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ノーマルCP マリア様がみてる 江利子 蓉子

【マリみてSS(蓉子×聖×江利子×祐麒)】三人と一人

更新日:

~ 三人と一人 ~

 

 携帯電話のディスプレイに表示されている文字を見て、思わず首を傾げた。

『鳥居江利子』

 昨年度のリリアン女学園の黄薔薇様である江利子。今年の正月、小笠原家で聖と知り合い、それをきっかけにして江利子や蓉子とも顔を合わせ、連絡先も交換したのだが、今までメールも電話も一回もやり取りをしたことがない。
 そりゃそうだろう、相手は社交辞令的に教えてくれたのだろうし、こちらにしても年上の女性で、接する機会など全くといっていいほど無い相手に平気で電話やメールできるほどの度胸など持ち合わせていない、対女性ということに関してはチキンハートの持ち主なのだから。
 それが、三か月以上の間を開けて不意に電話がかかってきたなんて、不思議に思うのも当然である。そもそも彼女達は、この四月から大学生になっているはずで、余計に高校生である俺になど用事はないと思われるのだが。
 時計を見れば、時刻はもうすぐ二十三時になろうかという時間で、こんな時間に電話がかかってくるというのもおかしいが、だからこそ何か急ぎの事態なのかもしれないと思い、とりあえず電話に出た。
「……はい」
 第一声は、恐れも入ったような、そんな一言。
『あ、もしもし、祐麒くんですか? 私、リリアンの鳥居ですけれど、覚えていますか?』
「はい、あの、お久しぶりです」
『お久しぶり、ごめんなさい、こんな時間に突然電話しちゃって』
「いえそれは大丈夫ですが、あの、どうしたんでしょうか」
『それが……その、申し訳ないんだけれども、今から出てきてもらうことはできないかしら?』

 

