『山百合会新規プロジェクト立ち上げ!? 私の推しは薔薇の君?』
私の名前は二条乃梨子。
リリアン女学園の二年生にして白薔薇の蕾である。
そしてこの山百合会において、会の秩序を守るバランサーである。
先代の紅薔薇様である祥子様と黄薔薇様である令様が卒業されてしまい、秩序を保つ側に立つものが大きく減ってしまった。
なればこそ、この私が最後の砦となって山百合会に押し寄せる波濤を食い止める義務がある。
「乃梨子さん、随分と険しい表情をされていますけれど……はっ、もしかして、便秘ですか? 私、良いお医者様を紹介しましょうか?」
勝手に妄想してロクでもないことを口走ってきたのは紅薔薇の蕾の瞳子。
そこそこのお嬢さまなのに平気でそんな単語を口走ってくるとは、瞳子も祥子様が卒業されて随分と気が緩んでいるようだ。
「というか乃梨子様、それゲ〇ドウのポーズですよね」
リリアンらしからぬツッコミを入れてきたのは黄薔薇の蕾の菜々ちゃん。
最近、仲間になったばかりの一年生なのだけど、この子も相当の変わり種である。
なんで碇ゲ〇ドウとか分かるんだ。
オタクか。まあ、オタクだな。
まあ、そんな同じ蕾仲間の言葉は一旦置いておこう。
古い木造建てのこの薔薇の館、場所によっては普通に歩くだけでもぎしり、ぎしりと音を立ててしまうことは避けられない。
そして今まさにその音が大きく近づいてくる。
「――ごきげんよう。皆、はやかったのね」
扉が開いて姿を見せたのは現在の薔薇様方三人。
瞳子と菜々ちゃんが立ち上がって挨拶をする。もちろん私も二人にあわせるように挨拶をし、頭をあげてから、改めて入ってきた三人に目を向ける。
先頭で入ってきたのは私のお姉さまである志摩子さん。
相変わらず非の打ち所がない美しさであり後光がさしているのが見える。
志摩子さんの後ろからひょっこりと顔を覗かせてきたのが紅薔薇様である祐巳様。
こちらも相も変わらず背後に子狸のペルソナを宿しているのが見える。
いや、むしろ本人こそが喋る狸っぽいというか紅薔薇・ザ・ロイヤルというか。
そして、三人目。
「ごきげんよう、皆。ちゃんと集まってくれたのね、感心、感心」
と、私達の姿を目にして偉そうに頷いているのが黄薔薇様である由乃様。
お下げで細くて色白で華奢で、黙ってじっと顔を伏せていれば儚げな深窓のお嬢さまに見えるけれど、実際はそんな可愛らしいものではない。
お下げを自在に操り、「辮締旋風大車輪(※民明書房刊『中国拳法大武鑑』より)」で立ちふさがる生徒をなぎ倒すともっぱらの評判である。
本来は集まる予定の無かった今日、わざわざ呼び出しをかけたのも由乃様であり油断はできない。
由乃様が一年生の時は病弱でそれこそお姫様みたいで、妹にしたい下級生ナンバー1なんて言われていたようだけれど、恐らくそれはガセか妄想か何かだろう。
私が知っている由乃様の姿はイケイケ青信号。
そして祥子様、令様が卒業されてしまった今は暴走特急。
セガールか。
「皆に急に集まってもらったのは、大事な話があるからよ」
全員が着席した後、由乃様一人が椅子から立ち上がって残る五人に目を向けて口を開いた。
世間話も雑談も何もなし、いきなり本題に入るとはどういうことかと更に神経を研ぎ澄ませて由乃様を見つめる。
志摩子さん、祐巳様の様子を見ても、どうやら由乃様が何の目的でメンバーを集め、これから何を言おうとしているかは知らないようだ。
こういう時の由乃様はたいていロクなことを言ってこないはず。
とはいえ、薔薇様内でも根回しをしていないのならば、例えロクでもないことだったとしても跳ね返す余地はあるということ。
「新学年が始まって一ヵ月が経つけれど、やっぱり私達山百合会と他の生徒達って距離があると思うのよね。二、三年生はまだしも一年生は特に」
「それはまあ、一年生だし、まだ一ヵ月だから仕方ないんじゃないかなぁ?」
祐巳様が可愛らしく小首を傾げながら言う。
こういう仕草を無意識に行うのが天然たる所以。
そして祐巳様の正面の席に座っていた瞳子が「ぐふぅっ」とクリティカルダメージを受けていた。
「甘いわ、祐巳さん。そう言っているとあっという間に一年なんて過ぎていくわよ。私達はともかく、乃梨子ちゃん、瞳子ちゃんには素敵な妹を持ってもらいたいし、早く親しくなるに越したことはないのよ」
(アンタが言うか!?)
