しく、描きだしていく。
 看板は、単に絵がうまければ点数が高いというものではない。アイディアや、ユーモアなども考慮される。
 事実、昨年の体育祭では、白組が『マリリン・モンロー』を題材に、白いドレスのモンローを描いたのだが、そのドレスのスカート部分には実際に布を張り、風によってスカートがひらひらと舞いあがるようになっており、その下はどうなっているのか!? との興味をあおり、見事に一位を獲得していた。
「うちのタイガーも、今年は3D化しよう!」
「適当なこと言うなよ。どうやるんだっての」
「それじゃあ、あれだ! 一休さんみたく、虎を追い出してくださいと」
「寸劇をするわけ? まあ、ウケるかもしれないけれど」
 勝手に盛り上がって話をするが、由乃は看板作り班に入っているわけでもないので、特に権限はない。実行委員ということで、見て回って偉そうにしているだけである。
 ちなみに応援合戦のメンバーからも、運動音痴で体力のない由乃は外れている。何せ今年の黄色組は、ダンスをする予定なのだから。
「私達、運動音痴組は、それぞれがそれぞれの役割を頑張ればよいのよ」
 言いながら、蔦子はカメラで体育祭の準備に勤しむ学生達の姿を、次々とフィルムにおさめていく。
 この場所にはいないが、真美は新聞部として、体育祭の記事を書くべく色々な所を見て回っている。
「えっと、えっと、じゃあ、あたしは?」
 手伝いたいのに、何かやりたいのに、何もできない。もどかしさに、由乃はじたばたする。心の奥では、分かっている。体育祭で、自分が大して役に立たない、むしろ足手まといだということは。
 それでも由乃は、体育祭が楽しみだったのだ。
 去年の一年の時、はじめてまともに体育祭にフル参加した。中学時代は、体は治っていたはずなのに、ドクターストップがかかっていた。だから昨年は、本当に楽しかった。競技に皆と参加できることが、こんなにも楽しいものだと、初めて知ったのだ。
「じゃあ、由乃に仕事をあげましょう」
「え、なになにっ?」
 蔦子が、ミネラルウォーターのボトルを差し出してくる。
「祐麒くんが今、リレーのバトン練習しているはずだから、差し入れを持ってってあげて」
「な、何よそれ。そんなの別に、あたしじゃなくても」
「由乃じゃないと出来ないでしょう。たっぷりの愛情もこめて、ね」
 からかうような蔦子の口調に、由乃の顔は赤くなる。
「やめてよね、変なこと言うのは」
 文句を言うと。
「そうそう、由乃にとっては仕事じゃなくて、いつものことじゃないのさ、蔦子」
「何せ夫婦だもんなー」
 看板作りをしていた同級生から、冷やかしの声があがり、途端に周囲の皆に笑われてしまい、由乃は首まで真っ赤になる。
「ううぅ、もう、蔦子の馬鹿っ!」
 賑やかな笑い声を受けながら、由乃は逃げるようにしてその場を後にした。

 