 教えてもらった場所に向かうために自転車をかっ飛ばし、都心方面に向かうガラガラの電車に乗って、多少道に迷いながらようやく目当ての店を見つけ出した。初めて入る店に少し緊張しながらも、扉をくぐって店内に足を踏み入れる。
 店員の案内を愛想笑いでやり過ごし、教えられた通りに奥の方に歩いて行くと、とあるボックス席にお目当ての相手を見つけることが出来た。以前に会った時以来、二度目ではあったけれどもすぐに分かったのは、やっぱり美人だからだろうか。
「あ、祐麒くんっ。ありがとう、来てくれてー」
 座席から立ち上がり、安心したような顔をする江利子。
 ヘアバンドで髪をまとめて額を出している姿は、前に見た時と変わらない。前髪で誤魔化せない分、このスタイルは顔の造作が前面に出されると思うのだが、江利子の容貌は申し分ないバランスにより美しさを保持している。
「本当、急にごめんなさい。こんな時に限って父も兄も仕事で家にいなくて、他に男の人の知り合いもいなくて、迷惑だとは分かっていたんだけれど」
「いえ、大丈夫です、俺でお役に立てるなら……はい」
 正直、年上の美人のお姉さんに頼りにされて、ちょっといいところを見せてあわよくば仲良くなれたりなんかして、という気持ちがなかったといえば嘘になる。むしろ、ほぼその気持ちがメインだったと思う。
 こちらの思惑を知ってか知らずか、軽く肩をすくめるようにして、僅かに前かがみになって下から上目遣いと、江利子は可愛らしい仕種と表情。
「ご両親の方には、ちゃんと私の方から後で説明しておくから」
「だ、大丈夫ですから、本当に。それより、ええと」
 視線を少し下に転じれば。
 テーブルに突っ伏している女性が一名。
 椅子に横たわっている女性が一名。
「酔い潰れちゃって……私も、まさかこんなことになるとは」
「どれだけ飲んだんですか」
「うーん、そんなに飲んでないと思うんだけどな。カクテルを2、3杯のあと、ワインを4,5本あけたくらいで」
「いやいや、飲みすぎでしょう!?」
 潰れてしまうのも分かる。というか、だとすると同じくらいの量を飲んでいる江利子が、顔こそほんのり色づいているとはいえ、けろりとしているのはどういうことか。
「……それより皆さん、未成年ですよね」
「それじゃあ、早速で申し訳ないんだけれど、二人を運ぶの手伝ってくれるかしら」
 誤魔化された。
 まあ、この期に及んでそんなことを言っても仕方ないわけで、呼び出された使命を果たすことにした。
 が。
「あの、触って、いいんですよね」
 こちとら生粋の男子校育ち、女性には慣れていない。
 すると江利子は、小悪魔のような薄い笑みを見せた。
「もちろん、そうしないと運べないでしょう。祐麒くんの好みのタイプの方を選んでくれていいわよ?」
「…………冗談言っている状況じゃないですよね」
「あ、もしかして私が一番のタイプ? それじゃあ、私も運んでもらおうかしら」
 やはり、江利子も酔っぱらっているようだった。
 呆れた顔をしている祐麒を見て、江利子は方目をつむる。
「ふふ、嘘、嘘。それじゃあ聖の方、お願いできるかしら。蓉子より聖の方が重いでしょうから」
 江利子が指さしているのは、椅子の上に横たわっている聖の姿。改めて、触っていいものだろうかと躊躇するが、今さらそんなことを言っても何にもならないので、決意を込めて聖の体に腕をまわして抱き起こす。
 同じように蓉子の体を起こそうとする江利子だったが、完全に意識を失っている蓉子を細腕で抱えるのは無理なようで、半分肩を貸す。
 結局、聖と蓉子の二人の体をどうにか支えながら店の外に出た。
「ご、ご、ごめんね、本当に」
 蓉子の体の半分を受け持っている江利子が、少し辛そうに口を開く。ぐったりして力の抜けている人間を運ぶのは、思っている以上に労力がいるのだ。その点、聖はまだ無意識ながらも足に少し力が入っていて、僅かながらも自分の力で立っている部分があるので、楽である。
「いえ、それで、これからどちらへ?」
 野球で鍛えていたとはいえ、体がさほど大きいわけでもないし、バカみたいな筋力があるわけでもないので、二人支えるのはさすがに厳しいものがある。女性の体の感触だなんて楽しむ余裕は全くない。
「と、とりあえず、蓉子の部屋に行きましょう。ここからなら一番、近いし、一人暮らしだし」
 という江利子の言に従い、ひいこらと歩いて行く。駅の反対側ということでタクシーも使わなかったのだが、ちょっと後悔。男だし大丈夫だと、変な見栄を張ったというのもあるが。
 蓉子をおんぶして、聖にも少し肩を貸してと、身の丈に合わない重労働をこなして辿り着いたのは、シンプルな作りのマンションだった。
 眠っている蓉子のバッグから勝手に部屋の鍵を取り出し、オートロックを解除してマンション内に入り、さらに三階にある部屋の鍵も開けて部屋の中に遠慮なく入って行く江利子。いいのだろうかと頭の隅で考えなくもなかったが、早い所、文字通りの重荷を降ろしたくて、余計なことは口にせずに室内に足を踏み入れる。既に呼吸は荒く、春の夜でまだ肌寒いというのに汗までかいて、腰も痛い。
 小さなキッチンを抜け、居室に入りこんだところで蓉子と聖を床の上に寝かせるようにして置いて、ようやく解放された。
「はっ、はあっ、くっ……キツかった、ホント」