二年生が終わる三月にようやく妹を、しかも当時まだ中等部に在籍していた菜々ちゃんを妹にしたアナタが偉そうにそれを言いますか!?
口に出して突っ込みたかったけれど、さすがにそれは我慢した。
妹が出来た途端にマウントを取ってくるとは、とも思うが、由乃様にそういう気持ちはなく良かれと思って言っている所がなんともまた憎み切れないところなのが辛い。
「由乃さん、それで何かをしようというの? 今日の集まりはその検討会かしら」
志摩子さんがおっとりとした口調で言う。うん、女神。
「ふっふっふ、私、いいことを思いついたのよね。山百合会をアピールする良い方法」
もう完全に嫌な予感しかしない。
というかやる前から失敗フラグとしか思えない。
私は得意の無表情を顔に張り付けたまま、胸の前で得意げに人差し指を立てる由乃様の次の言葉に備える。
「山百合会新規プロジェクト、アイドルグループ立ち上げよ!!」
全く想像もしていない方向からボールが飛んできた。
誰もがポカンとした表情をして提案者を見つめている。
真っ先に動き出したのは、由乃様に首輪を繋ぐ責任を負う菜々ちゃん。
「あの、失礼ですがお姉さま。アイドルグループとは?」
「菜々、文字通りよ。山百合会で新規アイドルグループを作り、生徒達皆にアピールするのよ。アイドルといっても手の届かないアイドルではなく、会って握手やお話の出来る身近なアイドルね」
由乃様は自慢げに語っているが、想像をはるかに上回るヤベー提案である。
誰だ、この人を黄薔薇様にしたのは。
「ですがお姉さま、さすがに無理があるのではないでしょうか?」
そうだ菜々ちゃん、言ってやれ。
姉の暴走を止めるのは妹の役目だ。
「――アイドルグループを作るなら祐巳様だけでなく先々代の蓉子様と江利子様、それに真美様がいないと難しいのではないかと」
なんでだよ!?
パステルでもアイドル伝説でもようこそでもクリィミーでもないよ!
っていうか菜々ちゃん、さっきから古くない!?
「大丈夫よ菜々。皆も、山百合会のアイドル姿を想像してみなさい」
「…………」
由乃様に言われ、私もつい頭の中でイメージを膨らませてしまつた。
それはアイドル衣装に身を包んだ志摩子さん。
アイドルといえばやっぱり制服風の衣装だろうか。フリルやリボンが多くあしらわれ、髪型もツインテやハーフツインなんかにして、スカートは定番のチェック柄で当然ながらミニスカート。
(……良き…………)
思わず鼻血が出そうになるのを堪えながら薄目を開けると、他の人も多かれ少なかれ頬を薄くピンク色に染めてにやけた表情をしていた。
おそらく、それぞれの姉・妹のアイドル姿を想像していたのだろう。
だからといって、それだけでアイドルをしようなんて考えるほど安直では――
「――素晴らしいアイディアだわ由乃さん、是非やりましょう」
「由乃さん、天才!」
志摩子さんと祐巳様が由乃様の手に手を重ねて熱量のこもった声で言う。
そうだった、ここにいる薔薇様たちは皆、姉バカだった!
ていうか、アイドルグループ立ち上げるなんて言って、それって犠牲者は確実に下級生の私達じゃないか!