「もう、なんなのよ、他の学年の人もいるってのに、恥しいったらありゃしない」
 ぷんぷんとしながら、由乃は靴を履き替えて外に出た。体育祭が近づいてきている放課後は、各色チームとも準備に余念がない。
 由乃達の黄色組と同じように、看板作りに精を出す人たち、応援合戦の練習に声を張り上げている男子生徒、何やら大きな荷物を抱えて歩いている生徒もいる。誰もがみな、体育祭に向けて、盛り上がっている。
 こういう、祭りの前の雰囲気が由乃は好きだ。小さい頃から体が弱く、参加することができなかっただけに、他の人よりもきっと、ずっと、望んでいたこと。
「しようがない、祐麒のやつに、差し入れてやるか。あ、でも、頑張ってなかったら無しにしちゃうからねーっ」
 ミネラルウォーターのボトルを振りながら、歩いていく。祐麒はリレーの選手に選ばれており、リレーは勝負を左右する重大な競技ということで、黄色組合同のリレー練習が行われているのだ。バトン渡しの練習で、スムーズにバトンリレーをすることで、タイムロスを減らそうというものらしい。
 キョロキョロと周囲を見渡しながら歩いていると、少し先の方で黄色組らしき集団を見つけた。
 いや、正確には、祐麒がいるから黄色組の集団だと判別できたのだ。
 不思議なもので、どれだけ沢山の生徒が溢れていようと、その中に祐麒がいれば、すぐに見つけることが出来る。
 由乃は、歩く速度を上げていく。由乃の見ている先で練習が始まり、祐麒が走り出した。
「わ、速い……っ」
 驚いた。
 体育の授業は別だし、祐麒の走る姿なんて久しく見ていなかった気がするが、その速さに驚く。
 そして、真剣な表情で走るその横顔に、胸の鼓動が僅かに高まる。
 無言で、その姿を目で追ってしまう。
「……って、何を祐麒なんかに見惚れているのよっ! ああもうっ、おおい馬鹿祐麒っ!」
 頭を左右にふると、わざとらしく大きな声で呼びつける。
 走り終え、スタート地点に戻ろうとしていた祐麒が由乃に気が付き、向かってくる。
「どうした、由乃?」
「はい、これ」
「お、差し入れ? サンキュー、気が利いているじゃん」
 早速、キャップを開けて口をつける祐麒。
 豪快に飲む姿が、どこか眩しく見える。
「ま、まあ、一応、頑張っているみたいだし。あたしみたいな美少女からの差し入れがあれば、更に頑張れるでしょ?」
「なに、自分で言っているんだよ、ったく」
 手の甲で口元を拭う祐麒。
「ふふ、相変わらず、見せつけてくれるわね、お二人さん」
「うぉわっ!? びび、びっくりした……って、田沼ちさと! 何よ、気配消して近づいて、背後からいきなり声かけないでよ!」
「失礼ね、気配なんて消してないし。あなたが気がつかなかっただけでしょう」
 後ろに立っていたのは、田沼ちさと。剣道部の令の後輩であり、由乃ともかつて、同じクラスになったことがある。
「まあ、いいわ。それよりあなた達、相変わらずいちゃいちゃしているのね。本当に、いつでも、どこでも」
 呆れたように息を吐き出すちさと。
 由乃は慌てて、首を振る。
「いちゃいちゃなんて、してないわよっ! なんで、あたしと祐麒がいちゃいちゃなんて」
「あら、そうなの? 由乃さんと福沢くんって、付き合っているんじゃないの?」
「そ、そんなわけないじゃない」
「ふぅん……ま、いいけど。それより、今年も我が緑組の勝利は堅そうね」
 見下したように言ってくるちさと。
 由乃とちさとは、なにかとよくいがみ合う。由乃にとっては、決して相容れることのないライバルなのだ。
 もっとも、蔦子や祐麒にいわせてみれば、似た者同士でとっても仲良し、にしか見えないらしいのだが。
「な、何よ、そんなの分からないじゃないっ」
「でも、緑組には令先輩がいるしー」
 得意げに胸をそらすちさと。そういうちさとも、決して運動神経は悪くない。
「く~~っ!!」
 悔しそうに足踏みする由乃。
 実は昨年も、ちさとが属する緑組に負けている。ちなみに由乃は昨年は、黒組だった。
「そんなことない、今年は、チームイエローが勝利するわ!」
「じゃあ、賭ける?」
「いいわよ、何を?」
「ちょっと由乃、やめておけよ。去年もそれで痛い目に……」
「祐麒は黙っていて」
 止めに入ってきた祐麒を制する。
 ここまで言われて、黙って引き下がれる由乃ではないのだ。
「うちが緑組に勝ったら、なんでも言うこときいてもらわよ!?」
「去年のお返しってわけ? いいわよ、じゃあ、黄色組が負けたら、そうねえ」
 そこでちらりと、祐麒を見るちさと。
「デート、してもらおうかしら」
「「えっ!?」」
 由乃と祐麒が、同時に声を上げる。
「なな、何を考えているのよ、ちさとさんっ。でで、デートって」
 予想もしなかった要求に、狼狽しまくる由乃。
 慌ただしく、ちさとと祐麒のことを交互に見る。
「別にいいでしょう? 由乃さんと福沢くんは、つきあっているわけではないんでしょう」
「そ、それは、そうだけどぉ……」
「それとも、あ、そうか、自信ないんだ?」
「そんなわけないでしょう! いいじゃない、デートくらい、好きにすれば!」
 簡単な挑発に、それこそマニュアル通りにのってしまう由乃。予想のついていた祐麒は、黙って首を垂れる。
「大丈夫よ、祐麒。勝てばいいんだから。勝てば、ちさとさんとデートする必要なんて」
「ん、勘違いしないで。デートするのは、由乃さんよ?」
「は? あたし? なんで、あたしが。って、ちさとさんって、そうなの!?」
 思わず一歩、後ろに下がる由乃。
「違う、違う。んとね、実は私の再従兄弟が、由乃さんとデートしたいって言っててね。あ、再従兄弟も私と同じクラスなんだけど」
「…………はい?」
「そういうわけで、約束だからね、じゃあね~っ」
 手を振り、去ってゆく田沼ちさと。
 ちさとの後ろ姿を呆然と眺めやり、ゆっくりと、祐麒と目を合わせる。
「えっ、ちょ、ちょっと、あたしがデート!? なななな何それ、どど、どうしよう、祐麒っ!?」
「お、落ち着け、べ、別にデートするって、決まったわけじゃないだろう」
「そ、そうだけど、そうだけど、えええっ、ちょっと祐麒、絶対に勝ちなさいよ、え!?」
「凄むな、自分が勝手に約束したくせに!」
 思いがけない展開に、由乃も祐麒も混乱して、まともに話せない。
 戸惑う二人をよそに、騒がしい準備の時間は刻々と過ぎてゆき。

 

 晴天のもと、体育祭は開幕した――

 

後編につづく

 

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