 ぜえぜえと肩で息をする。
 額や首筋には汗をかいているけれど、口の中はカラカラに干からびていて変な息が喉から漏れている。歩いた距離はさほどでもないのに、かなりの時間を費やしたことを、携帯電話のディスプレイを見て確認する。
「ありがとう、本当に助かったわ、祐麒くん。聖の言う通り、祐麒くんを呼んで正解だったわ」
「え、聖さんが?」
「ああ、うん、そうなの。寝ちゃう前に、聖が貴方を呼び出せばよいっていって……もしかして、付き合っているの、聖と?」
「ええっ、ま、まさか!?」
 ぶんぶんと首を横に振る。
 本当に、なぜ自分が呼び出されたのかよくわからない。いくら他に男の知り合いがいないからって、呼び出すものだろうか。親を頼るなり、タクシーを呼ぶなり、他にもいくらでも方法はありそうなのに。
 だがまあ、今さらどうこう言っても仕方ないし、既に用事は終えているのだ。
「それじゃあ、俺はこの辺で」
「あら、もう電車ないわよ。泊まっていったら?」
「そういうわけにも、いきませんよっ」
 床に寝ている聖と蓉子のことをちらりと見て、慌てて目をそらす。聖はパンツだが、スカートの蓉子は太腿が覗いて見えてしまっているから。
「タクシーでもなんでも、ありますから」
「せめて少し休んでからにしたら? 喉、かわいたでしょう」
 江利子が二つのグラスをローテーブルの上に置き、一つを俺の方に差し出してくる。鮮やかな色のオレンジジュースを見て、喉が渇いていることを改めて思いだす。
「それじゃあ、ちょっとだけ」
「ふふ、どうぞ」
 言いながら、江利子もグラスに口をつける。
 俺もグラスを手に取ると、喉が渇いていたこともあって一気に飲み干した。程良く冷えた甘い液体が喉を通ると、疲れがすっと引いていくように感じられた。
「ぷはーっ、生き返るっ」
「あら、いい飲みっぷり。もう一杯、いかが?」
「あ、じゃあ、お願いします」
 空になったグラスを受け取り、江利子が立ちあがる。
 二杯目を受け取り、半分ほど飲んだところで、ふと気がつく。
「……これ、オレンジジュースですよね」
「スクリュードライバーだけど?」
「お酒じゃないですかっ!?」
「誰もオレンジジュースだなんて言っていないでしょう」
「俺は高校生ですよ!?」
「私だって未成年よ」
「えばらないでください」
 夕食もとっくに終えた夜中、適度な空きっ腹に一気にアルコールを流しこんだせいか、あるいは元々アルコールに弱い体質か、いずれにせよ次の瞬間から体が、顔が熱くなりだした。微妙に、視界も揺らいでいるようにみえる。
「わ、真っ赤」
「だ、誰のせいですか、か、帰ります」
 これ以上はやばいと思い、立ちあがる。玄関の方に向かおうと歩き出すが、素早く江利子が回り込んできて進路をふさぐ。
「ちょっと、本当に危ないから泊まっていきなさい」
「だ、大丈夫ですよ」
「大丈夫に見えないから」
 自分では大丈夫なつもりなのだ。江利子の姿が少しぼやけているようにも見えるが、これくらいなら問題ない。それにしても、自分はアルコールに弱い体質だったのか。今までお酒など口にしたことがないから分からなかった。
 両手を広げ、頑として行方を退こうとしない江利子をどうにか退かそうと、払うように手をふるう。
「――――え?」
 その手が。
 江利子の胸を掴んでいた。
「…………え?」
 江利子も、間抜けな声を出す。
 手を動かしてみると、手の平の中で柔軟に形を変える、柔らかな感触。雑誌やDVDで見るときには、もしも実際に触れられたらどんな感じなんだろうと、妄想力を何度も働かせたことのあるソレは、服の上からだというのにおそろしいほど気持ち良いものだった。
「ちょっ……え……」
 顔が赤らんでいく江利子を見て、鈍っていた思考がようやくまともになり始める。
「わ、わっ、ごご、ごめんなさいっ」
 弾かれたように手を離し、後ろに逃げるように跳んで、バランスを崩して、どうにか体勢を立て直そうとしつつうまくいかず、結局床に倒れてしまう。しかもその際、テーブルの上のコップを倒してしまい、二人分のスクリュードライバーの雨に襲われる。
「祐麒くん、大丈夫っ?」
 心配したように江利子が駆け寄ってくる。
 それほど激しく倒れたわけでもないので、体の方は全く無事であったが、服は相当な部分が濡れて汚れてしまっていた。
「あーあー、汚れちゃったわね。ま、これでもう今日は諦めて泊まっていくしかないでしょう」
「いえ、これくらい」
「もう、いいじゃない。大丈夫、ちゃんと朝になったら蓉子には私から説明するし、当然、祐麒くんとは離れて寝るし、何かしようとしてきたらぶっ飛ばしますから。私達のことを気にしてくれて、紳士でいてくれるのは嬉しいし有り難いけれど、呼び出しておいて突き返すなんて非道なこと、私にさせないでくれる?」
「……わかりました」
 頷いたのは、納得したというよりも一気に眠くなってきたからだ。色々と面倒くさくなって、さっさと寝て楽になりたいという思いが急速に膨れ上がってくる。
「とりあえず、シャワー浴びてきたら」
「いや、もう」
「駄目だって、そんなの。お洋服、洗濯しておいてあげるから」
 江利子の声が、遠くに聞こえる。
 どうやら本当に酒に弱いらしい。考えがうまいことまとまらない。
 ああもう。