「ちなみにユニット名は既に決めているわ……ずばり、『B小町』よ」
「いや、それはさすがに駄目でしょう!?」
私もとうとう我慢できなくなり、勢いよく立ち上がると上級生である由乃様にツッコんだ。
「え、なんで? 『B(薔薇)小町』よ? でもほら、薔薇をあんまり前に押し出しすぎるのもどうかと思ってあえてBにしたのよ。どうよこの奥ゆかしさ」
「余計な気遣い!」
「それに紅薔薇、白薔薇、黄薔薇の三色でサイリウムカラーも三色でちょうど良いし」
「確かにそれはちょうどですけど! いやでも、だからこそっ!」
息遣いが荒くなる私の肩に、そっと手が置かれた。
視線を移せば、志摩子さんが慈愛のこもった菩薩のごとき瞳で私を気遣うように見つめている。やはり志摩子さんなら分かってくれると思っていた。
「大丈夫よ、乃梨子」
「志摩……いえ、お姉さま……」
「センターは白である乃梨子よ」
「別にセンターになれるかを気にしているわけじゃないですからねっ?」
「えっ……じゃあ……何をそんなに不安になって……?」
「心底驚いたような顔して昔の少女漫画みたいによろけないでくださいっ、何がもなにも不安とか以前の問題ですから!」
志摩子さんに対してそんな大声を出したいわけじゃないけれど、さすがに放っておくわけにはいかなかった。
いくら志摩子さんがキラキラした目で私を見てきて、その瞳の中に私がアイドル衣装を着た姿があると分かっても、こればかりは頷けない。
「ふふ、分かっているわよ乃梨子ちゃん」
と、絶対に分かっていない由乃様が不敵な笑みを浮かべる。
この人、日を追うごとに不敵な笑みの浮かべ方ばかり上手くなっている気がする。
「センターは私の妹がいるから無理、聡い乃梨子ちゃんはそれが分かっているから不安なのよね?」
由乃様は菜々ちゃんの両肩に手を置いて自慢げに言うけれど、ちげーっつーの。
「由乃さん、それは聞き捨てならないわね。どうして乃梨子がセンターを譲らないといけないの?」
「そんなの分かるでしょう……なんたってこの子は“有馬菜々”、“有馬なな”なのよ! B(薔薇)小町のセンターにふさわしい名前だと思わない!?」
それは確かにそう!
だけどそうじゃない!
「お姉さま、それはそれで困ります」
そこで菜々ちゃんが口を挟む。
肩に置かれた由乃様の手を優しく振りほどき、その場に立ちあがり由乃様と相対する。
本気で困ったような表情をしており、これは少しは期待できるのではなかろうかと次の言葉を待つ。
「できれば私は黄色枠、癒し系おバカキャラの動画系インフルエンサー・NANAちょとして活動したいです!」
はい、やっぱり駄目でした。
私は頭を抱えたくなる。
「大丈夫よ菜々、センターとの両立は成立するわ」
「待って由乃さん。菜々ちゃんはまだ一年生で蕾としては最も経験も少ないわ。ここはやはり、蕾最古参である乃梨子がセンターになるのが最も座りが良いと思うの」
「甘いわね志摩子さん、アイドルは実力の世界。その中でもセンターは歌って踊れる花形ポジション。そこに顔面筋肉の硬直した仏像フェイスの乃梨子ちゃんが相応しいと思う?」
「それが堪らないのじゃない、マニアには受けるわ」
「いやマニア受けとか嬉しくないし、志摩子さんもそんなこと思っていたの!?」
むしろ私はそっちの方がショックだよ。
「……由乃さんも志摩子さんも、少し落ち着いて」
そこで、今まで沈黙を保っていた祐巳様がついに口を挟んできた。
音もなく立ち上がったその背後には、ゆらゆらと暗黒の気をまとった子狸ペルソナが浮かんで見える……いや怖くないな、コレ。
「歌って踊れる花形? そこに乃梨子ちゃんと菜々ちゃんでは……ちょぉ~っとばかし、役者不足じゃないかな」
口元に指をあてがい、妖艶な笑みを浮かべる祐巳様。
「それはどういう意味かしら?」
「祐巳さんでもちょっと許せないかもね」
「乃梨子ちゃんも菜々ちゃんも確かに可愛いよ……でも、うちの瞳子はなんたって女優! 舞台に立つほどその輝きは増すの! 観客を虜にする笑顔、吸い込まれるような瞳、ステージの上では常にそういう姿を見せないといけない。それが誰よりもできるのが瞳子なんだから! 女優からアイドル、そこれそセンターっぽいキャラじゃない!?」
ばばーん!
という感じで瞳子に向けて手を広げる祐巳様。
「――お姉さま、いい加減にしてくださいませ。女優である私にアイドルをやれと言いますの?」
瞳子が鋭い視線を祐巳様に向ける。
お、いいぞ瞳子、言ってやれ。
あんただけが頼りだよ!
「……で、でもまあ、お姉さまがそこまで言うのでしたら、や、やって差し上げないこともないですけれど?」
いつの時代のツンデレだよ!?
チョロすぎるにも程があるよ!!
祐巳様に褒められたからってあからさまに嬉しさを隠そうともせず尻尾を振るとか、あれだけツンツンしていた瞳子のアイデンティティはどこに売り払っちゃったの!?
私以外にまともな人がいない、駄目だこの人たち、早くなんとかしないと……っ
「ま……待ってください。そもそも私達がやる前提になっていますけれど、アイドルグループならお姉さま方がユニットを組んでも良いではないのですか?」
私はなんとか歯を食いしばって流れに抗い、逆提案を行った。
いきなり取り下げさせるのが無理なら、カウンター。
アイドルをやらせようとすることが出来るのは、アイドルをする覚悟がある人だけ。そうじゃないと説得力がない。
私は由乃様を睨みつけるように見つめるけれど、由乃様は余裕しゃくしゃくの様子。
「甘いわね、乃梨子ちゃん」
「何が……ですか?」
「いい、考えてみて。志摩子さんが日本舞踊ではないアイドルのダンスが出来ると思う? 祐巳さんに安来節以外の踊りが想像できる? そして体力無し、運動神経ゼロのこの私にアイドルのパフォ―マンスが出来ると思う?」
「くっ……そ、それは、確かに……っ」
完璧な反論だった。
っていうか同級生とはいえ同じ薔薇様に失礼だな、って思っていたら由乃様の隣に立つ志摩子さんと祐巳様もドヤ顔で頷いていた。
「さすが由乃さん、私達のことをよくわかっているわね」
「本当、こればっかりは私達じゃあ無理だよね、妹たちだけが頼りだわ」
いや違う、これ単に妹達のアイドル衣装が見たいだけだ!?
本来なら味方となるべきはずの蕾二人は役に立たず、三人の薔薇様は結託して私達にアイドル活動をさせようとしている。
だけどここで諦めてはいけない、リリアン女学園に高等部から編入して首席の座を確保している頭脳をフル回転させて解決策を導き出すのだ。
「そっ……そうだ、別にアイドルグループは三人である必要ないじゃないですか。私達六人全員で組めばいいのですよ」
起死回生の一手は、相手も引きずり込む泥試合。褒められたものではないけれど、私達も否定しないのならお姉さまたちも断れないはず。
そしてそれが嫌なら提案そのものを引き下げざるをえないはず。
「でも六人だとフォーメーション的にセンターができないじゃない?」
「ダブルセンターでいけます!」
「そうすると三色のうちどれか一つだけ余ってしまうし」
「ダブルセンターは当然、同色の姉妹でしょう?」
「……っ」
由乃様の表情が変わる。
妹のアイドル姿は見たいけれど、自分がアイドルするのは嫌だという気持ちが透けて見える。
(さあ、どうしますか由乃様、今なら全てをなかったことに出来ますよ?)
(やるわね乃梨子ちゃん、やっぱり貴女が最大の障壁だったわね……)
室内にひりついたような空気が充満する。
これなら押し返せる、ひっくり返せると私が思ったその瞬間、由乃様の口の端が僅かに上がった
「甘いわね乃梨子ちゃん、私が他に何も用意していないと思ったの?」
「な……っ?」
直後、扉をノックする音が響いて思わずびくりと反応してしまう。
話に夢中で、足音が近づいてくることに気が付かなかったのだ。
「――どうぞ?」
私が何かを言う前に、由乃様が勝ち誇った表情で扉の向こうに声をかける。
ゆっくりと扉が開いて姿を見せたのは――
「ごきげんよう、皆様方」
「ごきげんよう、真美さん、蔦子さん」
七三メガネ!
もとい、新聞部と写真部!