 とにかく、さっさと寝てしまいたい――――

 

 自分のくしゃみで目が覚めた。
 微妙な肌寒さを感じて自分の姿を確認しようとして、奇妙な感覚に気がつく。誰かがすぐ隣に寝ているのだ。
 まさか祐巳のやつ、寝ぼけて部屋でも間違えたのだろうか。もう高校生だというのに、そんな馬鹿なことが、いや祐巳だったらあり得ないとも言えない気がする。まったくどうしようもないやつだ。
 そんなことを考えながら、頑強にくっついている瞼を強引に引き剥がし、目を開ける。
 飛び込んできた顔にまず驚く。
 祐巳ではない誰か、知らない美人の寝顔があった。
「うぉわっ、な、何っ!?」
 動こうとして、腕枕状態になっていて動けないことに気がつく。混乱して、どうしようかと、どうすればよいのかと一人でオタオタしていると、美人が身震いをした。どうやら、起こしてしまったようだ。
「…………」
 ゆっくりと、薄目が開いたところで、相手が蓉子だということにようやく気がついた。
 蓉子の目が少しずつ、更に開いていく。
「ん……」
 小さなうめき声が、艶めかしく耳に届く。ボタンが外れ、少し乱れたシャツの襟元から覗いて見える肌に、ドキドキする。
「ん…………ん!?」
 目を丸くした蓉子が、いきなり手を突いて上半身を起こした。
 凄まじい勢いだった。
 そりゃまあ、目を覚ましたらいきなり隣に男が寝ていたら驚くだろう。だが待て、こちらの事情も考えて欲しい。そうだ、昨夜いきなり呼び出されて、酔い潰れた蓉子を必死に部屋まで運んできたのだぞ。そんな、ギラギラした目で睨みつけないで欲しい。痴漢とか変態とかでは決してないのだから。
 頭の中では様々な言葉が渦を巻いているが、実際に口を突いて出るのは変な、呻くような声だけ。自分自身、相当に混乱しているようだった。
「ま、待ってください、俺は別に何もしてませんよっ? ほら、それが証拠に貴方の服も昨日のままで変わりないですよね」
 おかげで、皺にはなってしまっているが。
 どうにか身の潔白を証明しないと警察にでも突き出されてしまうと思ったのだが。
 次の瞬間。
 蓉子は身を震わせたかと思うと。

 

「……うぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇっ」

 

 吐いた。
「うわあああああああああああっ!!!!?」
「ひゃあああああっ、蓉子が吐いたっ!!?」
「あははははははっ!?」
 そして聞こえてくる悲鳴と、なぜか笑い声。
 見ると、カメラを向けている聖と、笑っている江利子の姿があった。
「ちょっ、え!? 何やっ……うわぁああああっ!?」
「うぅっ……おぇぅっ」
 俺にしがみつくようにしながら、えづく蓉子。

 

 こんな、見たらかつてのファンも泣きだしてしまうような旧三薔薇さまの地獄絵図のような朝が、俺を襲い。
 悲鳴と、呻き声と、笑声が、始まりを告げる鐘の音のように響いていた。

 

 これが、俺と蓉子さん、聖さん、江利子さんとの始まりの朝であった。

 

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