聡い私は全てを察した。
リークだ。
先行して報道関係者に情報をリークし、学校内にそれとなく噂を流し、生徒達の期待を膨らませ、私達が後には引けない状態にする気なのだ。
この空気感の醸成というのは馬鹿にできず、知らず知らずのうちに本人達を置き去りにして決定事項のようになってしまうこともある。
「何か今日は重大な発表があるって聞いたんだけど?」
蔦子様が眼鏡をキラリンと光らせて問いかけてくる。
上級生お二人の会話、ここに下級生の私がいきなり入り込むことはできない。それも由乃様の計略の内だと思うと、悔しくて歯噛みするしかない。むぎぎ。
「そう、まだここだけの話にしてほしいのだけれど、実は今度山百合会から蕾の三人をアイドルデビューさせることにしたの!」
青信号(この人)、初手からぶっ放してきた!?
私達が口を挟む間もなく既成事実にするつもりなのだ。
「アイドル……なるほど、ユニット名はさしずめ“B小町”とでもいうところ?」
七三、もとい真美様が言うけれど、なんでわかるんですかっ!?
「そう、歌って踊れて握手も出来てチェキも撮れる、全生徒に身近なアイドルよ」
由乃様が“サインはB(薔薇)”の決めポーズ(仮)で宣言する。
「それは……」
「素晴らしいアイディアね」
お二人も既に篭絡されている。恐らく今、お二人の頭の中では私達がフリフリのアイドル衣装を着て踊っている姿が再生されていることだろう。
万事休す、ここまでかと思ったその時。
「あの……」
「一つよろしいでしょうか?」
真美様と蔦子様の後ろから、高知日出実さん、内藤笙子さんがひょっこりと姿を見せた。
「何かしら?」
由乃様は後輩に対して余裕のためか優しい笑顔を見せる。
「あ、もしかして貴女たちも入りたい? 五人グループならアリだから考えるわよ」
「いえ、その……蕾の皆様のアイドルが見られたらそれはとても素晴らしいと思いますけれど……」
「笙子さん、こういうときははっきり言うべきよ。黄薔薇様、そのアイドル活動資金はどこから出るのですか?」
「え……それはもちろん山百合会の予算から……」
と、由乃様が言いかけたところに被せるようにして日出実さんが口を開いた。
「山百合会にも当然予算はありますが、それは文化祭や体育祭など学園行事で使用するためのものです。仮にアイドル活動を文化祭で披露するにしても、例年の予算と比べて大幅に追加が必要になりますよね。中途半端な安物アイドル衣装を蕾の皆様に着て頂くわけにはいかないですし、他の人が許してもアイドルガチオタの私が許しません。また山百合会の活動においてチェキや物販などで収益を得るといった営利活動ができないのはご存じですよね。カンパやクラウドファンディングも規範を見る限り不可です。それ以外にも、薔薇の蕾の皆様が歌うのでしたら既存の楽曲ではなく新たな曲の書き下ろしが必要です。作詞・作曲・編曲、また舞台上の演奏もバンドを呼んでの生演奏が相応しいと思いますし、ダンスの振り付けもプロに依頼する必要があります。その辺を発注するとなると……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って日出実ちゃん、しょ、しょんにゃ、ガチでやらなくても……」
日出実さんのガチトーンに由乃様が及び腰になって言いかけると、日出実さんの表情は変わらないのに背後に般若の姿が見えた。
「――は? 蕾の皆様にアイドルをして頂くのに、そんな中途半端な考えでいたんですか? 蕾のファンとアイドルオタの両方を舐めてます!?」
「ひいぃぃぃぃっ、ご、ごめんなさいぃぃっ!!」
完全に目の据わった日出実さんに言い負かされた挙句、その後も延々と説教を受けてアイドル論を語られる由乃様は涙目だった。
なお、私達は先に解散した。
そして私は今後、日出実さんにアイドルの話を振ることはやめようと心に誓ったのであった。
===
そして後日。
「――あら乃梨子さん、何を書いてらっしゃるの?」
私が薔薇の館で机に向かっていると、後からやってきた瞳子が興味深げに覗き込んでくる。
「ん、ああ瞳子か。いや、お姉さまたちが私達に妹を作るよう言っているじゃない。でも、誰を妹にするにしても、欠かせない大事なモノってそれぞれあるじゃない。瞳子だってあるでしょ。それを“妹条件シート”に纏めているの」
「それは奇特なことを。まあ……でもそういうのって感覚的なモノが大きいのではなくて?」
「勿論、それもあるけれど、当然として外せないモノもあるじゃない」
そう言いながら、私は最重要項目を記載したのであった。
必須スキル:ツッコミ
と――
おしまい